一身独立して、一国独立す
私は1999年から9年間スイス・ジュネーブで生活しました。日本人とスイス人というのはけっこうまじめで、つらいことでも黙々とやりとげるところとか、人前でのプレゼンが下手だとか、長所短所ともに結構共通点も多いと感じたものです。しかし、根本的に大きく違うなと感じたのは、国民と国とのかかわり方でした。
そもそも日本は神話の時代から国を治める主達が存在し、日本人の意識の中には文字通り「お上」という、自分達の上に存在するものとしても国家の概念があります。一方スイスは、フランスやドイツといった超大国の支配下にあることを良しとせず、国を捨て、自らの力で建国した人々が造り上げてきた国です。
このことは例えば健康保険制度に顕著に反映されています。スイスでもし風邪をひいて医者に行くとまず全額自己負担になります。金額でいうと2万円弱でしょうか。あまりに金額が大きくなるので、当初は日本の保険制度の方が随分とすぐれていると思ったものです。ところがしばらくしてあることに気付きました。医療費の自己負担が大きいために、風邪をひかないように、あるいはむし歯にならないよう努力することで、結局病気にならず、結果として全体の医療費も少なくなるということです。ただし、累積の医療費がある金額を超えると、今度は一転して9割を負担してもらえます。
つまり、困らない程度の病気は自分でなんとか対応し、どうしても困った時のみ保険を利用するという仕組みになっています。一方日本の方はすぐ医者や薬に頼ってしまい、医療費は膨れる一方です。実際地方都市へ行くと、町中の商店街は閑散としているのに、郊外のりっぱな病院は患者であふれている光景を目にします。桂文珍師匠の落語に、病院で毎日のように落ち合っている高齢者が、友達の一人が来てなかったので「病気とちゃうか?」というシーンがありますが、それくらい元気そうな人が沢山病院にいるのにはびっくりします。
この健康保険の違いは「お上」が考えて下々のものに与える日本のケースと、みんなで考え、みんなで制度を支えようとしているスイスのケースの典型と言えるでしょう。
このほかにスイスとの違いで驚いたのは公共投資です。例えば、交通渋滞が激しくなったのでレマン湖に橋を新たに造ろうという議論がもう40年以上も続いており、なかなか実現しないということがあります。このようにスイスではかなり優先順位の高い公共投資でも、費用の負担や環境保全など後々のことも考えて簡単に決めません。優柔不断というよりは、皆さんが自分の利益よりも他の人や将来に責任を持っているのです。日本ではすぐ自分の都合で政治家に陳情し、予算を引っ張って来て公共投資をするために、不必要な施設や道路がどんどん造られてしましまいます。このように、国民が国を頼り、政治家や官僚がその気持ちを利用してきた象徴が、現在の1000兆円を超える国の借金ではないでしょうか。
ただ、それもそろそろ限界なのは誰の目にも明らかです。何でもかんでも国の責任にし、国に頼ることは改めなければなりません。かつて福沢諭吉は『一身独立して、一国独立す。』と説きました。当時と日本を取り巻く環境は大きく変わりましたが、今こそこの精神が必要な時でしょう。
さてこの自立をお金の面から見てみましょう。例えばいろいろ不安がある中で老後の不安というのは切実です。年金の問題、健康の問題、生活環境、人間関係等々悩ましい課題が山積みです。その中で例えば年金の問題ですが、おそらくほとんどの人が将来は全く当てにならないと考えているのでしょう。これを解決するには国に頼らず、自分が自分の将来のために、『自分年金』を始めなければいけない時だと切実に思っています。
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