フィンテック(FT)と人工知能(AI)

2016/11/04

・フィンテック(FT)が日本経済の救世主になるかも。こんな話を伊藤隆敏教授(コロンビア大学)が楽天フォーラムで講演した。日本は人口が減少する。日本のサービス業の生産性は低い。新しいテクノロジーを入れて、仕組みを変えていくことは、マクロ的にはよいことである。しかし、本当に意識改革ができるか、と問題提起した。

・面白いのは、まず1円玉と5円玉をなくせ、と提案した。日本は現金(キャッシュ)が好きである。これが流通していると、いろんなところで手間がかかり、キャッシュレスのイノベーションが進まないからである。オーストラリアとニュージーランドはすでにそうなっており、少額コインの四捨五入も認めている。

・日本も地下鉄やバスに乗ると、スイカやパスモ(ICカード)と現金支払いでは料金が異なっている。電子マネーのみにすれば簡単になるが、それが通るかといえばかなり難しい。日本の場合、皆にやさしく、皆に便利にと対応するので、システムが複雑になる。

・かつて日本経済は、製造業が引っ張ってきた。生産性も製造業中心に向上し、それが賃金上昇にも結びついた。しかし、この20年、日本の製造業は海外に出ていくことに力を入れた。円高によるコスト競争力への低下が主因であったが、日本以外の成長市場を求めて、地産地消を目指した。この傾向はこれからも続く。

・20歳から64歳までの働き手(生産年齢人口)は年間100万人単位で減っていく。一方で、海外へ投資する企業はサービス業でも増えている。これまでのIT投資は、会社のミドル・バックに対応した‘守りのIT’が中心であって、新しいビジネスを作り出そうという‘攻めのIT’は少なかった。

・金融のIT投資は、これから大きく変貌していく。しかし、高齢者がネットバンキングに慣れることができるか。高齢化社会において、高齢者は昔からの習慣をなかなか変えられない。とすると、カードで買い物をしたり、支払いをしたりというのが馴染まない人も多い。よって、小口現金をなくすわけにはいかない、という見方も有力である。

・一方で、FT(フィンテック)はグローバルにどんどん進む。世界に比べて、日本が遅れをとってしまうかもしれない。金融機関は自らの存在が問われるので、FTに意欲的に取り組もうとしている。いずれ銀行の支店はいらなくなる。銀行の数も減っていく。

・銀行の窓口に行って、人手のサービスを受けるというのは、コストがかかる。コストがかかるので手数料は高い。ネットバンキングへシフトすれば、安く済む。証券ではそれがかなり進んだ。株の取引において、大手証券会社の営業パーソンを通す顧客は大幅に減少し、今やネットトレーディングが主力である。

・金融(銀行、証券、保険)におけるアンバンドリング(機能の分断)が進展しつつある。FTによって、それが加速しよう。銀行における送金、決済、借入、貸出といった機能が一つの銀行でまとまってサービスされるのではなく、機能がバラバラになって、個別に対応されていく。

・リテールにおいて、顧客である個人の信用も個別に判断されるようになる。つまり、リスクの細分化が問われる。個々人の中身を見て、サービスの内容が変わってくる。保険でいえば、事故のない人の保険は安くなるというのは、もはや一般的になりつつある。

・個別データがその人の信用に意味をもってくる。全体でみると、膨大なビックデータ(BD)を活用し、そこにAIも入れて、よりカスタマイズされたサービスが提供されるようになる。しかも、人手を介さなくなれば、コストも安くなり、利便性は上がっていく。

・では、大手金融機関はどうするのか。「金融ニッポン」のフォーラムで、大手のトップがそれぞれ語った。みずほFGの佐藤社長は、FTをベースに、これからはB to Cではなく、C to Bを強化するという。つまり顧客(C)が本当に求めていることをFTで知り、それをサービスに取り込んでいく。

・銀行の伝統的業務は、新規参入のベンチャーも含めて、どんどんアンバンドリングされていく。お金を貸すオンラインレンディングが台頭している。ロボットが資産運用のアドバイスを行うロボアドは、これまでの4分の1の手数料で同じようなサービスを提供する。そういう動きが海外では進んでいる。海外の大手金融機関は新しいベンチャーと組んで、FTに取り組んでいる。みずほもそれにならって、オープンイノベーションを強化する。

・野村HDの永井CEOは、ロボアドの導入を進めるという。AIのDL(ディープラーニング)を利用して、運用のゴールと金額を定めて、投資家のタイプを判断していけば、それに合った運用方法をアドバイスする。そのサービスをまもなく本格化させる。

・三菱UFJ(MUFG)の平野社長は、ブロックチューン技術を利用したビットコインのような独自のプライベートコイン(MUFJコイン)を開発しており、これを広く使えるように工夫するという。通常のビットコインよりも信用がおけるものにしたいと強調する。

・金融はやはり信用が大事なので、ベンチャーといえども、一気には成り上がれない。三菱UFJはベンチャーと組んで、新しい仕組みを作り、既存の仕組みを壊しながらでも、大いにFTを進めるという。

・では、FTの何が新しいのか。利用者サイドからは、1)利便性が高まるのか、2)安全で信用できるのか、3)コストが安く済むのか、という3つが問われる。サービスを提供する金融機関サイドでは、1)新しい技術を活用していかにビジネスモデルに仕上げるか、2)そのセキュリティは万全か、3)コストを上回る付加価値を作り出せるか、が勝負である。

・アンバンドリングによって、バリューチェーンが破壊される既存の金融機関にとっては、新しい仕組みを自ら提供し、顧客と事業を守りたいと考える。さらに既存のビジネスを失っても、それを上回る新しいビジネスを手に入れるように、ビジネスモデルをチェンジしていく。大手金融機関は、オープンイノベーションをベースに、ビジネスモデルのトランスフォーメーションを推進すべく舵を切っている。

・FTでも、IoT、AI、BD(ビッグデータ)、RB(ロボット)が使われる。その中で、一番の鍵を握るAIでは何が新しいのか。東大の松尾豊准教授の話を聴いた。AIの第1期(1960年代)は、チェスを指すなど‘考えるのが早いAI’が特徴であった。第2期(1980年代)は、エキスパートシステムのように専門家の知識を置きかえる‘物知りなAI’であった。そして、今回の第3期(2010年代)は、DL(ディープラーニング)のように‘データから学習するAI’である。

・DLの凄いところは、画像認識にある。コンピュータで初めてパターン認識ができるというレベルにきた。これによって、ロボットで運動の習熟ができるようになり、AIで言語の意味がわかるようになってきた。

・この「意味がわかる」というのは、文と画像の相互変換ができるということである。これまでのAIは、何らかの特徴量を抽出することに主眼があったが、その特徴を事前に決めていたのは人間であり、そこに限界があった。一言でいえば、犬と猫を見分けるのは容易でなかったと、松尾先生はいう。

・今回のDLは、ニュートラルネットワークをモデルとして学習するので、何が特徴かも自分で決めていく。ヒトの視神経モデルに近い。記号とパターン(画像)を、行ったり来たりができる。「風船が飛んでいる」を一度画像にする。次に「風船が山を飛んでいる」を画像にする。そうすると、現実の世界の違いがイメージとしてはっきりしてくる。この記号空間とパターン空間のやりとりで、認識力が格段に上がってくる。

・何よりも目のパターン認識機能が上がり、次に耳の音声認識機能が上がっている。センサーで何らかのデータをとり、そのBDを認識、意味理解、運動へと結び付けていく。その学習プロセスを自動化している。

・金融において、第2世代の時は、一流のプロのFM(ファンドマネージャー)の判断を何とかコンピュータプログラムに置き替えようとしたが、それは余りにも多様でできなかった。今回は認識力が高まり、意味が理解できるレベルが上がっているので、定型パターンを超えて、顧客とやり取りして運用サービスのレベルを上げることができるようになる。

・では、ロボットFMとロボットFMが戦う時代がくるだろうか。それに人間のプロFMが勝てるのだろうか。将棋や囲碁ではAIが勝ってきたが、果たしてどうであろうか。はっきりしていることは、金融において顧客判断をサポートしてくれるコンシェルジュのレベルは、AIの活用で大きく上がってこよう。

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