バリュー投資再考 -林 茂-

2014/07/22

株式投資のスタイルや手法に、成長株投資や割安株投資というものがあります。
成長株投資とは市場平均を上回る成長(営業利益や一株当たり純利益<EPS>の成長を指す場合が多い)が期待できる銘柄に投資するというものです。日経平均株価の来期予想EPSの伸び率は12%程度ですので、これを上回るEPSの成長が期待できる銘柄に投資することは成長株投資と言っていいでしょう。
一方、一般的に割安株投資と言われるものは、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)が市場平均を下回る、もしくは配当利回りが市場平均を上回る銘柄に投資するものを指します。ちなみに7月 17日現在の日経平均の来期予想PERは14.83倍、PBRは1.28倍、そして配当利回りは1.50%(数字はいずれも7月18日付け日経新聞より)となっています。
割安株投資のことをバリュー投資と言うこともあります。

そこで、英語のバリュー(value)とはそもそもどういう意味なのでしょうか。手元の英和辞典で調べますと、価値、値段、対価、正当な報い、と言った訳語が出てきます。割安という意味はなさそうです。割安株投資=バリュー投資という表現はどうやら言語的に正しくないようです。

バリュー投資の始祖と言われるベンジャミン・グレアム(1894年~1976年)が1934年に著した『証券分析』という古典的名著があります。その中でグレアムはバリュー(Value)を文字通り価値と定義しました。そして証券(株や債券など)が本来持っている価値のことを「本質的価値」と命名しました。そして証券の時価(市場で取引されている値段)はその本質的価値から常に乖離していると指摘しました。そして本質的価値から乖離している時価は時間の経過とともに自律的に修正されることを見出したのです。実践的な投資的観点から言えば、本質的価値に比べて時価が割安に評価されている証券を買うことにより、乖離が修正されていく過程で、投資収益を獲得できるということです。

さて、本質的価値とは一体どうやって見出すのでしょうか。グレアムは企業の価値には「資産のバリュー」と「収益力のバリュー」があるとしました。資産のバリューとは企業の「流動負債-負債総額」と定義します。企業の清算価値に近い概念です。そして株価が一株あたりの「流動資産-負債総額」よりも大幅に割安に取引されている株式のことをネット・ネット株と呼びました。
一方で、収益力のバリューとは、『証券分析』では過去10年間のEPS の合計としました。
具体的な例として挙げられているのが、J.I.ケースという米国の農機具メーカーのケースです。この企業の1923年から1932年の10年間のEPSを合計したものは94.6ドルです。この企業の株価1934年には 30ドル前後で取引されていました。本質的価値94.6ドルに対して時価は30ドルです。ちなみに上記数値をもとにPERを計算すると3.17 倍となります。当時は1929年に始まった大恐慌の直後で、誰も新たな設備投資などしない、もしくは新たな農機具を買ったりしない状況だったので、この銘柄は収益力のバリューから見た本質的価値を大幅に下回る値段で取引されていたのです。この時にこの銘柄を買った投資家は時間の経過とともに多大なリターンを得られたことでしょう。

ここで非常に大事なインプリケーションは、グレアムは将来の利益成長などの予想は一切していないということです。企業の財務諸表からその企業の本質的価値を求めました。当時からアメリカには証券アナリストという職業が存在していたのですが、彼らの多くは企業の利益成長の予想やテーマの発掘という観点に重きを置き銘柄を推奨していたのですが、その利益成長の予想は非常に不正確なものでした。そして株式投資といえばより高い成長が期待される銘柄をいち早く発見して投資すると言った投機的な色彩が強かったのですが、そのような状況下、将来を予想することの難しさと、高い成長は未来永劫続かないということを喝破して、予想をしない投資コンセプトを打ち立てたグレアムは非常にユニークであり革新的でした。

そして彼のコンセプトは綿々と受け継つがれ時代を下るとともに洗練され、今ではモダン・バリュー投資というフレームワークを確立するに至っています。モダン・バリュー投資も基本的な考え方はグレアムのそれと同じで、予想はしない、利益成長はおまけ程度に考えるという極めてディスプリンの高い投資手法となっています。

先日、マネックス証券様において「グレアム=ドッドに学ぶ、モダン・バリュー投資の考え方」というセミナーを実施致しました。下記URLで録画をご覧頂けます。 http://www.monex.co.jp/AboutUs/00000000/guest/G800/new2014/news1406_27.htm
TIWでは今後、モダン・バリュー投資の考え方に則った、個別銘柄のレポートやモデル・ポートフォリオのご提供を行っていきたいと考えております。

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独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。

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