インデックスファンドから個別株への「リレー投資」

2020/10/06

●個別株投資2つの悩み
●1銘柄の追加に幾らかかるか
●インデックス投資家の「リレー投資」
●個別株への「リレー投資」の応用
●iDeCo、つみたてNISAとの関係

##個別株投資2つの悩み

筆者は、ここのところ個人に対して提案できる個別株投資のポートフォリオで「趣味」と「合理的資産形成」を両立させる方法を模索している。
率直に言って、インデックスファンドに投資するのと、個別株に投資するのとでは、ポートフォリオの価値に大差がある。まず、投資家にはこの点を理解して欲しい。
投資家から見た価値を表す効用関数の一般的な形は、U=r−λσ2だ。rは期待リターン、λはリスク拒否度、σは標準偏差で測ったリスクで、効用関数では2乗して分散で評価される。細かな計算は省くが、r=5%、σ=20%で、元本に対する100%のリスク資産投資がちょうど最適な投資家のリスク拒否度は0.00625だ。
仮に、インデックスと個別銘柄の期待リターンが共に5%だとして、インデックスのリスクが20%、個別銘柄のリスクが30%とすると、インデックスファンドへの投資は年率+2.5%相当の効用で、個別株1銘柄への投資は−0.625%となる。期待リターンが8.125%ある銘柄に投資できたらリスクの悪影響を克服できる計算だが、大まかに言って世の中の個別株のリターンの平均を5%だと考えなければならないのだから、それは容易ではない。しかも、リスクの30%は個別株としては「おとなしい方の数字」だ。もっとリスクの大きな銘柄が多数ある。
個別株の投資では早急に分散投資したポートフォリオを作らなければならないことが明らかだ。
従って、個別株投資をこれから始めようとする個人に対して、筆者は、

  1. まず、最初から業種の異なる3銘柄以上に投資して下さい、
  2. 次に、追加の資金ができたら自分が持っていない銘柄に投資して分散投資を拡大しましょう、

と勧めることにしている。
個別株式への投資は「奥の深い良い趣味」だと思うのだが、これを「合理的な資産形成」と両立させるためには、分散投資の利用が必須だ。効用関数を考えると、分散投資が不足することによって損なわれる効用が「趣味のコスト」となる計算である。
だから、最初から分散投資を意識して、「ポートフォリオ」の単位で株式投資を考えて欲しいという意味で「3銘柄以上から」と申し上げている。
すると、個人の場合、「十分な分散投資を行う資金がない」場合が生じてくる。せっかく株式投資に興味を持ったのに、「まとまったお金ができるまで、投資を始められない」と思って行動を起こさず、その後うやむやになってしまうようなケースは残念だ。
また、仮に3銘柄で始めることができても、銘柄を追加する資金を計画的に捻出する仕組みを作らないとポートフォリオが育たない。

+++1銘柄の追加に幾らかかるか
##1銘柄の追加に幾らかかるか

2020年10月2日時点の東証一部上場銘柄の株価の単純平均は、全銘柄で2,197円、大型株で1,473円だ。単元が100株の銘柄が多いことから、大型株を1銘柄買うのに約15万円掛かるとめどが付く。3銘柄だと45万円なので、50万円近いお金を投資に回せないと個別株投資を始められないことになる。
生活のための資金をある程度確保しておかなければならないことを考えると、若いサラリーマンなどにはハードルが高いと感じられる場合があるかも知れない。
どうするか、と思案した時に良いアイデアがあった。

##インデックス投資家の「リレー投資」

かつて、インデックス投資家の間で「リレー投資」と呼ばれた方法があるのだが、この方法を個別株投資に応用するといいと思い至った。
インデックスファンドのリレー投資とは、公募の投資信託で積立投資を行い、まとまった額になるとこれを解約してETF(上場投資信託)を買い付ける方法を指す。10年くらい前に遡ると、信託報酬は公募の投資信託よりもETFの方が安く、両者にそれなりの差があったために、手数料を節約する方法として一部の個人投資家が編み出して愛用した。
その後、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートした影響もあって、公募のインデックスファンドの手数料引き下げ競争が起こり、ETFとの信託報酬の差が殆どなくなったので、この方法は話題にならなくなった。
インデックスファンドのリレー投資で節約できる手数料は、率直に言って当時からそれほど大きなものではなかったが、(1)毎月積立て投資で投資額を増やしていく習慣、(2)リターン獲得の機会を失わないこと、(3)手間を掛けることによるポートフォリオへの愛着、などの点で良い方法であると筆者は思っていた。

+++個別株への「リレー投資」の応用
##個別株への「リレー投資」の応用

個別株投資バージョンのリレー投資は例えば以下のように行う。
(1)投資信託の積立投資の口座を開いて、毎月ノーロードで運用管理費用の安いインデックスファンドに積立投資を開始する。
(2)インデックスファンドの選択は一応外国株式と国内株式を半々に投資することを推奨するが、大差はないので、どちらか一方でも、あるいは全世界株式1本でもいい。
(3)3銘柄買える金額ができたら必要資金を解約して、個別株の購入に充てて、個別株のポートフォリオ運用を開始する。
(4)インデックスファンドの積立投資はずっと継続する。
(5)追加で買いたい銘柄の金額が貯まったら、また必要額を解約して、追加の個別株投資の代金に充てる。
(6)上記の(4)と(5)を継続し繰り返して個別株のポートフォリオを育てる。
(7)個別株のポートフォリオをどこまでも育ててもいいし、インデックスファンドへの投資を拡大してもいい。ただし、後者の場合、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどの口座を開いて優先的に使うといい(詳細後述)。

仮に、毎月5万円の積立投資ができると、一年以内くらいに個別株投資を始めることができて、毎年大型株だと3〜5銘柄くらいに投資できる。3カ月くらいかけて次の投資銘柄を探すプロセスを、ほどよいリズムだと感じる投資家もいるのではないだろうか。
個別株投資バージョンのリレー投資にもいくつかメリットがある。
(1)積立投資で資金を確保する習慣ができることと、(2)投資機会を失わないことは、インデックスファンドのリレー投資と同じメリットだが、この他に、(3)個別株に興味を持っていても投資を始めるのが億劫だと思った場合にもともかく投資を始めるきっかけができること、(4)個別株投資を休んでいても投資が拡大的に継続できることなどが好ましい。
また、(5)カード決済で投資信託の積立投資を行うとポイントが付与される証券会社もあるので、こうした仕組みを利用して投資信託経由で投資を行うと「ポイントが得だ!」と感じる投資家もいるだろう。

+++iDeCo、つみたてNISAとの関係
##iDeCo、つみたてNISAとの関係

インデックスファンドからのリレー投資で個別株運用を行うとする投資家にとって、この方法と、iDeCoやつみたてNISAとの関係をどう考えたらいいのだろうか。
まず、iDeCoは口座内で積立投資ができるのだが、原則として60歳まで資産を引き出せないので、ここで説明したリレー投資とは両立しない。加えて、iDeCoの場合、課税される所得のある人は、掛け金を所得控除できるメリットが大きいので、これを利用しないことは「かなり勿体ない」。iDeCoに資金を回さずに、リレー投資を行うとすれば、iDeCoで得られるはずのメリットを放棄する金額(経済学用語では「機会費用」)を「趣味のコスト」に算入しなければならない。
趣味への評価は人それぞれなので、「だから、止めろ」とまでは言わないが、iDeCoを使わないことの経済的コストが大きいことは指摘しておくのが正しい親切というものだろう。
「iDeCoを最大限利用した上で、さらに個別株投資ができるといいね」と声がけするのが筆者の立場では無難なのだが、個別株投資の仲間を増やしたい気持ちからすると、これでやる気を失う投資家がいると思うといささか残念だ。
もっとも、個別株投資をするためには、ある程度余裕がある人の方がいいのも一理ある考え方だ。総合的に考えて、iDeCoに優先席を譲るのは仕方がないのかも知れない。
つみたてNISAとの比較も少々微妙だ。リレー投資の積立につみたてNISAの口座を使うことで直接的に損はしない。むしろ、短期間の積立でも利益が出ていた場合に非課税のメリットが生じる。
しかし、つみたてNISAは、解約してしまうとその金額分の非課税運用メリットを放棄することになる。仮に、期待リターンを年率5%と考えると、課税が2割として年率1%相当のメリットを放棄することになり、これもそれなりの機会費用だ。また、20年間の複利運用の利益に対する非課税メリットを放棄するのだと考えるとまた一段と惜しい気持ちになる。
こうした比較が問題になる経済事情の投資家の場合、個別株投資は、「あくまでも趣味として」お勧めするのがいいのかも知れない。
一方、ある程度以上の金額のポートフォリオを作ることができるなら、個別株投資のポートフォリオは、インデックス投資に対して大きな遜色のないポートフォリオを作ることが可能だし、インデックス銘柄の入れ替えやウェイト変更で損をする可能性を心配しなくていいし、信託報酬も掛からない。加えて、もちろん「趣味としても楽しめる!」とも申し上げておこう。

楽天証券株式会社
山崎元「ホンネの投資教室」   楽天証券株式会社
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てください。
本資料は情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。
銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。
本資料の情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本資料の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本資料の記載内容は、予告なしに変更することがあります。

商号等:楽天証券株式会社/金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第195号、商品先物取引業者
加入協会:
  日本証券業協会
  一般社団法人金融先物取引業協会
  日本商品先物取引協会
  一般社団法人第二種金融商品取引業協会
  一般社団法人日本投資顧問業協会

このページのトップへ