新型コロナショックで異例の水準となった日本株のショートポジション

2020/05/15

新型コロナショックで異例の水準となった日本株のショートポジション

1.3月の日本株下落は、新型コロナによるパニック的な先物売りで増幅
2.異例の水準となったテクニカル指標やショートポジション
3.ショートポジションの解消が日本株の上昇をけん引へ

1.3月の日本株下落は、新型コロナによるパニック的な先物売りで増幅

■3月は、新型コロナウイルスの中国から欧米などへの感染拡大を背景に世界的に景気減速が懸念されました。金融市場では株式などのリスク性資産が大きく下落し、コロナショックにより株式市場に激震が走った形となりました。また石油輸出国機構(OPEC)とロシアの原油減産協議決裂による原油価格の暴落も金融市場全体の変動を増幅しました。

■日本株をみると日経平均株価は1月20日には年初来高値の24,083.51円と24,000円を上回っていましたが3月19日には16,552.83円まで急落しました。その後各国が思い切った金融・経済対策などを導入した事や、コロナウイルスの新規感染者数の伸びが鈍化し始めたことを好感し、4月30日には20,193.69円となり20,000円台を回復しました。このように日本の株式市場は極めて変動の激しい動きとなりました。

■今回の急落とその後の株価の乱高下は、コロナウイルスの感染や原油価格の急落といった外部要因が主因と思われます。これに加えて、3月の“Special Quotation”(SQ)でのポジション整理や、3月16日に日本銀行が決定したETF購入額の倍増に伴う思惑からの「日経平均売り・TOPIX買い」も変動を大きくした面もあります。

■ここでは今回の急落時の状況を、「需給・テクニカル指標」などから検証し、急落に伴い異例の水準まで積みあがったショートポジションなどの今後の株式市場への影響も併せて検証してみたいと思います。

2.異例の水準となったテクニカル指標やショートポジション

■今回の急落時、空売り比率は一般に40%を超えると高水準とされますが、3月6日には52.1%を示し、その後も高水準の空売りが続きました。

■値上がり値下がり銘柄の割合を示す騰落レシオ(25日移動平均)は通常80~120%程度を中心に推移し、特に70%を下回ると売られすぎのサインとされますが、3月16日に40.12%まで低下しました。

■日経平均VI(将来1カ月の変動を推定した指数)は40%を上回ると底入れのサインといわれます。3月16日には、60.67%となりました。

■これら3指標はリーマンショックなど暴落局面で出るような異例な水準となり、今回の急落局面での売りがいかに大きかったかがうかがえます。同時に、株価の底入れの判断にも有効です。空売り比率は3月6日、騰落レシオ、日経平均VIは3月16日にピークを付け、3月19日の日経平均株価の底入れを今回も示唆する結果となりました。

SQと日銀の政策変更も影響

■市場の混乱のさなかに、SQを迎えたことや日銀の政策変更があったことが変動を大きくした面があります。3月13日に株価指数先物とオプション取引のSQを迎えました。投資家はSQ時に多様なポジションの決済等の対応を迫られ、SQ前後は株価の変動率が大きくなる傾向がありますが、今回はロングポジションの手じまい売りが加速してボラティリティの拡大要因となりました。

■日経平均株価を東証株価指数(TOPIX)で割り、両指数の相対的な強さを示す「NT倍率」は3月9日は14.18倍でしたが、3月19日には12.89倍まで低下し、その後も乱高下しました。

■日銀は3月16日に金融政策決定会合を開き日本株のETFの購入目標額を年6兆円から12兆円に倍増を決めました。実際に3月19日の東京市場で、1回あたりの金額として過去最大となる2,004億円を買い入れました。日銀の買いは大部分がTOPIXのため同指数の買いが増えるとの思惑から「日経平均売り・TOPIX買い(NT取引)」の取引が活発化しました。この結果日経平均先物にはリスクヘッジの売りとNT取引に伴う売りが重なり、日経平均株価の下落がより大きくなったと考えられます。

ネット裁定残のマイナスが異例の水準

■裁定買残は割高となった先物を売って現物株を買う(裁定買い)取引を行った場合の現物買いの残高です。その後、先高観の後退に伴う先物の下落などにより、割高感が解消されれば、反対売買により解消されます。裁定売りはその反対の動きとなります。

■裁定売りは現物株を空売りするため、現物株の調達コストがかかるなど裁定買いに比べ実行のハードルが高く、ネット裁定残高がマイナスになるのは極めて異例です。ネット裁定残高は株式市場の上昇局面では先物が割高になり増加、下落時は反対の動きとなる傾向があり、通常は5~20億株程度で推移しますが、5月12日時点では▲7.76億株と異例の低水準にあります。また今回の裁定売り残の特徴としては、リスク回避やNT取引により売りが日経平均先物に集中したことで、日経平均型の裁定売残が増加したことが挙げられます。

3.ショートポジションの解消が日本株の上昇をけん引へ

■3月の日本株の急落局面においては、テクニカル指標やショートポジションがリーマンショックなどの過去の暴落局面に匹敵するような異例の水準であったことが分かりました。その後の反発局面では、依然として外部環境が不透明ななかでもショートの買戻しなどから日経平均株価は安値から20%以上戻しています。このように「テクニカル・需給関連指標」分析の重要性は高まっていると思われます。

■コロナウイルスの今後の感染の動向や経済への影響は依然不透明で日本株は予断を許さない状況ですが、戻り局面ではショートカバーがけん引する可能性があります。また日経平均株価は上位銘柄の構成比が高く、変動しやすい指数ですが、リスクヘッジの日経平均先物売りと「日経平均売り・TOPIX買い」のポジションはともに残っているとみられ、日経平均型の裁定売り残も高水準であることからみて、特に日経平均株価はショートカバーによって戻りやすい状況にあると考えられます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

(2020年5月15日)

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