大企業の経営革新~三菱重工のケース

2015/11/04

・10月に催された日本証券アナリスト大会で、三菱重工業の宮永俊一社長の話を聴いた。テーマは「三菱重工の経営改革」であった。かつてアナリストとして三菱重工を担当したことがあった。その時の経営とは隔世の感がある。

・当時三菱グループの歴史を学ぶべく、岩崎弥太郎に遡って三菱財閥の社史をかなり徹底的に読んだことを覚えている。また、めったに会えない社長インタビューで、“社長は4年で交替するのだから、社長が替わっても会社は変わらない。そのくらい三菱重工は重い。”と言われた。長期スパンでビジネスを落ち着いて展開している、という意味であったと思うが、今とは全く別の会社のイメージであった。

・明治17年の長崎造船所が発祥であるが、それから131年目を迎えている。長年の伝統であった事業所制が廃止されたのが2011年と、つい最近のことである。歴史的に工場現場を中心とした事業所が圧倒的な力を持っていたが、それが変化した。

・三菱重工は戦後も日本経済と共に歩んできたが、国内の電力業界と鉄鋼業界を主要な需要先として、国内技術で対応できる領域を守ってきた。輸出比率は30%前後で安定はしていたが、海外に大きく飛躍するというほどではなかった。

・日本経済がデフレ時代に突入するとともに停滞期に入り、世界のマーケットには十分出ていけなかった。一方で、ビジネス領域の絞り込みも遅れていた。Fortune 500 の企業別ランキングで世界企業と比較すると、国際的なポジションは低下の一途を辿っていた。

・その頃の三菱重工は、海外のグローバル企業と比較して、①コアビジネスと称するものが多すぎる、②会社がモノカルチャーすぎる、③もの作りにこだわってマーケティンが弱い、④安定志向が強すぎる、⑤内向きで情報発信力が弱い、⑥財務基盤が脆弱で収益力も低かった、と宮永社長は指摘する。

・そこで、2010年から経営改革がスタートした。2010年からの2カ年計画では、安定からの脱却を目指し、ROICとROEをKPI(重要経営指標)として採り入れた。2012年度からの3カ年計画では、事業部別にROEを入れて抜本改革に取り組んだ。これによって、戦略、モニタリング、リソース配分が明確になった、と宮永社長は強調する。

・社内競争的な事業所制をやめ、2011年度より事業本部制にし、SBU(事業ユニット)を導入した。9事業部64 SBUであったが、これでも多すぎると感じていたという。事業ポートフォリオのマネジメントとして、ドメイン、顧客・市場、セグメントを再編し、事業を幼年期、壮年期、熟年期と分けた。これで会社はかなりよくなってきた。2015年3月期で売上高4兆円、営業利益3000億円、ROE 6.5%まできた。

・今は、エネルギー・環境、交通・輸送、防衛・宇宙、機械・設備システムの4つを事業領域と定めている。海外売上比率も50%を上回っている。総合インフラ企業として、地球規模の課題解決に向けて、ビジネスモデルを作ろうとしている。自前主義にこだわったもの作りから脱却して、差別可能な事業領域に集中しようとしている。

・今年度からスタートした2015年事業計画(3カ年の中期計画)では、目指す企業像を明確にした上で、1)差別化できる事業領域への集中、2)外部からの経営に対する高い評価の獲得、を目標とする。

・具体的には、2017年度で受注額5.5兆円、売上高5兆円、営業利益4500億円、ROE10.2%をかかげた。プロダクトミックスとしてはSBUを少なくして、成長と収益志向を強める。財務基盤の強化と資本効率の向上では、D/Eレジオを下げ、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)を改善する。2017年度に、D/Eレシオ0.4、FCF 2000億円、自己資本2兆円を目標
とする。

・コーポレートガバナンスでは、監査等委員会設置会社としての体制を整え、今後は経営諮問会議も作っていく。業務プロセスの高度化では、リスクマネジメントの強化を図る。こうした体制を整えることによって。次の2018年度からは、企業価値創造をグローバルにフルに展開できるようにする方針である。

・宮永社長の話は、あるべき姿を追求し、それを実践的に実行し、成果を上げていくという点で説得力がある。日本を代表する企業が周回遅れになっていた経営を革新し、GEやシーメンスに対抗できるような企業になろうとしている。厳しい局面に立たされた会社が、相対的危機の中でぎりぎりの時期に革新へのスタートを切り、大きな成果を上げている。

・10月に出た2015年度の統合報告書「MHIレポート」を読んでみた。特集は、航空機MRJのビジネス展開である。これがビジネスとして飛び立つ頃に、グローバルに輝く企業へ飛躍することを期待したい。

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