グロース株かバリュー株か

2020/12/29

グロース株かバリュー株か

1.かつて経験したことがないほどの2極化相場
2.世界経済の正常化と潤沢な流動性
3.今後の見通し~収益力格差に注目。グロース株優位の地合いが続こう

1.かつて経験したことがないほどの2極化相場

<大きく上昇したグロース株>

■2020年は実体経済と株式市場との乖離が大きな年でした。世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大と経済活動の大幅な制約によってリーマンショックを上回る悪化となりました。こうした緊急事態の中にあって、世界株価指数は2月から3月にかけて強烈な暴落となったものの、その後は大幅な金融緩和策と財政政策の矢継ぎ早な発動を背景に大きく切り返し、極めて短期間で史上最高値を更新するという劇的な展開となりました。経済の回復には時間がかかりますが、今後新たな常態(ニューノーマル)化の流れが加速するとの判断から市場はマインドを大きく改善させ、実体経済の回復に先んじて株高が進む、という形で政策効果が表れました。

■2020年の世界株式指数は、11.0%の上昇を記録しました(米ドルベース、12月24日現在)。スタイル別では、結果的にグロース株が大きく上昇し、バリュー株が出遅れたことで、世界株価指数は、これまでに経験したことがないほどの2極化相場となりました。

<2極化を促進したハイテクセクター>

■株価上昇をけん引したのはコロナ禍で進んだ巣ごもり需要と経済のニューノーマル化への加速であり、それを支えたのがハイテクセクターでした。

■2021年も引き続きグロース株優位の展開が続くのでしょうか。今回は、グローバル経済の見通し、2極化を生んだ背景、今後を見極めるポイントについて整理したいと思います。

2.世界経済の正常化と潤沢な流動性

■2021年の世界経済は回復が本格化すると見ています。複数の種類のワクチンが接種可能となり始めており、景気回復の確度を高めます。弊社では、21年の世界経済の成長率を+5.9%、22年を+4.3%と見込みます(12月18日現在)。一方、財政政策は拡張的な政策が継続される見通しです。先進国は赤字が縮小傾向に入るとみられますが、コロナ以前と比べると高水準の財政支出が続く見通しです。米国では新型コロナ景気政策の第4弾が決定し、欧州でも復興予算が本格化する見込みです。新興国は21年にかけても高水準の財政赤字が続く見込みです。このように先進国・新興国ともに積極的な財政政策が継続する見通しです。中央銀行の潤沢な資金供給の下で財政資金が経済を支える、という枠組みが基本的に維持されると見ています。

■主要中銀の証券購入を通じた潤沢な流動性供給も引き続き高水準を継続する見通しです。こうした過剰流動性は世界株式市場の堅調な推移をサポートすると期待されます。

■ただし、経済の正常化が進めば、21年の後半以降、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入のペースを落とす(テーパリング)可能性を巡る議論が活発化すると予想されます。

3.今後の見通し~収益力格差に注目。グロース株優位の地合いが続こう

■21年は、前半、金融緩和と緩やかな景気回復が続くことから、適温相場(ゴルディロックス)となる見通しです。後半は、徐々に経済の正常化を意識した展開になると予想されます。以下では今後のポイントを整理しました。

(1)2極化の背景に収益力格差の拡大~2極化はセクター内でも進んでいる

■2極化は収益力の面からも指摘できそうです。変動係数(標準偏差÷平均)を用いて、予想株主資本利益率(ROE)の個別銘柄の散らばり度合いを確認しました。銘柄間のROE格差が拡大すると変動係数が上昇します。米国では95年以降、変動係数が上昇し続け、20年に一段と上昇しました。ニューノーマル化が加速する中、環境変化を活かして収益を伸ばす企業とそれ以外の企業で収益力に格差が発生していると考えられます。さらに、例えば、「情報技術」のROEの変動係数は19年から20年にかけて大きく拡大しました。同様の傾向は「コミュニケーション・サービス」などにも見られ、主要セクター内でも収益力の格差が拡大したと考えられます。続く21年は業績の改善が期待されますが、テクノロジーの活かし方で効率化に差が生まれるとみられ、収益力格差は広がる可能性があります。

(2)金融政策の正常化を意識する展開に

■金融政策は、テーパリングが21年後半から22年前半が市場のコンセンサスと見られ、FFレートの引き上げは前回の経験を参考にすればテーパリング終了から約1年後と考えられます。景気の回復ペースによりますが、21年の10年国債利回りは年後半以降緩やかな上昇が想定されます。年末で1.2%程度と予想しており、10年債利回りの上昇が限られていることから、長期金利と益回りの差(イールドスプレッド)で見た株式投資の相対的な魅力は高水準で推移すると考えられます。足元では、インフレ率に対する期待は決して高いものではなく、景気の回復も加速する傾向は確認できていません。長期金利の水準に注意する必要がありますが、当面は懸念するほどではないと判断されます。

■こうした見通しを覆すリスクは、やはり経済の正常化のピッチと金融政策の見通し、と言えそうです。13年5月に、FRBがテーパリングの可能性を示唆すると、実際のテーパリング開始は半年以上も先であったにも関わらず、10年債利回りの水準は大きく切り上げました。利上げの可能性の示唆が市場に大きな波乱を呼び込んだ苦い経験から、FRBは一段と慎重に金融政策の正常化を進めざるを得ないと考えられます。ただ、雇用統計などの経済指標の改善加速、後退といった振れが、その都度金融政策への思惑につながりやすく、局面によっては市場の変動が増幅する神経質な展開になる可能性があります。

(3)新型コロナの変異種の登場

■ワクチンの接種がスタートしました。今後は、接種者が着実に増えることによって、経済活動再開への期待が徐々に高まると思われます。年央以降には先進国の多くでワクチンの接種が広がっていると思われ、年後半は景気回復の可能性は一段と高まると期待されます。経済の正常化を考える上での懸念材料は、やはり新型コロナウイルスとワクチン、移動制限(ロックダウン)の動向です。足元、確認されている複数の新型コロナの変異種が登場する中でのワクチンの有効性と、感染拡大を阻止するためのロックダウンの広がりや期間、などを引き続き注視する必要があります。

(4)収益力格差に注目。結果、グロース株優位の地合いが続こう

■以上から、金融政策の正常化と長期金利の方向性、新型コロナの感染拡大には注意が必要ですが、景気が回復傾向となる中、環境の変化に適応しながら収益力を高める企業に注目することが重要と考えられます。21年前半は、結果、グロース株優位の展開が続く可能性がありそうです。金融正常化へのギヤチェンジへの思惑を市場がより強く意識するのは21年の後半以降と思われ、大規模な資産購入や実質ゼロ金利政策は継続されている可能性が高いと思われます。こうした環境下にあって、高PERという絶対水準よりも長期金利と益回りの差でみるイールドスプレッドという相対水準を評価する流れが、少なくとも年前半は続くと思われます。一方、新型コロナの収束が現実味を帯び、景気の回復期待が一段と高まれば、ニューノーマル化の流れの中で、いち早く環境に適応できた企業の業績が大きく成長すると思われます。コロナ禍の中、情報技術力の積極的な活用によって新たな需要を生み出す活動は、ハイテク企業に限らず、すべての産業分野での課題であり、景気回復はデジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに加速させる見通しです。バイデン新政権のもと、ハイテク企業への規制強化は懸念材料ですが、中国とのハイテク競争の激化を考えれば、急激な規制強化は難しいと思われます。米国株式市場は、引き続き、ハイテク株を中心に高収益力企業への期待を背景に、グロース株優位の地合いが続くと考えられます。

(2020年12月29日)

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