米中通商合意近い、テクニカル株価調整の出口近し

2018/11/19

【ストラテジーブレティン(213号)】

(1)米中貿易戦争の帰趨

問)) この秋の相場、非常に荒い値動きでした。少し落ち着いてきたかにも見えますが、市場には米中貿易戦争が深刻化し、とてつもない危機が起きるかもしれないという潜在的恐怖がありますね。米中貿易戦争と中国経済の先行きをどう見ていらっしゃいますか?

武者) 10月4日ペンス副大統領がハドソン研究所において、非常に厳しい中国批判スピーチを行った。これまでの貿易や経済に限定していた批判の枠を超え、政治、軍事、情報、技術、あらゆる面での中国の不公正さを非難した。いよいよ米中冷戦の時代となり、国家安全保障が経済に優先する時代に入っている、との論評が強まっている。この米中冷戦の不安が、10月の世界株式急落の背景にあった。ペンススピーチの直後から10月末までに日経平均は3000円、12%ダウンと、歴史的暴落が記録された。中国に対するアメリカの敵視政策への転換がどのような結果をもたらすかが見えないから不安定である。

しかし、米中冷戦が、当面の経済や米中通商関係を破局させるわけではない。このことが明らかになった時点で安心感が戻ってくると思われる。11月30日にブエノスアイレスでG20サミットが開催され、それに合わせてトランプ、習近平会談が計画されているが、そこで一定の合意がなされ、貿易通商の暗雲が晴れていくのではないか。米国は中国の不公正貿易慣行の是正を要求し、対中輸入品目2500億ドルに対して10%の関税を課したが、要求が満たされなければ、2019年1月からさらに関税率を25%に引き上げると、圧力をかけていた。それに対して中国は140数項目の回答を準備し、大きく譲歩せざるを得ないだろう。

米中貿易戦争で私たちが見なければならないのは、中国とアメリカの総需要がそれによってどれだけネガティブな影響を受けるかだ。結論的に言うとアメリカの総需要はほとんど関係ない。他方、中国は米中貿易戦争の結果、中国の工場をよそに移す企業が出てくる事で設備投資は明らかにマイナスの影響を受けている。それが工作機械や半導体関連の受注に明らかに表れている。ただそれが中国経済全体を腰折れさせるとか、総需要を大きく落として世界の金融危機の引き金を引くことにはならない。設備投資はスローダウンするがインフラ投資や金融緩和、民間企業金融支援策により景気は持ち直すだろう。また中国での設備投資を抑制した企業は、ベトナムや台湾、タイなどの、代替地での設備投資を始めるだろう。

5GやIoT本格化を前にして、世界のスマホの需要が20億個強で頭打ちになるというプロダクトサイクルの転換点にきている。また半導体に関して言えば、仮想通貨のマイニングの設備の需要が大きく落ち込んだ。これら局部的問題が全般の設備投資の抑制と景気の後退につながるものではない。

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