新三本の矢はどこに~グローバル経済変調の中で

2016/02/08

・虐殺と餓えが命がけの難民を生む。どこに逃げるのか。人道上の救いは必要だが、10万人、100万人規模となると受け入れることすら困難になる。宗教を軸にした部族の対立なので根は深い。抹殺することを厭わない民族紛争が拡大し、解決の糸口を見出せないでいる。ISテロ国家の資金源は石油と略奪にあり、戦いは激化している。

・石油が安くなっている。米国のシェールガスが新たな資源として大きく台頭し、需給は緩んだ。加えて、中国をはじめ新興国経済の減速によって需要が鈍化する中で、需給調整が進まない。OPECはかつての力を失い、減産に合意することができない。

・サウジとイランの宗教上の争いは厳しい局面にあり、宗教代理戦争の一歩手前にある。石油資源は、いずれは枯渇するので大事に使う必要はあるが、今は予想を超えて安くなっている。アメリカでも日本でも、車を運転する人々にとって、ガソリン価格の低下はありがたい。

・しかし、石油資源国の経済は厳しくなる。BRICS(ブリックス)といわれた新興国でも、石油価格の下落はロシア、ブラジルに影を落とす。中東のオイルマネーが運用資金を引き戻すので、金融市場にとってもネガティブに働く。

・中東での紛争が激化すれば、いずれ石油の供給不安が顕在化する恐れがあり、そうなれば石油価格は急反騰してこよう。こうした価格の乱高下は経済にマイナスであり、日本のエネルギー資源の確保にも障害となろう。

・日本はこれからどうすべきか。外部経済はすべて与件として受け入れるのか。あるいは一定の範囲において主体的に関わっていくのか。経済はグローバル化しており、貿易や内外直接投資、人材の交流なくして、現在の豊かさを維持し発展させることはできない。

・鎖国的な縮み志向では相対的に貧しくなる。皆で仲良く我慢すればよいというわけにはいかない。かといって、自国の国益のみを最優先して、目先の経済外交にのみ邁進するだけでは、国としての信頼感は得られず、いずれ見透かされてしまうことになろう。

・皆にいい顔はできない。ビジョンと理念に基づき、改革を進めるしかない。しかし、政治は選挙をベースとするので、できるだけ皆にいい顔をしたい。そうすると痛みを伴う改革を避けようとする。無理に実行すると、しっぺ返しをくらって、結局改革が頓挫してしまう。今年は選挙の年である。7月の参院選挙に向けて、望ましい目標が政策として出されるとしても、具体策については実行が難しいといえる。

・アベノミクスの第1ステージは、1)第1の矢:大胆な金融政策、2)第2の矢:機動的な財政政策、3)第3の矢:民間投資を喚起する成長戦略、によって、デフレからの早期脱却と日本経済の再生を目指した。3年を経て一定の成果は出ているが、まだ道半ばである。

・何をもって一定の成果とみるかは、人によって意見は分かれる。1)国内の景況がよくなり、2)企業の業績は大幅に好転、3)株価が2倍以上に上昇し、4)所得が増える方向にある。

・一方で、デフレマインドの払拭はまだ十分でなく、円安で食料品等は値上がりしており、消費税の負担が重くなったので、生活実感は必ずしも改善していない。企業においても、もっと輸出が拡大し、設備投資を増やすという従来型の展開は思うように進んでいない。経済構造の変化が生じているからである。

・2015年9月の自民党総裁再選を踏まえて、安倍首相は、アベノミクスを第2ステージに移すと宣言した。第2ステージでは、1)第1の矢:希望を生み出す経済(GDP 600兆円の達成へ)、2)第2の矢:夢を紡ぐ子育て支援(出生率1.8へ)、3)第3の矢:安心につながる社会保障(介護離職ゼロへ)によって、「日本1億総活躍社会」を目指すことにした。

・第1ステージの時よりも、政策が具体化したといえるのか。黒田バズーカによる大胆な金融緩和は、今後ともいつでもありえよう。1月末のマイナス金利導入はサプライズであったが、効果は十分だろうか。機動的な財政政策もいつでもありうる。これまでは大震災対策も含めて手が打たれてきたが、今後とも景気テコ入れには常套手段となりうる。しかし、財政赤字が常に制約となる。とすると、引き続き問われるのは成長戦略であり、そのための大胆で具体的な新政策や規制見直しがほしい。

・今回の3本の矢で、株価は上がるのか。たぶん上がらないとみる。なぜなら、第2ステージのお題目は、矢(戦略)ではなく的(目標)であって、実際にどうするという手立てがはっきりしていない。企業の経営戦略でいえば、抽象的な目標に対して、目標を3つに細分化しただけであって、それをどのように達成するかはこれから肉付けしていくという話である。

・多くの上場企業が新しい中期計画を発表しても、通常株価は上がらない。その中期計画がお題目に留まっている可能性が高く、結局のところ実行して成果が出始めないと投資家は信用しないからである。

・GDPを600兆円にもっていく手立てはある。出生率を1.8まで高める方策もありうる。介護離職をゼロにすることも可能である。しかし、次の3カ年を現状の延長でみれば、とても実現しそうにない、と誰もが思ってしまう。それを覆して、実行力を見せるのが政治家の本来の仕事である。実行の道はいくつもありうるが、そこには利害の対立が生まれ、進行の妨げも出てくるので、なかなか思うようにはいかない。

・これからの日本にとって、はっきりしていることがある。1)高齢化社会を乗り切るためには、元気な限りいつまでも働くことのできる場を用意して、働いた人にはそれなりの報酬があるようにする、2)少しでもやりがいのある働く場を生み出すように、人材の生涯教育に力を入れていく、3)1人当たりの生産性を高めるような新しい高付加価値産業を育てていく、4)海外から移民を入れて、その子供たちは日本国籍人として平等に育てる、5)優秀な日本人をグローバル人材として育てる、ことである。

・これらを推進する戦略を打ち出して、「新しい価値創造国づくり」を目指してほしい。人材、ナレッジ、テクノロジー、金融、インフラ・ファシリティ、環境において、国として、企業として、国民のライフスタイルとして、新しい価値創造モデルを構築すべきであり、できる蓋然性は高い。

・日本企業はいかに収益力を高めるか。それには、①ビジョン(経営者の経営力)、②中期計画(事業の成長力)、③ESG(会社の持続力)、④突然の下方修正(業績のリスクマネジメント)に対して、組織能力をしっかり高めることが必須である。多くの上場企業には十分可能である。ROE 12%のクリアをぜひとも実現してほしい。そうすれば、日経平均で3万円がみえてくるからである。

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