日本の財政は大丈夫か?

2016/06/09

市川レポート(No.260)日本の財政は大丈夫か?

  • 消費増税再延期で、20年度のプライマリーバランス黒字化を達成には財源確保の検証が必要。
  • 財政赤字の原因となる歳出の増加は、高齢化を背景とする社会保障関係費の増加によるもの。
  • 歳出減の観点も重要、財政再建信任なら海外マネーの株式市場への安定流入も期待される。

消費増税再延期で、20年度のプライマリーバランス黒字化を達成には財源確保の検証が必要

安倍首相は6月1日、消費増税の再延期を正式に表明した一方、2020年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する財政健全化目標を維持する意向を示しました。プライマリーバランスとは、公共事業や社会保障などの歳出を所得税収や消費税収などの歳入によってどれだけまかなえるかを示す指標です。財務省によれば、2016年度予算案におけるプライマリーバランスは10.8兆円の赤字になっています。

政府の試算では、軽減税率制度を導入した上で2017年4月に予定通り消費増税を実施し、さらに名目3%、実質2%以上の成長が実現した場合でも、2020年度のプライマリーバランスは6.5兆円の赤字が見込まれています。そのため今回、消費増税の再延期が決定されたことで黒字化の目標達成は一層困難になると思われ、目標達成に必要な財源をどう確保するのか政府による十分な検証が待たれます。

財政赤字の原因となる歳出の増加は、高齢化を背景とする社会保障関係費の増加によるもの

国際通貨基金(IMF)によれば、2014年における財政収支の対GDP比は、ドイツが0.3%の黒字、米国が4.1%の赤字、日本が6.2%の赤字となっています。また債務残高の対GDP比は、ドイツが74.9%、米国が105.0%、日本が249.1%です(図表1)。改めて日本の財政状況の深刻さが窺えますが、政府もこの点は十分に理解しており、プライマリーバランスの黒字化と対GDP比での債務残高の安定的な引き下げを財政健全化目標の柱としています。

日本の財政構造をみると、1990年度と2016年度の予算を比較した場合、歳出は約30兆円増加しています。内訳は社会保障関係費がおよそ3倍の約20兆円増、借金増加で国債費が約10兆円増となっています。社会保障関係費は、①年金医療介護保険給付費、②生活保護費、③社会福祉費、④保健衛生対策費、⑤雇用労災対策費からなり、国民がこれらの保障を安く受けられるための公費投入に他なりません。ただ高齢化を主因に費用は年々増加しています。

歳出減の観点も重要、財政再建信任なら海外マネーの株式市場への安定流入も期待される

プライマリーバランスを黒字化するには、歳入増(消費増税による税収増など)または歳出減(社会保障関係費への公費投入抑制など)しかありません。政府は「社会保障と税の一体改革」を行っており、消費税率の引き上げによる税収増分の一部は社会保障の充実と安定化に向けられます。今回消費増税の再延期が決まりましたが、政府は子育て支援、介護支援の方針は変わらないとしています。

国債等の保有者内訳は図表2の通りです。国内で約9割保有されており、財政懸念から国債が暴落するリスクは短期的には小さいと思われます。ただ早期に財政再建の道筋が明示されなければ、そのリスクは中長期的に拡大する恐れがあります。公費投入が必要なほど社会保障のコストが高いのならば、例えば規制緩和強化による価格競争の促進や、所得や年齢に応じた自己負担の見直しなどは歳出減に有効と考えられます。日本の財政再建が信任を得られれば、海外からの長期マネーが株式市場へ安定的に流入することも期待できます。

160609図表1160609図表2

 

 (2016年6月9日)

市川レポート バックナンバーはこちら

http://www.smam-jp.com/market/ichikawa/index.html

 

 

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
市川レポート 経済・相場のここに注目   三井住友DSアセットマネジメント株式会社
主要国のマクロ経済や金融市場に関する注目度の高い材料をとりあげて、様々な観点から分析を試みます。
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を目的として作成されたもの又は金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。本資料を投資の目的に使用したり、承認なく複製又は第三者への開示等を行うことを厳に禁じます。
●当資料の内容は、当社が行う投資信託および投資顧問契約における運用指図、投資判断とは異なることがありますので、ご了解下さい。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

このページのトップへ