新型コロナがインフレを招く可能性を考える

2020/05/08

■外出の自粛等に起因する需要減で不況は深刻
■生産、流通の現場が労働力不足に陥るかも
■国際的な食料輸出規制の動きにも要注意
■大胆な金融緩和がインフレの「燃料」に
■スタグフレーションになると金融政策の舵取りは困難に

(本文)
新型コロナ不況がインフレを招く可能性は皆無とは言えないので、メカニズムを考えてみた。リスクシナリオとして頭の片隅に置いておきたい。

■外出の自粛等に起因する需要減で不況は深刻
新型コロナ不況が深刻化している。緊急事態宣言が延長されたので、いよいよ資金繰りに行き詰まって倒産する飲食店等々が激増しそうである。そうなると、失業が増え、所得を失った人が消費をしなくなるので、新型コロナの収束宣言が出ても需要が戻らないかも知れない。不況の深刻化である。

その場合には、需要が供給を下回るので、物価は下落基調(デフレの再燃)となるはずである。これが現在懸念されている新型コロナ不況である。

これに対しては、とにかく倒産を回避すべく中小企業への資金繰り支援に全力を尽くすしかない。収束宣言までは「金を配ってもらっても出歩けないので消費が出来ない」ため、需要の喚起は困難だが、人々の雇用と所得を保っておけば収束宣言と共に消費等の需要が戻るはずである。

これ以上の金融緩和は効果が小さそうだ、とか財政赤字が拡大してしまう、等々の問題はあるが、「背に腹は代えられない」であろう。実際、各国の政府や中央銀行は大胆な政策を採用している。

■もしかするとインフレが来るかも
これに対し、生産等に携わる労働者が大量に罹患して働けなくなった場合、供給力が大幅に落ち込んで需要を下回るかも知れない。そうなるとインフレになりかねない。

労働者数が全体としては足りていても、重要な製品の重要な部品を作る工場が罹患者増で止まってしまうと、重要な製品が作れなくなってしまうかも知れない。

たとえば自動車エンジンの重要なネジを独占的に供給している部品メーカーがあったとして、その工場が止まると世界中の自動車生産が止まってしまうかも知れないのである。

失業した人が罹患した人の仕事を引き継げれば良いのだが、実際には難しいであろう。そうなると、インフレと失業が同居する事になる。スタグフレーションである。

マスクやトイレットペーパーの例を見ると、日本のメーカーも小売店も「需要超過なら値上げ」という行動パターンはあまり取らないようだが、それでも消費者物価指数を見るとマスクは値上がりしている。したがって、幅広い品目で品不足になれば、インフレになる可能性は十分にあるだろう。

■国際的な食料輸出規制の動きにも要注意
新型コロナの流行に際して、食料の備蓄を増やす動きが世界的に広がっているという話を聞く。食料の輸出を規制する国も出てきているようだ。

農作業を外国人労働者に頼っている国で農業生産が落ち込む、といった話も聞こえて来る中、「何が起きるか不安なので、最低限食料だけでも確保しておきたい」、という事なのかも知れない。

もしも本当ならば、トイレットペーパーで起きた事と似たような事が食料に関して世界的規模で発生することにもなりかねない。人々が「足りなくなるといけないから多めに持っておこう」と考えると本当に足りなくなる、という現象である。

食料の価格が上昇すると、人々のインフレマインドが醸成され、他の品目にも値上がりや買いだめの動きが広がるかも知れない。

■大胆な金融緩和がインフレの「燃料」に
日銀は大胆な金融緩和を続けて来たため、世の中には巨額の資金が供給されている。それがインフレをもたらすという経済学理論があるにもかかわらず、これまではインフレは起きて来なかった。それは、人々が「インフレは来ない」と考えていたからである。

しかし、ひとたびインフレが発生すると、人々は銀行預金を引き出して「買い急ぎ」に走るかも知れない。そうなると、インフレ率が急激に高まるかも知れない。燃料が積み上がっている所にライターで点火するようなイメージである。

消費者のデフレマインドが根強い事を考えると、買い急ぎも限定的であろうから、一気にハイパーインフレになる事は考えにくいが、それでも通常程度のインフレが発生する事は十分に考えられよう。

あるいは、各国中央銀行の超緩和を背景として世界的なインフレが発生して、日本でも輸入インフレに悩む事になるかもしれない。

■スタグフレーションになると金融政策の舵取りは困難に
新型コロナ不況とインフレが同居するとなると、それはスタグフレーションである。そうなると、金融政策の舵取りは極めて困難である。

失業を減らそうと金融を緩和すればインフレが加速し、インフレを抑えようと金融を引き締めれば失業が更に増加しかねないからである。

スタグフレーション時の金融引き締めが金融危機の引き金を引く、という可能性もリスクシナリオとして頭の片隅に置いておいた方が良さそうである。

スタグフレーションへの対応については、次回詳述することとしたい。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(5月7日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
本コラムに掲載された情報には細心の注意を行っておりますが、その正確性。完全性、適時性を保証するものではありません。本コラムに記載された見解や予測は掲載時における判断であり、予告なしに変更されることもあります。本コラムは、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でお願いいたします。

このページのトップへ