イタリア国民投票、円高につながらず─ユーロ上昇の兆し

2016/12/06

 

オーストリア大統領選では移民排斥派の候補が敗北し、『EU離脱ドミノ』懸念は和らいでいます。

欧州発の不確実性の地雷は不発に

  欧州各国で来年にかけて予定されている一連の国政選挙のうち、二ヵ国の結果が12月5日(日本時間)に判明しました。(1)オーストリア大統領選は、移民排斥を唱え欧州連合(EU)に反対する極右政党の候補者が敗北し、欧州単一通貨ユーロの下支え要因となりました。一方、(2)イタリア国民投票ではレンツィ首相の憲法改正案が、事前の市場予想通り否決されました。ユーロは、一時1.06米ドル台から1.05米ドル台へ急落した後、程なく1.07米ドル台へと逆に上昇しました。チャートをみますと、この1.05米ドル付近でユーロは3回も下落を阻まれていることもあって(2015年3月頃、11月頃、2016年11月頃)、先行きユーロ上昇の気配が感じられます(図表参照)。ドル/円については方向感を欠き、「リスク回避の円買い」はみられませんでした。

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  欧州各地の国政選挙は、市場参加者の一部が「リスク回避の円買いにもつながる『欧州発の不確実性の地雷』」と警戒しています。今回も「憲法改正案が否決されれば、『EU離脱ドミノ』懸念や『イタリアの銀行不安』を助長し、投資家のユーロ資産離れを加速しかねない」との声もありました。しかし結局、ユーロは堅調、欧州株式市場も各国株価は軒並み小幅高でした。

否決は「反EU勢力の勝利」を意味しない

  イタリアでは、反EU勢力の新興野党「五つ星運動」が、世論調査ではレンツィ首相率いる民主党とほぼ互角です。否決結果を受け、五つ星運動の支持者は歓声を上げ、一部メディアは「反EU勢力の勝利」と報じました。もっとも市場は、必ずしも額面通りに受け止めませんでした。

  今回の憲法改正案は、上下院が同等の権限を有するために構造改革に向けた迅速な法案通過が困難で、短期間で繰り返される政権交代の元凶ともなっている現状を是正するため、上院の権限を削減し下院の権限を強化する内容です。世論調査ではイタリア国民の多くはEU残留を望んでおり、「独裁政権発足を許し第二次大戦に突入した反省を踏まえ上下院の権限拮抗が規定された現行憲法がもしも改正されれば、反EU勢力の暴走を許す恐れがあるとイタリア国民は恐れた」(英紙ガーディアン)模様です。

イタリアの銀行不安は深刻化するか?

  焦点となっているイタリア大手行のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(以下、モンテパスキ)は、EBA(欧州銀行監督機構)が本年7月に発表したストレス・テスト(銀行の健全性審査)結果において、「景気が極端に悪化する」という欧州債務危機時よりも厳しいストレス(負荷)をかけた場合に「債務超過に陥る」と判定された(欧州主要51行の中で)唯一の銀行です。他の欧州銀行は、欧州債務危機後に財務基盤の増強に努めた成果が示唆され、全般的な欧州銀行の健全性向上を印象づける結果でした。

  ストレス・テストは、不良債権の認定手法も含めこれまで欧州内でバラバラであった銀行ルールを統合する動きの一環でもあります。融資先企業の破たん認定に欧州最長の3~5年かかっていたイタリアの法制度を背景に、モンテパスキの不良債権額の突出があぶりだされた形です。しかし、イタリア当局によるEU共通の法制度作りが進んでおり、モンテパスキも不良債権の半減や全支店の4分の1相当の約500支店閉鎖等を盛り込んだリストラ策を遂行中です。

  イタリア経済は、レンツィ首相らが痛みを伴う解雇規制の緩和など構造改革に取り組み、失業率は低下し始めています(2014年12.7%→2016年11.5%<欧州委員会推計値>)。かつて大幅な赤字であった経常収支は輸出増により黒字に転換しており、欧州債務危機の誘発原因ともなった財政赤字(対GDP比)は、景気拡大に伴う税収増もあって大幅に改善しています(2010年4.5%→2016年2.4%<同>)。銀行の不良債権を急増させる経済情勢ではありません。

  モンテパスキは過去に発行した債券を、返済期限の無い株式に交換することで財務の柔軟性を高める財務基盤強化策も遂行中です。市場はこれを好感し、格付けに準じる信用力の指標であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドは、本年初には700bps超でしたが、現状400bps台にとどまっています。銀行の信用不安は発生しにくくなっています。

明治安田アセットマネジメント株式会社
明治安田アセット/ストラテジストの眼   明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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