日銀の「出口」開始のハードルは高い

2018/03/09

▣ 早期の出口戦略は後退

2017年後半から、長期金利の誘導水準を引き上げる調整を検討するとの見方が広がっていたものの、日銀が現行の強力な金融緩和を堅持する姿勢を示していることを受け、「出口(金融緩和の正常化)」が遠くなっています。また、「出口」開始のハードルについても、市場の認識より高く設定されている可能性があります。強力な金融緩和の一段の長期化を覚悟する必要があるかもしれません。

1月9日に国債買入れオペのオファー金額を減額したことを受け広がっていたテーパリング(資産買入の段階的縮小)観測を、日銀は2月2日に利回りを指定して金額無制限で国債を買い入れる指し値オペを実施することで打ち消しました。また、黒田日銀総裁が続投する見込みになったことや、副総裁に強力な金融緩和を立案してきた雨宮理事、デフレ脱却のため大規模な金融緩和に前向きなリフレ派とされる若田部早大教授を充てる人事案が提示されたことも、強力な金融緩和が続くとの見方を強めました。

▣ 「出口」のハードルは高そう

黒田日銀総裁は、政府の再任案を受け、3月2日に衆院議員運営委員会、6日に参院議員運営委員会での、所信表明と質疑(所信聴取)に臨み、「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けることで2%の物価安定目標の実現を目指す。総仕上げを果たすべく全力で取り組んでいく」と所信を述べました。

所信聴取での主な発言は以下のとおりです。

  • 早期の出口戦略
  • ž   現時点で2019年度頃でなくて、2018年度頃に具体的な議論をして出口を探ることになるとは考えていない
  • 出口戦略の検討時期
  • ž   日銀は2%の物価安定目標が2019年度頃に達成される可能性が高いと見通しており、2019年度頃に出口を検討するのは間違いない
  • ž   直ちに2019年度に出口になるということではない
  • 物価目標
  • ž   下げる議論は国際的にはまったくない
  • ž   2%の物価目標は為替レートの安定にも資する
  • 目標達成前の金融政策の調整
  • ž   (物価目標が)実現しない段階で、中止したり弱めたりすることは考えられない
  • 副作用
  • ž   現時点で金融仲介機能に障害が出る状況ではない
  • ž   今後も金融仲介機能への影響は十分、点検・調査する
  • ž   年金への影響や出口、日銀財務など議論があることは承知

日銀は昨年12月の展望レポートで、「今回の物価の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い」としています。少なくとも2018年度中に「出口」に着手することはなく、2019年度頃に出口を検討するのが公式的な見解です(図表1)。

もっとも、民間(ESPフォーキャスト調査)の物価見通し(生鮮食品除く総合の前年同期比上昇率)は、2019年度は0.92%(消費税率引き上げの影響を除く)と、物価目標を大きく下回ります(図表2)。これまで6回先送りされてきた物価目標の達成時期が、また延びる可能性が高そうです。2%の物価目標達成にこだわると、「出口」は一段と遠い先の話になってしまいます。

物価目標を引き下げると「出口」は近くなりますが、黒田総裁、安倍首相ともに“2%”を堅持する姿勢を示しており、可能性は低そうです。また、米連邦準備制度理事会(FRB)のように、物価目標達成前に金融緩和を弱めることもできますが、物価目標達成に確信が持てない状況下では難しそうです(図表3、4)。

先の話ですが、物価目標が達成できないまま次の景気後退を迎え、追加緩和が必要になる事態も想定されます。

日銀は3月9日の金融政策決定会合で、金融政策の維持を決めました。来年度についても、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が堅持されることが見込まれます。国債買入れについては、買入額の減少傾向が続いていましたが、先月は久しぶりに月間の買入額が増加しました。当面はテーパリングと受け取られない範囲で買入額を調整し、適切なイールドカーブの形成を促していくとみられます。

日銀が思い切った国債の買入れ減額には踏み切れないと見透かして、イールドカーブはじりじりと低下していますが、水準の目安としては、昨年以降の利回り水準が一応の参考になりそうです(図表5)。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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