新興国と貧困層の苦境:米国の利上げで、最も心配すべきこと

2022/06/06

新興国通貨は大丈夫か?

戦争が続くなど世界情勢は不穏ですが、良い点を探さねば、気が滅入るだけです。それを挙げるとすれば、その一つは、多くの新興国にて金融市場が比較的平穏を保っているという、前向きなニュースです。

「比較的」平穏と言うのは、特に2013年と比べて、新興国市場はさほど混乱していないからです。2013年には、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和を縮小する姿勢を示したことを受けて、インドなどの通貨が急落しました(図表1)。現在は、トルコリラなど一部を除けば、新興国通貨の下落は比較的小幅です。

テーパー・タントラム

2013年には、世界金融危機や欧州債務危機が落ち着くにつれ、FRBは金融緩和を縮小する必要に迫られました。現在もコロナウイルス危機が最悪期を脱したとみられる中、金融緩和の縮小は全く必然です。

緩和の縮小観測を背景に、2013年には、米国の国債利回りが急上昇しました。これを受け、経済構造の弱い新興国から、より安全で相応の高金利が見込める米国へ、資金が流出しました。こうして、インド、インドネシア、ブラジルなどの通貨が急落するといった、大混乱が生じました(テーパー・タントラム)。

前回と今回との違いは?

現在、それほどの混乱が起こっていないのは、第一に、多くの主要な新興国経済が以前よりも健全化しているからです(外貨準備増、経常収支改善など)。第二に、ブラジルなどが利上げを進めているからです。

そうした利上げは、米国への資金流出を抑制します(ただ、トルコでは独裁的な大統領が、日本銀行と同様、利上げを頑固に拒否)。また、新興国市場の混乱が抑制されている第三の要因は、インドネシア、ブラジル、南アフリカなどは資源大国なので、最近の資源高が国家財政を支える、と期待されることです。

このままでは格差拡大

ただし新興国の中には、資源の輸入に頼る国々もあります。また、原油・鉱物などを大量に産出する資源国の国内でも、資源高の恩恵を受ける産業に属する人と、そうでない人との格差が広がりつつあります。

特に懸念すべきは、アフリカ、南アジア、中南米などにおける非資源国や、低所得層に位置づけられる人々の状況です。例えば、食品や燃料の輸入依存度が高いスリランカは現在、経済危機に陥っています。また、各新興国内の貧困層拡大に伴い人々の不満が爆発し、犯罪や内戦などが続発する恐れもあります。

最良のニュースは何か?

それだけに、食品(図表2)や燃料などの価格高騰は今後、新興国の経済や政治を大きく揺さぶる可能性があります。そのため、新興国の混乱回避という前向きなニュースが永続する、とは楽観できません。

よってFRBなども、利上げに際しては、世界的な影響を考えねばなりません。一番の問題は、米欧の先進国や、まだ先進国とされている日本の景気減速ではないのです。最も心配すべきは、新興国の人々の困窮です。待望されるのは、貧困や戦争が減り、世界が繁栄と平和へ向かうという、最良のニュースです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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