「声明文そのもの以上に言うことはありません」の衝撃

2026/06/19

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◆ビッグニュースが多かった6月第3週

今週(6/15-6/19)は話題性・注目度の高いニュースが沢山ありました。①米国とイランが戦闘終結に向けた暫定合意の覚書に署名、②日経平均株価が初の7万円台超え、③植田総裁不在の日銀が利上げを決め、内田副総裁が代理で記者会見、④ウォーシュ議長がFOMC(米連邦公開市場委員会)「初陣」でFRB(米連邦準備理事会)改革を発表、⑤米ドル/円が一時161円台後半と1年11か月ぶりの高値更新、です。

このうち、数年後に振り返って特に大きな意味を持ちそうなのは④でしょう。まず、声明文の分量に驚かされました。前職のパウエル議長の下で減少していた単語数が、さらに半分以下に縮小されたのです(下図)。先行きの政策運営を説明するフォワードガイダンスが削除され、政策決定の背景になる経済・物価認識の説明も大幅に減りました。

当然、記者会見では「なぜ利上げをしなかったのですか?」と追加的な説明を求める質問が飛びました。ウォーシュ議長の回答は「声明文そのもの以上に言うことはありません」(I‘ve got nothing more to say than the statement itself.)でした。声明文と記者会見で丁寧な説明を尽くしてきたこれまでのFRBの姿勢からの大転換を印象付けました。

◆多くを語らないのがウォーシュ流

ウォーシュ氏は、経済・物価・金利見通し(ドットチャート)にも自身の見解を提出しませんでした。「私にとっては政策遂行において役に立たない」との判断からでした。多くを語らないのが、ウォーシュ流と言えそうです。

ウォーシュ流は市場の混乱を招くと警戒されています。情報発信が減れば、金融市場が政策変更の見通しを織り込めなくなる可能性があるためです。また、将来的にはFRBの独立性にも議論が及ぶかもしれません。中央銀行は、独立性を強化する過程で、透明性やアカウンタビリティ(説明責任)を質・量ともに充実させてきた経緯があるからです。

◆情報発信の抑制にも一定の合理性

一方、肯定的な意見もあります。中央銀行とて万能ではありません。高頻度で見解を発していると、何らかの理由で方針転換が必要になった際、過去との矛盾を過度に恐れて判断を誤る可能性が指摘されます。

また、正しい分析・予測ができていても、政治的な理由で対外公表できず、意味のない見通ししか発せない面もあるかもしれません。週刊ダイヤモンド編集長などを歴任した辻廣雅文・帝京大学教授は著書『金融危機と倒産法制』(2022年、岩波書店)で、「銀行の不良債権問題が深刻化し始めた1990年代前半ごろに、現状を放置すると日本経済は先行き10年くらいほとんど成長できなくなるとのシミュレーション結果を日銀は内部で作成していた。しかし、それを対外公表できなかった」ことを詳細に紹介しています。公表すればその時点で人々がパニック状態になり、自己実現的に金融システムが不安定化することを恐れたようです。本当に大事なことが言えないのであれば、むしろ黙っている方が誠実なのかもしれません。

過去の歴史を振り返ると、FRBの改革は高い確率で日銀など他の中央銀行に影響してきました。ウォーシュ氏の新たな対話戦略が定着すれば、日銀にも波及する可能性はあるでしょう。

(シニアストラテジスト 稲留 克俊)

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