ガバナンス改革の進化

2018/03/26

・監査役会設置会社(東証構成比75%)、監査等委員会設置会社(23%)、指名委員会等設置会社(2%)のうち、どれが望ましいのだろうか。日本の仕組みは1つに決めるのではなく、会社それぞれに都合があるとして、選択肢を用意している。

・一般的な議論として、どの形がよいというよりも、どの形でも的確に運営されて、実効が伴えばよいといわれる。本当にそうだろうか。指名委員会等設置会社は、ガバナンスに問題があった会社が欧米流を選んだ例も多いが、それで業績が上がったとは必ずしもいえない。

・監査等委員会設置会社は、社外取締役を選任しつつ、監査委員会も機能させるという中小型企業向きで、この比率が上がっている。監査役設置会社に社外取締役を入れて、任意の委員会(指名・報酬)も設けるという形も広がっている。

・形だけ整えて実効が伴わないケースもあるが、形だけかと思ったら内実が変化してきたというケースも多い。社外取締役が増えると、取締役会の議論は明らかに活発になる。経営者を経験した人が入り、女性や外国人が加わると、さらに変化してくる。

・それをありがたいという経営者もいれば、面倒は避けたいという経営者もいる。投資家は、コンプライ オア エクスプレインでは満足せず、コンプライ アンド エクスプレインという姿勢で、どんどん説明を求めてくる。そうすると、形を整えてコンプライしているというだけでは済まなくなる。

・PRIやSDGsをよく理解し、経営のビジョンや中期計画にそれらを明確に盛り込んでいくと、海外の投資家との話が弾むようになる。つまり、日本型経営といって従来は抽象的であったものが、価値創造のしくみに、非財務情報とりわけESGを組み込んでいくと、企業の理解が深まっていく。

・社外取締役が2人以上いる東証上場企業は、2014年では全体の14%であったが、2017年には88%に上がった。3年でこれだけ変化した。次のCGCで新たな方針が出れば(例えば、3人以上とか3分の1以上とか)、変化はもっと加速しよう。

・取締役会の実効性評価も進んでいる。内部の自己評価が多いので、形を整えてコンプライといわれても、投資家は必ずしも納得しない。当然、CEOやCFOに取締役会の内情を聞く。社外取締役にも聞きたいとなる。議論されている内容の秘密を知りたいわけではない。きちんと議論されて、それがいずれ意思決定情報に結びついていることを、エピソードを通して、ストーリーとして知りたいのである。

・欧米の企業でも日本の企業でも、統合報告は簡単には作れない。財務レポートがあり、サステナビリティ(CSR)レポートがあり、それぞれの質が高かったとしても、IR(統合報告)にまとめるのは容易ではない。まず、まとめるとか合体するとかいう発想が適切でない。

・統合思考(IT)に基づいて、書き下ろすことが求められる。その前提として、ITを経営全体に取り入れて、ビジネスモデル、戦略に組み込むべく取締役会でしっかり議論しておくことが重要だ。投資家もESGを投資の軸に据えておく必要がある。

・欧州からは、経済、社会、環境という3つの軸(トリプルボトムライン)をベースに、企業経営を展開することを望まれる。ESGを企業価値創造に明確に組み込んでいく必要がある。知的資本、人的資本など無形資本への投資について、KPIを定めて、しっかり結果(アウトカム)を出していくことが求められる。

・そんな要求を内外のステークホルダーから出され、しかも原則主義とはいいながら、次第にルール化されていく。企業経営者は、やらされ感で疲れてしまうのだろうか。経営者には3つのタイプがいる。

・1)1つ目は、何か世の中はうるさくなっているが、自分の事業をしっかりやって、計画と予算を達成していくことに徹し、あとは余り気にしないというタイプ、2)2つ目は、いろいろ対応する必要があるので、経営企画、IR、CSR部門にしっかりやっておけと檄を飛ばすが、取締役会で本気で議論するつもりはないタイプである。

・3)3つ目は、新しい時代がきており、ステークホルダーを味方につけて、長期的な経営に邁進しよう。足元だけに捉われない経営ができるので、マネジメント本来の力が発揮できる。よって、会社経営が面白くなってきたというタイプである。投資家は当然第3のタイプの経営者と本気で議論したい。第1、第2のタイプの経営者には改革を求める。

・本質は何か。自らの企業と経営をIT(統合思考)で見える化することである。それを価値創造の仕組みであるビジネスモデル(BM)として確立すべく、戦略を立案して遂行する。その結果をレポートする。中身が十分でないのに、IR(統合報告)だけいいものを作ろうとしても、それは難しい。

・取締役会の過半数が社外取になってきた時に、何が重要となるか。まずは、議長が社外になると、その手綱さばきが問われる。多様な意見を適切に引き出して、まとめていく必要がある。その企業がおかれた経営課題を的確に設定して、監督と助言ができる社外取締役を選んでいく必要がある。

・適任の人材プールは限られている。経営者、女性、外国人と多様化させ、CEOの友達ではない候補者を、どのように見出していくのか。社外取締役になる方も安易には受けられない。経営者の資質や企業のカルチャーが十分納得できなければ、職責が果たせないからである。

・社外取締役になった時には、CEOはじめ、執行サイドのマネジメントがどこまで協力的であるかが鍵である。オープンに話しをして、情報が十分に出てくるのであれば、議論が活発化する。オーナー型の企業でも、サラリーマン型の企業でも、異分子を許容して、聞く耳をもつかどうかが最も重要であろう。黙って座って、迎合するだけでは全く意味が無い。

・日本企業には中期3カ年計画と同時に、長期10カ年計画を作ってほしい。理念やビジョンとともに、3カ年計画を3期立てるとして、10年に亘る目標がほしい。そうでないと、3カ年は短かすぎるし、いきなり創業の精神と言われても結びつきが悪い。もっと言えば、ESGも含めて、国際比較が十分できない。

・欧州では環境(E)の議論が活発である。気候変動は長期にわたる重大関心事で、社会的課題である。それを与件として無視することはできない。環境対応は単なるコストではない。リスクマネジメントとしてしっかり取り組む必要がある。ありえない災害というレベルではない。

・そして、イノベーションによって、環境対応を進めることは、ビジネスチャンスであり、価値創造に結びつく。このレベルまで統合的に考えよ、と言われる。できるところから始めるとしても、多くの日本企業にとっては、スコープの違いに戸惑うであろう。

・統合思考は、自社の枠を超えたバリューチェーン全体をみていく。多様なステークホルダーを見よ。10年ではなく、25年を想定せよといわれる。この議論についていけるか、乗っていけるか。

・味の素の西井社長は、2017年の統合報告書をまとめたおかげで、欧州の投資家との議論が楽しいという。つまり、議論の質が高く、自社の思いを同じレベルで語ることができる。そうなれば、しめたものである。

・ESGをどう語るか。取締役会の実効性をどう語るか。うまくいっていてもいなくても、同じ状態をそのまま伝えようとすると無理がある。その場合は、1)うまくいっていない時にどう改善したかを、エピソードとして語る。2)自己満足するのではなく、次にどういうステップに進むかを議論する。3)そのために、統合報告書を書きおろし、投資家と議論する。そうした活用が経営改革に結びついてこよう。

・まとめてみると、BMの持続性(サステナビリティ)が問われている。そのためには、統合思考(IT)に基づく統合的戦略を実行していくべきである。当然、BMには財務キャピタルだけでなく、非財務(無形)キャピタルを明示的に組み込んでいくことが鍵となろう。

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