トランプ次期大統領の政策は予見不能
2025年の株式相場を展望するにあたって、最も考慮すべき問題は米国のトランプ次期大統領の政策が世界及び日本の経済・産業に与える影響である。トランプ氏の経済政策の効果を分析した研究は米ピーターソン国際経済研究所のものがあるほか、IMF(国際通貨基金)も10月に発表した世界経済見通しで、事実上、トランプ氏が当選した場合のリスクシナリオとしての試算を行っている。
しかし実際にマーケットの見通しを立てる場合、その初めの段階から、どのケースをベースシナリオとして使用するかという難問に直面することになる。トランプ氏が掲げている政策は矛盾を内包しているため、それらがすべて額面通りに実施されるとは思えないからである。議会は上院・下院とも共和党が多数を占めるトリプルレッドとなり、トランプ氏は政策を進めやすくなっているのは事実だ。また、閣僚人事などはすべて自分の息のかかったイエスマンで固めているので、トランプ氏を止める者はいない。しかし、そうした政治的な制約の少なさと経済的な矛盾の調整とは別な話である。
すでに多く指摘されている通り、トランプ氏の政策はインフレ再燃や財政の悪化を招くリスクがある。減税や規制緩和は、ただでさえ強い米国景気をさらに刺激し、インフレ圧力を高める。移民の送還も労働供給の制約となりインフレには悪影響がある。
政策実行の複雑さで言えば関税政策はその最たるものだ。前回のトランプ政権時に同様の高関税政策がとられたが、それによって米国の製造業が恩恵を受けたわけではなかった。報復関税などを考えれば、効果はマイナスだ。関税で輸入品の価格が上昇しツケがまわるのは最終的には米国の消費者である。それでも保護主義的な政策で米国に製造業を呼び戻すという姿勢を徹底的に貫くことが支持につながるとトランプ氏は考えている。
また、トランプ氏は関税を他国との交渉カードとして利用する。すでにメキシコやカナダ、中国にもディールを仕掛けている。こうなると関税は単なる通商上のイシューではなく、外交・安全保障の観点からも議論される問題となる。
最終的には、前回のトランプ政権時同様、適用除外など抜け道が用意されて、実行される関税率はトータルではそれほど高まらないこともあり得る。また、ディールの材料であれば、相手国の出方によって撤回や変更もある。いずれにせよ、関税政策についての全容とその影響が明らかになるのは2025年の後半ではないか。
国内外の堅調な景気と日本企業の増益基調の継続
そう考えると、2025年の世界経済の成長率は、ひとまず従前どおり3%強と仮定するのが適当か。世界的にインフレが鎮静化し、中央銀行は金融緩和を進め、グローバル景気は緩やかに回復基調を辿るだろう。そうした環境下、「グローバル景気敏感」とされる日本の上場企業の業績は底堅く推移する。
国内の景気も堅調である。資材高などがピークアウトしている一方で、企業の設備投資の潜在的な需要は高い。人手不足がボトルネックだが、先送りされた設備投資も徐々に進展し実行に移されていくだろう。2025年の賃上げも高い水準になることが予想される。「年収の壁」も税制改正で調整されれば、消費には多少なりともプラスの効果があるだろう。
プライム上場企業の業績は2024年度中間決算時点で4年連続最高益だが、本決算もこのまま着地して、来期2026年3月期も5年連続の最高益更新を目指す。しかし、さすがに業績の伸びの勢いは鈍化するだろう。上場企業全体では10%前後の純利益の伸びとなるのではないか。
すでに製造業は業績不振が鮮明になっている業種も散見され、企業ごとに回復の度合いが異なるだろう。サービス業は堅調さを維持すると思われるが、ポイントは価格転嫁が奏功するかだ。そのカギを握るのは物価と賃金上昇の好循環だが、その観点からも来春の賃上げ動向を注視したい。
金融・防衛関連が有望
注目セクターは金融だ。金利上昇や新しい少額投資非課税制度(NISA)など良好な国内環境を背景に好調が継続するだろう。加えて米国の規制緩和も追い風になる。トランプ政権による反トラスト法(独占禁止法)の運用強化撤回によってM&A(合併・買収)が活性化するだろう。特に金融や暗号資産、プライベートエクイティなどの分野ではM&Aが増加しそうだ。米国の規制緩和であっても、これらの分野はグローバルなスピルオーバー(波及)効果があり、日本の金融機関にも恩恵があるだろう。
トランプ氏の政策が経済に与える効果は現時点では不透明だが、国際情勢に及ぼす影響についてはある程度、予見可能だと考える。トランプ氏の米国第一主義は端的に言って「米国以外の世界」への関与の低下であり、それはグローバル協調体制の脆弱化とロシア、中国、イラン、北朝鮮などの権威主義国家の増長を招く。その結果、世界情勢はより不安定化し各地で紛争が起こりやすくなるだろう。日本を取り巻く国際環境も安全保障上の緊迫の度合いが増すことは明確である。日米の軍事的な協議がどう進展するかを別としても、三菱重工(7011)、川崎重工(7012)、IHI(7013)、三菱電機(6503)など日本の防衛産業への注目度は高まるだろう。
日経平均の水準感
2025年に日本企業の成長期待が高まる要因が現時点では見当たらないため、日本株のバリュエーション(PER(株価収益率)など)は変わらないと仮定する。よって日本株の推移については業績の伸びと同等の10%程度の上昇を見込む。日経平均株価では4万4000円程度の高値を想定している。
非常に重要な要因として、日本企業の構造改革がある。企業は資本効率を考慮した経営に舵を切っており、持ち合い解消、不採算事業からの撤退などを進めている。そうしたこともあり自社株買いや増配など株主還元は過去最高水準に増加しており、下値を支える大きな材料となる。こうした企業の構造改革が加速するようであれば、成長期待が台頭しバリュエーションも高まるだろう。むろん株価の上値も切り上がる。アップサイドシナリオとして日経平均株価では4万6000~7000円程度までの上昇も想定し得る。
リスク – 欧州危機~ジャパナイゼーション リスクはチャンスでもある
リスク要因のひとつは政治の不安定さだ。国内では夏の参院選まで石破政権がもつかどうか。さらに不安定なのが欧州の政治情勢である。特にドイツではショルツ首相の連立政権が崩壊し、総選挙が2025年2月23日に実施される。連立が瓦解したドイツに続き、フランスでも内閣総辞職が決まった。欧州の政治的な不安定さの背景には反EU(欧州連合)の空気がある。ドイツでもフランスでも極右政党が支持を伸ばしている。
2025年のテールリスクとして「Dexit」を挙げたい。「Deutschland(ドイツのドイツ語による呼称)」と離脱を意味する英語「exit」を組み合わせ「デグジット(Dexit)」、つまりドイツのEU離脱である。
もちろん可能性は極めて低い。だからこそ、テールリスクなのである。(テールリスクとは、実現する確率は低いが起きたら大惨事になるようなリスクのこと)
もしも、そんな事態になればユーロの通貨システムも瓦解し、欧州発の世界恐慌にまで発展するかもしれない。
だからこそ、そんなことが起きる可能性は万にひとつもないが、可能性がゼロでない限り、「デグジット(Dexit)」の悪夢は市場を揺らし続けるだろう。
先日、中国の長期金利が日本を下回ったことが話題となった。昔は日本が唯一、長期デフレに悩まされ、低成長・低金利の代表国だったが、その立場が逆転したようだ。
しかし、驚くことに、今度はドイツの30年債利回りが日本のそれを下回った。
中国も、ドイツも「ジャパナイゼーション(日本化)」に陥り始めている。
世界経済にとっては憂うべき事態である。しかし、そこに少しの光明を見出そうとするなら、国際的な資産配分の観点からは日本株の買い材料になる。中国もダメ、欧州もダメとなれば、相対的に日本のポジションが高まるからだ。中国と欧州、ざっくり言って世界の半分がジャパナイゼーションに陥ろうとするなか、日本はそれを克服し、ようやく長いトンネルを抜け出ようとしている。海外とのサイクルがあまりにも違いすぎるが、今般は逆にそれが有利な立ち位置となりそうである。
こうしたことに加えて、前述の日本企業の構造改革が日本株相場の下支え要因となって大きな崩れはないだろう。仮に「令和のブラックマンデー」のような急落があっても、すぐに買戻しが入るだろう。
びっくり予想
最後にポジティブな意味のテールリスク、びっくり予想を。
日本企業の構造改革が進展し、想像を超えた企業の合従連衡が起きる。
例えば、数年前、幻のスクープに終わった日立(6501)と三菱重工の経営統合とか。化学メーカーは統合が起きても驚かないので、びっくり予想にはならない。むしろ起きないとすれば、あの業界は終わりである。注目のひとつは、経営不振の日産(7201)がどうなるか。この際、どこかに買ってもらったほうがよいのではないかと思う。
いずれにせよ、日本企業はまだ数が多すぎて過当競争で利益率が低い。それを打開する意味でも驚くような企業の再編に期待したい。
2025年は昭和100年、敗戦から80年、戦後日本経済のピークの象徴であったプラザ合意から40年だ。節目の年である。そこから長期上昇トレンドを辿り、再び「坂の上の雲」を見るような節目の年になればよいと願う。