英国のEU離脱修正案~採決の結果と今後の展望

2019/01/30

 

市川レポート(No.628)英国のEU離脱修正案~採決の結果と今後の展望

  • 離脱延期を含む修正案は否決、アイルランド国境問題の安全策を代替する修正案が可決された。
  • ただEUは安全策に再交渉の余地なしとの立場、2月13日まで合意なければ英議会で再採決も。
  • 市場は、合意なし離脱回避の修正案可決や離脱延期に応じるEUのコメントを受け冷静な反応。

離脱延期を含む修正案は否決、アイルランド国境問題の安全策を代替する修正案が可決された

英議会下院は1月29日、欧州連合(EU)からの離脱に関する7つの修正案を採決しました(図表1)。否決されたのは、①労働党コービン党首の修正案、②スコットランド国民党の修正案、③保守党グリーブ議員の修正案、④労働党クーパー議員の修正案、⑤労働党リーブス議員の修正案の5つでした。④は、3月末の離脱期限の延期を求める内容を含み、可決の可能性も見込まれていましたが、否決され、英ポンドは対米ドルで下落しました(図表2)。

一方、可決されたのは、⑥保守党スペルマン議員の修正案と⑦保守党ブレイディ議員の修正案の2つでした。⑦は、離脱協定案に盛り込まれている、北アイルランドとEU加盟のアイルランドとの国境問題に関する「安全策(バックストップ)」について、代替案(alternative arrangements)に置き換えるというもので、事実上、メイ首相の基本方針が承認されたことになります。

ただEUは安全策に再交渉の余地なしとの立場、2月13日まで合意なければ英議会で再採決も

今回採決された2つの修正案に法的な拘束力はありません。ただ、離脱協定案のバックストップ条項を代替案に置き換えれば、議会で過半数の支持が得られる公算は大きいことが少なくとも確認されました。メイ首相はEUとの再交渉に臨むことになりますが、EU側は、バックストップは離脱協定案の一部であり、離脱協定案に再交渉の余地はないとしているため、話し合いは難航が予想されます。

なお、メイ首相はこの日、2月13日までにEUと合意に至らなければ、英議会下院がEU離脱の方針に関し、再び採決を行うことを認めると述べました。そのため、英国のEU離脱問題を巡る不透明感は引き続き残ることになります。なお、野党労働党のコービン党首は、採決の結果を受け、メイ首相と会談する意向を示しており、今後は与野党の連携が幾分進むことも期待されます。

市場は、合意なし離脱回避の修正案可決や離脱延期に応じるEUのコメントを受け冷静な反応

また、ここにきて、保守党内でモルトハウス住宅相の妥協案に関心が高まっています。その内容は、バックストップの代替案でEUと合意できなかった場合、移行期間を2021年末まで延期し、その期間の拠出金をEUに支払うというものです。保守党の離脱強硬派やEU残留派からも支持の声が出始めているため、メイ首相がEUと再交渉を行う際の中心テーマとなる可能性があります。

採決の結果を受けた市場の反応をみると、英ポンドは下落したものの、総じて冷静だったと思われます。これは、前述⑥の保守党スペルマン議員の修正案(「合意なし」の離脱回避)が可決されたことや、EUが3月29日の離脱期限延期に応じる用意があると述べたことなどが好感され、今後の展開が見通しにくいなかでも、市場に一定の安心感が広がったためと推測されます。なお、英国のEU離脱は最終的に「合意あり」の離脱で着地に向かい、市場の懸念は徐々に弱まるとの見方に変わりはありません。

(2019年1月30日)

190130

 

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