増税延期論と日本株

2016/04/01

市川レポート(No.230)増税延期論と日本株

  • 増税延期の報道が相次ぐなか、最終判断はサミットを控えた5月下旬頃になるとの見方が優勢に。
  • ただ財政状況は厳しく、増税延期なら財政健全化目標をどう達成するか具体策の提示が必要。
  • 経済対策や増税延期で株高となるかは、それらが将来の需要や企業利益の増加を促すか次第。

増税延期の報道が相次ぐなか、最終判断はサミットを控えた5月下旬頃になるとの見方が優勢に

このところ新聞各紙で消費増税延期に関する報道が相次いでいます。すでに2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では参加国が機動的な財政政策の実施で合意しており、日本は5月26日、27日に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を控えています。そのため財政出動による国際協調をアピールするには良いタイミングを迎えつつあり、消費増税延期は一段と現実味を帯びたように思われます。

今後の政府の動きとして、①5月に「ニッポン一億総活躍プラン」をまとめ、経済対策を公表、②経済対策の裏付けとなる補正予算案を編成(予算案は秋の臨時国会に提出)、③増税可否と経済対策の規模を決定、が想定されます。増税可否の判断時期については、伊勢志摩サミットの準備会合とされる国際金融経済分析会合は5月まで行われ、1-3月期実質GDP1次速報値が5月18日に発表されることから、5月下旬頃との見方が優勢になりつつあります。

ただ財政状況は厳しく、増税延期なら財政健全化目標をどう達成するか具体策の提示が必要

2014年4月の消費増税以降、実質GDP成長率(図表1)や実質消費支出(図表2)の伸びは鈍く、7月に参院選を控えている安倍政権にとって、予定通り2017年4月に再び消費増税を行うことは難しい判断になるとみられます。そのため増税延期と、税収の上振れ分を財源として国債の追加発行に頼らない規模での経済対策という組み合わせが、現実的となる可能性があります。

ただ日本の財政状況はかなり厳しい状況にあります。国際通貨基金(IMF)の試算によれば、2016年末における日本の一般政府総債務残高は対GDP比で248%に達する見通しです。これはギリシャの207%を大幅に上回り、主要国で最悪の水準です。仮に消費増税を延期した場合、政府は自ら掲げる財政健全化目標をどう達成していくのか具体策を示す必要があります。それがなければ、財政の持続可能性に対する内外の信任を失う恐れがあります。

経済対策や増税延期で株高となるかは、それらが将来の需要や企業利益の増加を促すか次第

日本株については、経済対策や増税延期への期待感から、しばらく底堅い動きが続くことも予想されます。経済対策に関するこれまでの報道をみると、消費喚起のためのプレミアム商品券や子育てサービスに使うクーポン券などの案が検討されている模様です。経済対策が、企業に新たな成長機会をもたらし、長期的な需要創出に貢献するものとなれば、本格的な株価の上昇も期待できますが、そうでなければ失望売りの恐れもあります。

一般に、企業が将来生み出すキャッシュフローや利益の増加は株高要因と考えられます。ただ消費増税の延期によって、将来のキャッシュフローや利益が必ず増加する訳ではありません。したがって現実には、消費増税延期で株高という単純な図式にはならない可能性があります。そのため「Buy on the rumor, sell on the fact(噂で買って事実で売る)」という相場の格言にもあるように、「経済対策や増税延期への期待で株価は堅調に推移したが、実際に発表されたら軟調に転じた」というケースも、ある程度想定しておく必要があると思われます。

160401 図表1160401 図表2

 

 (2016年4月1日)

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