アジア新興国危機の可能性を念のため考察

2018/09/19

三つの側面から点検

金融市場では新興国リスクが話題になっていますが、「新興国」と一括するのはあまりにも乱暴です。

特にアジア新興国の場合、危機的な経済状況には程遠いと言えます。ただ、それらの通貨価値は総じて下落し、債券価格も軟調です(利回り上昇)。とはいえその背景については、三つの側面に分けて考えるべきです。まず、トルコやアルゼンチンの通貨暴落につられた反射的な下落です。次に、米国の金利やドルの上昇に伴う米国への資金移動です。最後に、米中貿易摩擦の影響が広がることへの懸念です。

トルコとアルゼンチンは特別

第一に危機の波及についてですが、重要な点は、アジア新興国の実体経済はトルコやアルゼンチンに比べてはるかに堅固であることです。したがって、同じような通貨危機が起こる理由は乏しいのです。

実際、主要な指標(図表1)によると、トルコとアルゼンチンは高インフレと経常赤字が際立っています。また、通貨防衛の「最後の砦」となる外貨準備が小さめです(外貨準備とは通貨当局の準備資産。自国通貨の買支えのほか、通貨危機時、輸入代金など外貨建て対外債務の返済に用いられる)。トルコのGDP成長率は低くないものの、過大な借入れによるところが大きく、持続的な成長とは言えません。

アジア新興国の景気拡大は続く一方、インフレは抑制

アジア新興国のうち通貨安や債券安(図表2)が目立つのは、特にインドネシア、インド、フィリピンです。共通の弱点は、経常収支の赤字です(貿易などに伴う対外的な支払いが受取りを上回る状況)。

とはいえGDP成長率は高く、インフレ率は低めです。原油高によるインフレ圧力には留意すべきですが、スタグフレーション(低成長と高インフレの併存)が深刻化しそうな状況ではありません。外貨準備も十分です。加えて、トルコやアルゼンチンとは異なり政策金利は常識的な水準です。よって高金利が景気を圧迫する度合いは小さく、また、通貨防衛に必要な利上げを行う余地は大きい、と言えます。

ドル高の局面は終盤へ

それでもアジア新興国への不安が消えないのは、第二の側面であるドル高の影響もあります。しかし米経済は来年半ばには失速し、利上げも打ち止めが近づくでしょう。そのため、米ドル高局面はすでに終盤と考えられます。よってアジア新興国から米国への資金流出も、そろそろ一巡すると見込まれます。

第三の側面である米中貿易摩擦はどうでしょうか。トランプ米政権による「関税攻撃」の標的は特に中国製品ですが、これにより中国から米国への輸出が減った場合、アジア新興国への影響がたしかに危惧されます。中国製品の部品の多くは、ほかのアジア諸国(日本を含む)で生産されているからです。

米中貿易摩擦の悪影響は、さほど大きくならない可能性も

ただし実際には、アジア新興国全体への悪影響は限られたものにとどまるかもしれません。すでに中国企業などでは、コストを削減すべく生産拠点をベトナムやインドなどへ移す動きが活発になっています。そのため中国から米国への輸出が減っても、ほかのアジア諸国から米国への輸出が増えるはずです。

以上のように、他地域の通貨危機、ドル高、貿易摩擦のどれをみても、アジア新興国の極端な悲観論を正当化するのは困難です。よってそれらの資産は、売られすぎの段階に達しつつあると判断できます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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