21世紀型企業の条件

2012/03/19

カルビーの松本晃会長兼CEO話を聴いた。松本氏は伊藤忠商事に21年いて、45歳の時に一区切りつけた。23社からスカウトの話があったが、その中からジョンソン&ジョンソン(J&J)を選んで入った。

J&Jの日本法人の社長を9年務め、60歳でまた区切りをつけた。J&Jの理念はクレド(Credo)にすべて込められており、何かあればクレドに戻る(Back to our Credo)が基本である。クレドは世界で最も優秀なドキュメントである、と松本氏はいう。

J&JのOur Credo(我が信条)は4つから成り立っている。第1が全ての顧客に対する責任、第2が全社員に対する責任、第3が地域社会に対する責任であり、第4が株主に対する責任である。

顧客に対する責任では、質の高さ、適正な価格、迅速・正確、取引先への適正な利益提供をあげている。社員に対しては、世界中で共に働く男性、女性に安心、公正、家族への配慮、平等の機会、そして有能な管理者の任命をあげている。地域社会に対しては、社会、健康、教育への寄与、環境の保護と適切な租税の負担をあげている。株主に対しては、健全な利益、革新的な企画、逆境に備えた蓄積、株主への正当な報酬をあげている。順番でいえば、株主は4番目である。

松本会長は、21世紀型企業の条件として、次の5つをあげている。(1)クライシス・マネジメントができること、(2)コンプライアンス(法令順守)がなされること、(3)コーポレート・ガバナンスができていること、(4)CSR(企業の社会的責任)をしっかりやっていること、(5)ビジネス・リザルト(業績)を出すこと、である。(5)の業績の結果を出すには、(1)~(4)ができていないと無理で、(1)~(5)の掛け算で企業の価値が決まる。これを一発でカバーしているのがクレドであるという。

クライシス(危機)には、天災やその会社に起きる事件など、さまざまなものがありうる。これにはキープロセスがあり、1)顧客優先、2)情報開示、3)率先垂範、4)スピード、5)再発防止の順に進める必要がある。情報開示で重要なことは、組織のトップとボトムの情報と同じにしておくこと、組織のもつ情報を顧客の情報にもしておくことである。再発防止とは、ビジネスの再構築そのものなので、本格的にやる必要がある。

コンプライアンスは、交渉の余地なし(non-negotiable)である。悪法も法で、有無をいわさず守ることである。ちょっとした悪いことでも、悪の大小で判断してはならないのである。さらに、瓜田に沓を納れず、李下に冠を正さず(瓜畑でくつを履き変えず、スモモの木の下では冠を直さず)という例えのように、疑われるようなことをやってはならない。

クレドの中にある「その行動は公正、かつ道義に適ったものでなければならない」(Their actions must be just and ethical.)で、ここでいうjustとは神の前に正しいことであり、ethicalは法律に関わるコンプライアンスではなく、倫理そのものである。

コーポレート・ガバナンスでは、社外取締役が鍵である。会社の業務を執行する執行役(日本では大半が取締役)を取り締まるのが取締役であり、米国の会社では社外取締役が重要な役割を果たしている。オリンパスでは、取締役会が機能していなかったわけで、これが日本企業にとって最大の課題である。カルビーの場合は7人の取締役のうち、執行を担当する松本会長(CEO)、伊藤社長(COO)以外の5人はすべて社外取締役である。

CSRについては、クレドの3番目に位置付けられている。J&Jのクレドは、今から69年前の1943年に出来ており、以来全く変わっておらず、経営もぶれていない。ビジネス・リザルト(業績)については、何より稼ぐことである、そして、税金を払え、と強調する。松本会長はJ&Jでの実績と経験を、今カルビーで発揮している。その経営手腕は、実に興味深い。

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