個人投資家は運用に「レバレッジ」を使っていいか?

2021/09/28

(サマリー)
●レバレッジは「危ない!」のか、「有利!」なのか?
●短期の場合と長期の場合
●複数アセット・クラスのレバレッジ運用

##レバレッジは「危ない!」のか、「有利!」なのか?

レバレッジとは、借り入れを行って投資のポジションを膨らませる行動のことだ。先物やオプションを使うことでもレバレッジを効かせることができるが、これらは背後で実質的に借り入れが存在している。
レバレッジに関しては、一方で「危ない」、時には「不健全だ」といったイメージがあり、他方で「効率的」或いは「有利」といった印象を持つ向きもある。
長期投資や資産形成を語る文脈では、レバレッジを伴う運用を危険視する見方が優勢のように思う。例えば、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)ではレバレッジを使った運用商品を除外している。また、証券会社の社員に対する社内ルールにあっても、株価指数先物の取引やレバレッジ型の投資商品を社員が利用することを禁止することが一般的だ。レバレッジを使った取引は「相場に関わりすぎ」だと考えられているようだ。
マネープラン全般や資産形成を説く書籍などでも、借金のリスクや不利を強調するものが多い。生活の破綻や、運用の失敗には、しばしば借金やレバレッジが絡むので、これらの2つを遠ざけておくことが無難だという感覚は理解できる。但し、住宅ローンに関してのみ妙に寛大な本がしばしばあって、一貫性を欠くと感じる場合がある。
一方、ビジネスの世界では、借り入れによる資金調達は当たり前の行為だし、現金を抱え込む経営よりも、適度にレバレッジを使う経営の方が株主に好まれるケースが多い。
レバレッジに対するさまざまな見方を統一的に理解するにはどうしたらいいのだろうか。
以下のような、「良い借金の3原則」を考えてみた。

【良い借金の3原則】
1. 金利よりも有利な資金使途がある借金
2. リスクが過大にならない借金
3. 金利がマーケット水準から大きく乖離していない借金

採算に乗るビジネスの資金を、市中金利にごく小さなスプレッドで借りられるなら、企業にとって「良い借金」だろう。現実的には、1番と3番を企業が主に考え、2番を銀行がチェックすることになりそうだ。
個人の場合は、先ず、金利が十数パーセントにも及ぶ短期のローンは避けた方がいいし(3番)、住宅ローンの利用は、住宅の価格が投資として妥当なものかどうか(1番)と、ローンの額が個人の経済力に見合っているか(2番)が主なチェックポイントになる。
不動産投資は、ローンによるレバレッジを利用しやすいことと、個人が低利で借金できる数少ない機会であることから、「結果的な不動産長者」を過去に多数生んできた。しかし、1番と3番のチェックは重要だと強調しておく。
尚、不動産購入の可否は、(A)「全額キャッシュからの投資としての評価」に(例えば株式投資と比較してどうか?)、(B)「金融機関に支払う金利(手数料も含めて計算する)のスプレッドの損失」を加味して行うべきものだ。「ローン金利よりも実質家賃利回りが高いからOK」と即断するのでは不十分だ。
付け加えると、資金に余裕がある場合に「レバレッジ=借入」を利用するのは、借入金利の市中金利に対するスプレッド部分の費用負担が無駄になるので、リスクゼロで市中金利以上の利回りで運用できる機会である「借金の返済」は、逃すともったいない資金運用だと考えることができる。格言にまとめるなら「返済に勝る運用なし!」だ。
では、資産運用におけるレバレッジはどうなのか。

##短期の場合と長期の場合

短期のトレーディングを「資産運用」の仲間に入れていいのかどうかについては、議論の余地があるが、今回は検討に加えよう。
先物取引、信用取引、証拠金取引、レバレッジETF(上場投資信託)などの利用は、短期トレードを目的とする場合、主に「リスクの大きさ」(2番)と「手数料を含めた実質的な金利」(3番)について取引する本人が十分理解し、納得し、自分を制御できるなら、利用しても良いと考えるべきだろう。後は、当たり外れの問題だ。殆どのケースで「頑張って何とかなる問題ではない」と知りつつも、心情的には「頑張って下さい」と言葉をかけたい。
問題は、長期の資産形成を目指す運用におけるレバレッジの使用だ。
筆者は、NISAが導入された頃(2014年)のある講演で、「大金持ちの方は、レバレッジが掛かったETFか投資信託をNISA利用枠一杯まで買って、5年間放っておくと、NISAの枠を有効に使えるのでいいかも知れません」と言ったことがある。商品の仕組み上高い金利の借金にはならないし(3番)、大金持ちならリスクは問題ないし(2番)、相場次第・運次第ではあるがインデックス投資はプラスの期待リターンがあるから(1番)、前記の「良い借金の3原則」に該当するレバレッジの利用になり得ると考えた。
では、大金持ちではない「普通のサラリーマン」の資産形成の場合ならどうだろうか。一般向けの書籍なら、投資家のリスク管理の能力や、精神面なども考慮して、「借金による投資や、レバレッジの利用は止めておきましょう」と書きそうなところだが、リスク管理が十分出来て、精神面にも問題のない投資家ならどうなのか?
例えば、若くて安定した職に就いている健康なサラリーマンの場合、運用資金をまだ多額には持っていない一方で、潤沢な「人的資本」(本人の資産価値)を持っているので、リスク吸収能力は大きい。こうした場合は、レバレッジを利用してリスク資産運用のポジションを拡大することが、マネープラン的にはむしろ合理的だと考えられる場合が十分ある。
では、高齢者の場合はどうか?
高齢者は、人的資本は小さくなっている一方で、将来必要な支出の見通しが立ちやすい点で、運用にあって大きなリスクテイクができる可能性がある。「今後に必要な支出額」の何倍もの運用資金を持っている場合に、レバレッジを掛けて運用することが合理的になる場合は、やはり想定しうる。相続人と一緒に運用戦略を決めるといい場合が多いのだろうが、例えば「レバレッジを使った運用で大いに資産を増やして、多額の寄付を行う豪快な老人!」のような人がいてもいいわけだ。

##複数アセット・クラスのレバレッジ運用

レバレッジ利用のもう1つのカテゴリーとして、機関投資家向けならヘッジファンドが古くからあるし、個人投資家向けにも近年「複数のアセット・クラスに投資してレバレッジを使うファンド」が登場している。
例えば、「株式」と「債券」の間に利用できるリターンの相関関係があると考えた場合に、株式と債券を最適な比率に組み合わせた上で(例えば、長期債を株式の3倍、など)、この組み合わせのトータルリスクの大きさが商品として利用しやすいものになるように、レバレッジを掛けた運用を行う方法が考えられる(実際に商品が存在する)。
アセット・クラス間の相関係数は常に一定のものではないが、利用が上手く行くと、単独のアセットでは得られない高いシャープレシオが得られる。
一方、レバレッジを使わずに、例えば「株式1:長期債3」のような配分を実現しようとすると、資金額に対して25%相当の株式エクスポージャーしか持つことができない。主たる収益源である株式の保有に対して「物足りない」と思う投資家は少なくあるまい。
この場合、「株式1:長期債3」の比率で投資して、例えば4倍のレバレッジを掛けると、シンプルな株式100%の運用と同じくらいの株式エクスポージャーが得られる。残る問題は「株式のリターンがマイナスになる場合に、債券のリターンがプラスになって、これをカバーするか否か」だ。
個人的にも、この種の運用が可能なら是非やってみたいと思うが、株式と債券の先物のポジションをコントロールするオペレーションは、個人で行うには些か複雑だし、資金量が足りなかったりする。こうした場合に、望むようなエクスポージャーを作ってくれるファンドに投資する価値が生まれる。
こうした事情が、「○倍×分法」のようなネーミングのファンドの商品価値だ。専門家が大きな資金を集めて運用する「ファンド」ならではの価値だと言える。
もちろん、商品の仕組みはそれなりに複雑だし、期待の相関関係が「常に」上手く機能するとは限らない。場合によっては、株式と債券の両方で同時に損失が膨らむ可能性もある(例えば、スタグフレーションで、金利の上昇と景気の後退が同時に起こるような場合)。加えて、「商品」を利用する訳だから、商品としての手数料や、先物利用の際の経費に関しても判断が必要だ。諸々の仕組みが理解できない投資家には勧められないが、分かる人には「常にではないとしても」魅力のある投資対象になり得る。
こうした複数のアセットを組み合わせた「複数アセット・クラスのレバレッジ拡大」といった趣の運用も個人投資家の運用対象に考えられるといって良かろう。
結論として、個人投資家は、レバレッジを「常に避けなければならない」という訳ではないと考えていいだろう。判断の基準は、「良い借金の3原則」に立ち返るといい。

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