7大投資テーマから考えるポートフォリオ戦略 (その6)「グローバル成長」に乗るポートフォリオ戦略

2021/10/14

7大投資テーマから考えるポートフォリオ戦略

(その6)「グローバル成長」に乗るポートフォリオ戦略


1.新興アジアに見るキャッチアップ型成長
2.「グローバル成長」を探す~情報技術と環境関連
3.「グローバル成長」を意識したポートフォリオ戦略

■資産形成の要諦は長期・分散・複利で、時間をかけて賢く資産を増やすことが重要です。高い投資のリターンは長期的には投資先の「成長」からもたらされます。このため、「成長」の機会を見つけることは安全で安心できる資産への投資と並んで重要なことです。つまり、資産を増やす「成長」の機会を見出し、それに長い期間投資し続けることが、資産を大きく育てるカギとなります。ポートフォリオ戦略について6回目となる今回は、「グローバル成長」、について検討したいと思います。

1.新興アジアに見るキャッチアップ型成長
<中国の成長率を抜くインド、新興アジア>

■国・地域の成長を考える際に、基本となるのが生産年齢人口と労働生産性の伸びです。

■まず、主要国の生産年齢人口についてみてみます。生産年齢人口とは15歳から64歳までの人口を指します。2010年から2020年、2020年から2030年、2030年から2050年で人口と伸び率を確認しました。生産年齢人口は2020年では中国が最大ですが、2030年にはインドが最大となり、2050年までにインドと中国の差はさらに広がります。伸び率が高い国は、フィリピン、インド、インドネシアといった新興アジア諸国です。逆に2050年までに生産年齢人口が大幅に減少する国は、中国以外では韓国、日本、イタリア、タイ、ロシア、ドイツ等です。こうした中、米国は生産年齢人口が伸び続け、さらに伸び率が高まっている点が注目されます。

■次に労働生産性をみてみます。労働生産性は一人当たりGDPで示されますが、2020年から2026年までの伸び率を見るとインドが8.9%、ベトナムが8.0%、中国が7.8%と高く、新興アジアとしても7.6%の伸びです。新興アジアは主に技術面で先進国にキャッチアップする形で労働生産性を高めてきましたが、そうした傾向が今後も続く見通しです。

■生産年齢人口や労働生産性から判断すると、新興アジアの高い経済成長率が続くと期待できます。一方、先進国では米国が引き続き注目されます。米国の労働生産性の伸び率は、経済大国でありながら4%台を維持します。イノベーションを興す力の強さが示されています。また先に見たように生産年齢人口が増え続けるというのは驚異的です。

2.「グローバル成長」を探す~情報技術と環境関連
<GAFAMに続く新興国の情報技術セクター>

■これまでに技術のキャッチアップやイノベーションが成長に寄与することを見ました。株価は中長期で見れば成長を反映すると考えられますので、次に株価の動きから成長分野を点検してみます。新興国で構成されるMSCIエマージング指数の年初来9月末までのパフォーマンス(円ベース)は+7.0%で、先進国で構成されるMSCIワールド指数の+22.6%を下回っています。特に、成長性に焦点を当てたグロース指数のリターンが低調で、MSCIエマージング指数のグロース指数は+1.2%、MSCIワールドのグロース指数は+21.3%でした。こうしたパフォーマンス格差は、先進国のグロース指数において米国のGAFAM*と言われる強大なIT関連銘柄の影響が大きいためです。ちなみに、MSCIワールド指数に占める米国株、MSCIワールドのグロース指数に占める米国株のウエイトはともに67.7%です(21年9月末現在)。
*GAFAM・・・グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト。

■そこで、グロース株の中心をなす情報技術セクターに絞って、主要各国・地域のパフォーマンス(円ベース)を比較しました。年初来9月末までのパフォーマンスは先進国と新興国から構成されるMSCI AC ワールド指数の情報技術セクターが+22.5%です。米国は+23.7%でしたが、日本が+23.9%と米国を上回っています。また、新興アジアでは、中国が▲12.6%、韓国が▲5.6%であるのに対して、インドが+46.1%、台湾が+23.0%でした。時価総額はGAFAMに及びませんが、米国以外でも堅調に推移する情報技術セクターが存在します。「グローバル成長」を見出すために、新興国市場の成長を支える情報技術セクターに目を向ける必要がありそうです。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

<新興国の情報技術セクターが「グローバル成長」の一翼を担おう>

■「グローバル成長」に乗るためには、セクター別には新興国、先進国共に情報技術セクターに注目することが一つの選択肢のようです。また、スタイル別には、グロースが注目されます。ここでは、過去15年間の平均的なリターンとリスクについてまとめたいと思います。

■先にみたように、今年9月までの情報技術セクターの国・地域別のパフォーマンスでは、インド、日本、台湾が堅調でした。一方、過去15年間の平均的なリターンとリスクを確認すると、1リスク当たりの平均リターンはオランダが0.72と最も高く、次いで米国の0.70でした。また、中国が0.61、台湾が0.43、インドが0.39、韓国が0.38でした。今後の新興アジアの経済成長を牽引する情報技術セクターは「グローバル成長」の一翼を担っていると言えそうです。

<新興国のグロース株にも魅力>

■国・地域、規模、スタイルでみると、やはり先進国では米国のグロース株が注目されます。米国のグロース株は米国株全体や米国バリュー株に比べるとリスクは若干高いですが、米国以外の投資先との比較で見ると、相対的に低いリスクで圧倒的なリターンを生み出してきました。

■次に新興国ですが、新興国全体よりも新興アジアの方が総じてパフォーマンスが高くなっています。1リスク当たりの平均的なリターンで最も高かったスタイルは、新興アジアの大型グロース株でした。次いで高い値となったのが新興アジアの中小型バリュー株でした。

<「グローバル成長」~世界的な環境改善が生み出す新たな需要>

■新たな「グローバル成長」の視点として世界的な環境改善が生み出す新たな需要が注目されます。それが気候変動・環境関連ビジネスです。

■現在、世界各国の政府が地球温暖化の抑制を目指した政策を取り入れています。新興国だけでも、炭素排出削減に向けた取り組みに20年間で2兆米ドル以上が投じられると見込まれています。最先端の環境ソリューションを提供する企業は、環境改善を約束した政府にそれを売り込むことができます。

■環境改善の動きが生み出しているもう1つの成長市場は、産業廃棄物や医療廃棄物の処理です。これらのサービスに対する需要は増加しており、規制強化も追い風となっています。気候変動や環境に関連する指数をみると、2020年以降大きく上昇した指数は「水」です。次に「世界環境」、「林業」が好調です。

■その他にも「グローバル成長」に乗るために様々な成長機会が存在します。

<参考>「グローバル成長」に乗るための様々な成長機会

タイムマシン経営
米国で流行ったものは時間をおいて日本でも流行る、として米国の成功モデルを模倣し、日本の成長機会に投資するという考え方です。こうした考え方は現在の新興国にも当てはまると考えられます。現地企業、外国企業を問わず、米国での勝ちパターンを踏襲する新興国の「タイムマシン経営」企業への投資は確度が高く、新興市場における「グローバル成長」を見つけるヒントになりそうです。

現地企業&グローバル企業
「グローバル成長」に乗る方法として新興国株への投資があります。但し、資本市場の整備が必ずしも進んでいない、流動性が限定される、値動きの変化が大きいなど、越えるべきハードルは少なくありません。そこで、先進国で新興国ビジネスに積極的な企業の株式に投資するというのも選択肢の一つかもしれません。昔から米国のコカ・コーラ社はその代表例とされてきましたし、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンもアジア新興国の富裕層拡大が成長ドライバーです。日本株ではスズキのインドでの自動車ビジネスは有名ですし、業務スーパーで有名な神戸物産のエジプト農業など、注目すべき企業は色々ありそうです。

証券投資と為替の両面
新興市場投資の魅力は、有価証券投資のリターンに為替のリターンが掛け算で乗ってくることです。80年代の日本のバブルも例外ではなかったですし、中国でも長い目で見れば今後人民元高と証券投資のリターンがダブルで発生し、通常の先進国株投資では達成できないリターンを得る可能性があります。

リスクテイカーかサービス業者か
米国のゴールドラッシュで儲けたのは金を掘り当てた人(リスクテイカー)ではなく、金を目指して集まった人々に様々なサービスを提供したサービス業者でした。例えば、アメリカ最大手地銀ウェルスファーゴの祖業は、ゴールドラッシュに沸く未開の土地、カリフォルニアにおける送金、宅配サービスでした。投資のリスク・リターンを考えた場合、その時代・環境下でインフラを構築し、サービス提供の可能性を追求することで着実な利益に結び付けるサービス業者の方が有利、と見ることもできます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.「グローバル成長」を意識したポートフォリオ戦略

■「グローバル成長」に乗るために、幾つかの角度から検討してきました。結果をまとめると、以下の通りです。
①米国株式・・・重要な要素だと思われます。米国はこれからも生産年齢人口が増え、労働生産性の向上が期待できる先進国。人工知能(AI)やデジタル・トランスフォーメーション(DX)等の最先端分野を走る企業群を抱えています。
②新興国アジア・・・キャッチアップ型成長が期待できる地域です。中でも情報技術セクターは今後の新興国アジア経済の成長を牽引するセクターとして期待されます。
③世界の気候変動・環境関連ビジネス・・・産業の新陳代謝が促進され、新たなグローバル成長の起点となる可能性を秘めています。コスト負担の増加を吸収しつつ、新たな「グローバル成長」を牽引すると期待されます。

■以上の点を踏まえ、「グローバル成長」を意識したポートフォリオをイメージしました。成長が主軸ですので内外債券のウエイトは30%としました。各株式は銘柄の重複があるため、一つの参考として提示しました。このポートフォリオは期待リターンが6.5%、リスクが15.2%となりました。

<参考>「グローバル成長」への投資で成果を得る上での注意点
地政学リスク・・・新興国投資では政情の安定が基本です。また、地政学リスクの顕在化は長期リターンに大きな影響を与える可能性があるので注意が必要です。
テクノロジー変遷のスピード・・・「破壊的なイノベーション」だと思っていたものが、後発企業に駆逐されてしまうことは良くあることです。テクノロジーの進化スピードは非常に速く、注意が必要です。
変動性の高さに慣れる・・・新興国の有価証券は国際金融市場の動揺に弱い点は否めません。ただし、人口動態が基本にあるキャッチアップ型成長ストーリーは長い目で見ればそう簡単には頓挫しないと考えられます。特に最低限の衣食住を満たそうとする投資テーマ(食品、水、エネルギーなど)は少々市場が揺らいでも大勢に影響ないと言えそうです。数年ごとに繰り返される調整局面には、慣れておく必要がありそうです。

 

(2021年10月14日)

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