『永久低金利神話』復活か─黒田日銀の安倍政権“従属”観測で

2018/03/26

 

市場では「長期金利上昇」観測が消えつつあり、超低金利はかなり長期化しそうな情勢です。

市場から消えつつある「長期金利上昇」観測

日本銀行は3月会合(3月9日)で大規模緩和の維持を決定しました。5年前、日銀への緩和圧力強化──すなわち『アベノミクス・第一の矢』を掲げ誕生した安倍政権が任命した黒田総裁やリフレ派の岩田副総裁らの体制では最後となる会合でした。決定自体は市場の予想通りでしたが、最近、市場に異変が生じています。

昨秋に高まった、緩和縮小観測──すなわち「長期金利の誘導目標を0.2%程度引き上げる」との観測──が市場から姿を消しつつあるのです。ブルームバーグ集計によると「黒田総裁の任期が切れる2018年4月以降には日銀が緩和縮小に動く」との見方が大勢(全体の8割)でした(2017年10月調査)。そして「2018年中に緩和縮小に動く」との見方は5割に増えていました(12月調査および2018年1月調査)。しかし直近2月調査では3割を割り込んだのです。「長期金利上昇」観測が市場から消えつつあります。

黒田日銀の緩和縮小の動きを封じた首相続投

昨秋、「長期金利上昇」観測が広まったのは、首相交代も予想された、苦戦を強いられるタイミングでの意表を突く安倍首相の解散・総選挙表明(昨年9月)を受けた、黒田総裁発言の微妙な変化を市場が感じ取ったからでした。

黒田総裁は会見(昨年9月21日)で、2%物価目標が明記された政府との政策協定(アコード、2013年1月締結)について、「有効期限を過ぎれば無効」とも受け取れる発言を2度も繰り返しました。そして「労働市場改革と社会保障政策の改革といったことは、まだ必要なものが残っているとは思います」と述べ、構造改革など政府側の役割も定めたアコードの約束を安倍政権は果たしていない、と初めて突き放したのです。「日銀だけに約束の履行を求めるならアコードを破棄し、物価目標を2%でなく現実的な1%等に引き下げる再検討に日銀は動く」とのメッセージと受けとめた市場関係者もいたようです。

さらに、その4日後(9月25日)、黒田総裁は、「生活意識に関するアンケート調査」(日銀)では「物価上昇を8割強の方が『どちらかといえば困ったことだ』と答えている、と述べ「2%物価目標達成は国民感情に反する」と初めて認め、市場を驚かせたのです。かつて白川前総裁が語った言葉です。黒田総裁の「宗旨変え」と市場は受け止めました。

海外勢が黒田日銀の「宗旨替え」に気付いたのは、黒田総裁が大規模緩和の副作用に、『リバーサル・レート』という用語を使って言及したスイス講演でした(11月13日)。日本の「長期金利上昇」観測が海外でも広まりました。

安倍政権の緩和圧力で『永久低金利神話』復活か

市場の流れを変えたのは、予想外に首相続投となった総選挙(昨年10月)結果だけでなく、かつての『アベノミクス・第一の矢』への安倍政権のこだわりです。市場は「自民党総裁選(2018年秋)3選に向けたアピール」「アベノミクスが成功しているという建前維持のため」と冷ややかです。

市場が根拠とするのは、(a)日本経済への打撃は考えにくい1ドル=108円割れ水準での奇妙な口先介入でした(2月半ば)。財務官、財務相、官房長官から円高牽制発言が相次いだのです。108円台には、6年目に入った『アベノミクス円安』とも言うべきドル上昇トレンドの下値抵抗線が通っていました。もしも108円台割れが定着してしまえば、5年前、日銀への緩和圧力で1ドル=80円前後からスタートした『アベノミクス円安』の終焉を意味しかねない、と恐れた模様です。

さらに、(b)安倍首相は「2019年消費増税や東京五輪の反動による内需落ち込みに政府一丸となり具体策検討が必要」(2月20日)と強調しました。しかし日銀は、外需が下支えし「成長ペースは鈍化するものの景気拡大は続く」(経済・物価情勢の展望、2018年1月号)と判断しています。IMF(国際通貨基金)も世界景気拡大による輸出増等で日本の2019年GDP成長率予測を逆に上方修正し0.9%増としました(1月22日)。これは潜在成長率並みで、景気悪化とは言えません。経済情勢でなく、政治的な思惑による日銀への緩和圧力の高まりを、市場は感じ取ったようです。

そして、(c)上述の3月会合後の黒田総裁の会見は、経済情勢でなく、政治圧力による『永久低金利神話』復活を市場に印象づけました。上述の昨秋までの発言とは正反対のトーンで、「2%の物価目標が達成されなければ緩和縮小はありえない」ときっぱり断言したのです。しかし市場は、日本の経済力では「2%物価目標は非現実的」と全体の7割がみています(前述ブルームバーグ2017年9月調査)。安倍政権が国会に提出した人事案で黒田総裁続投が確実となったタイミングでの会見でした。政権への“従属”につき「日銀の独立性」を問い糾(ただ)す記者もいました。超低金利はかなり長期化しそうです。

【コラム】2%物価目標が導入された経緯

白川前総裁は2012年12月20日の会見で「(一昨日の)18 日に、総選挙後のご挨拶のため安倍総裁のもとに伺いました。その際、安倍総裁から『2%の物価目標という政策協定(アコード)を結びたいので、ご検討頂きたい』という趣旨のお話がありました」と述べています。

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かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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