なぜバフェットは日本の商社に投資をしたのか。進化し続けるバフェットの投資手法

2020/09/08

日本の商社株への投資の意味
米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が、日本の総合商社5社に投資していることを明らかにした。5社は、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の大手5社で、投資額は各社の時価総額の5%程度だ。今後、10%程度まで投資を積み増す可能性があるという。

5社への投資額はおおよそ6,000億円くらいになる。バフェット氏の事業が運用する資産全体から見ると大きな額ではないが、なかなか印象的な投資だ。

筆者は、バフェット氏が、3つの段階を経て投資手法を進化させてきたと考えている。今回の日本の商社株への投資はその第3段階目の具体的な表れではないか。

バフェット氏の投資スタイルの変遷
バフェット氏の投資スタイルの進化は以下の3段階にまとめられる。

【第1バフェット】割安株を買うバフェット
【第2バフェット】強い企業の株を長期保有するバフェット
【第3バフェット】分散投資するバフェット

もともとウォーレン・バフェット氏の投資スタイルは「バリュー投資」の典型として有名だった。

いろいろなバフェット氏関連本を読むと、投資家としてのバフェット氏の師匠はベンジャミン・グレアムだ。グレアム氏は、企業本来の価値よりも安く投資できる株式を買う「バリュー投資」を理論化して実践した人だった。

「企業本来の価値」の具体的な求め方はなかなか難しいが、共に保守的に評価した場合の企業純資産と企業が持つ事業の価値の合計を基準に考えるといいだろう。

これよりも株式の時価総額が大幅に下回る場合に、その企業の株価は「割安だ」と評価できる。企業の本来の価値(一株当たり)と株価の差を、投資を守る上でのセーフティー・マージン(「防御帯」とでも訳すか)だとグレアムは考えた。

割安株投資の有名な喩え(たとえ)としては「家具付きの家を、家具の代金以下で買うような投資」という表現がある。

「割安株を買って、株価が上昇して割安でなくなったら売る」という投資スタイルは、素人にも分かりやすい。

この方法のどこに問題があるのか?

実は、ある。

もちろん「割安」の判断の正しさとその後の優位な値上がりが実現するか否かが大事だが、ベンジャミン・グレアム方式だと、仮に投資時点での判断が正しくても、投資した時点で割安だった株式が適正水準に上昇したらこれを売らなければならない。

すると、その際に国や個々の事情によって税率は異なるが、税金を支払わなければならないし、もちろん売買には証券会社の手数料とマーケット・インパクト(自分の売買による株価変動)によるコストが掛かる。

こうした事情を考えると、「売らずに長期保有できる株」の価値が大きいことにバフェット氏は気づいた。この気づきには、バフェット氏の長年のビジネス・パートナーでバークシャー・ハサウェイのナンバーツーであるチャーリー・マンガー氏の貢献が大きかったようだ。

この考えは、「適正な価格で売られている偉大(グレート)な会社は、割安な(グレートな)価格で売られているそこそこの会社よりも優れている」というマンガーの言葉に集約できる(監訳・林康史、翻訳・石川由美子、解説・山崎元「マンガーの投資術」日経BP社)。

バフェットとマンガーは、「グレートな会社」の評価の上では、新規参入者に対する競争上の優位性を重視しているように見える。例えば、彼らが長期にわたって株式を保有しているコカコーラ社は、大きな資本力、マーケティングの力、国際的な展開力を有しており、別の清涼飲料メーカーがヒット商品を出しても、同様の商品で後追いすることで十分以上に対抗できる。

もちろん、株式を買う時にはその時の企業価値よりも安く買えることが望ましい。この考え方を、現在でもバフェット氏は重視している。

日本の大手総合商社株は、「割安株」、「高配当利回り株」として名前が上がる銘柄の常連であり、悪くない投資タイミングだと考えたのだろう。

バフェット氏と分散投資
バフェット氏には、銘柄を絞った集中投資のイメージがあるだろう。投資する銘柄を絞って、その選択がうまくいったからこそ、過去に市場平均を上回るパフォーマンスを叩き出すことができて今日の名声がある。マンガー氏にも「分散投資をありがたがるとは、気が違っているとしか思えない」(前掲書、p40)という言葉がある。

では、今回の日本の総合商社に対する投資はどうだろうか。同じカテゴリーの会社であるにもかかわらず投資先を絞らずに、伊藤忠商事にも、三菱商事にも、丸紅にも投資するというのは「気が違った」のだろうか?

おそらくは、「気が違った」というよりは「冷静になった」のだろう。

日本の5大商社のビジネスの優劣と企業価値に対する株価の高低を判断することはバフェット氏にとっても簡単ではなかったのだろう。加えて、投資銘柄を絞った場合に投資を積み増していることが情報として早く伝わることを嫌った可能性もある。

今回投資した5社のそれぞれが、バフェットとマンガーの眼鏡にかなうような「グレートな会社」であるかどうかには疑問が残る。総合商社は独特の業態だが、多くのビジネスが競争にさらされていてマージン(利益率)が厚いビジネス構造ではない。

ただし、複数の商社に分散投資することによって、今後発生する商社間の優劣の凸凹をある程度吸収することはできる。意図的に分散投資を使っているのだとすると、バフェット氏の投資手法に進化が感じられる。

今回の投資行動自体は「対象間の優劣が分からない場合は複数の対象に分散投資するといい」という投資理論的合理性にかなっている。

しかし、プロのファンドマネージャーにも「自分は銘柄間の優劣が分からないので分散投資しておこう」という割り切りは、正しくてもなかなかできない。行動経済学的には、「オーバーコンフィデンス(自己過信)」があるからだ。心理学の研究によると、ファンドマネージャーのような人種(=専門家、性別では男性)は、特にオーバーコンフィデンスの影響が強いとされている。

また、米国人のバフェット氏から見て、日本の株式への投資は「国際分散投資」でもある。おそらく「自分に理解できないビジネスに投資しない」という信条からだと推測されるが、これまで、バフェット氏は国際分散投資に積極的ではなかった。しかし、今回は国際的な分散投資に踏み込んだ。この点でもバフェット氏は投資家として進歩したのかも知れない。

なお、バフェット氏は個人としての資産の9割をS&P500に連動する手数料が低廉なインデックス・ファンド(ヴァンガード社のETFらしい)で妻に遺すと言っている。国際的な分散投資ではないが、今や集中投資ではなく分散投資がいいと考えているようだ。

世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏だが、(1)割安株の投資から始めて、(2)長期保有の有利性に目覚め、さらに(3)分散投資の有効性を活かそうとする、「進化」は素晴らしい。

マンガー氏の前掲書には「バフェットは地上で最高の学習マシンだ。…彼の投資技術は65歳になってから格段に向上した」という言葉がある。バフェット氏は90歳になったが、さらに進化した。

なお、日本の投資家には、90歳にしてなお旺盛な投資を続けているバフェット氏の姿勢を一番学んでほしい。ちなみに、ビジネス・パートナーのチャーリー・マンガー氏はバフェット氏よりも7歳上だ。

晩年になると株式の保有比率を減らして預金や債券を多く持つべきだという「通念」はしばしば不適切だ。ある程度以上の資産家の場合、晩年になると、今後必要な金額の見通しが付きやすくなり、むしろ安心してリスク資産に投資できるようになる場合が少なくないはずだ。

最晩年の数年であっても、投資には十分な長さだ。十数年ともなると、その間投資を行わないことは、まことにもったいない。日本の高齢者には、自分自身のためにも、相続人のためにも、バフェット氏になったつもりで投資を続けてほしい。

ただし、バフェット氏自身は、これから普通の人が自分のようにうまく投資ができるようになることに対して懐疑的な発言をしており、インデックス・ファンドへの投資を勧めていることを付言しておく。

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