TDLはなぜ成功したか

2015/06/15

・東京ディズニーランド(TDL)はなぜこんなにうまくいっているのか。その成功要因をあげよ、と言われたら、誰でも答えることができそうである。行ったことのある人なら2つ3つを大いに語りそうである。そのくらい誰でも話題にできる。

・当の経営者はいかがであろうか。オリエンタルランド(コード4661、時価総額3兆円)の加賀見会長(CEO)の話を聴く機会があった。オリエンタルランドは1960年に設立された。京成電鉄の川崎社長が米国のディズニーランドを見て、子供たちに夢を与えたいと考えた。当時加賀見氏は、机を3つ並べただけの場所で、定款を作るところから事務を担当した。

・今の場所の埋め立てについて合意したのが1974年、ディズニーランドがオープンしたのが1983年4月である。会社設立から23年も経っていた。その間は何の収入もないさびしい会社であったと、加賀見会長はいう。しかし、絶対に成功させるという強い決意をもっていた。

・初年度1000万人が来園した。2001年9月にディズニーシーがオープンした。昨年は3100万人が来園し、累計のゲスト(入場者)は6.3億人に達した。90%がリピーターで、年に2~3回来る人が多い。

・TDLの成功要因は5つある、と加賀見会長は説明した。第1は、タイミングのよさである。1983年という時期は日本経済が発展し、休日が増えて、人々の価値観もモノから心へと変化し、レジャーに安らぎを求めるようになってきた。第2は、立地条件のよさである。日本橋から直線で10㎞、東京という人口の多い都市部から少し移動するだけで、「異空間」に入っていける。ゲストの気持ちをうまく切り替える演出が鍵であった。

・第3は、ディズニーブランドのフル活用である。おもてなしにはハードとソフトの2つが必要である。契約上、国内の独占権と、ミッキーマウスを自由に使える権利を獲得した。第4は、地元住民、行政の協力である。当初は批判もあったようだが、千葉県や浦安市などの支援が大いなる発展を導いた。第5は、全役職員の頑張りである。何が何でも成功させようという強い意志で団結した。当時の遊園地は、都内の有力所(としまえん、後楽園、よみうりランド、谷津遊園など)を合わせて年間1000万人の来場者であった。それに対して、年1000万人を目標にした。3年ももたないと揶揄されもしたが、見事に成功した。ゼロからの立ち上げに対する遂行力は、今や社員のDNAになっている、と加賀見会長は強調する。

・テーマパークは永遠に完成しない、とはウォルト・ディズニーの言葉である。顧客(ゲスト)のニーズはどんどん変化する。アトラクションの中身も変えていく。ショーは観るものから、一緒に遊ぶものとなっている。当初のねらいがはずれても、次に変化させていく。その能力もかなり身に付けたという。

・新しいアトラクションは3~5年かけて計画する。ファンタジーランドを2倍にする。ディズニーシーにアナと雪の女王のエリアを作る。パレードは2~3年かけて準備するが、アナと雪の女王のパレードは1年でスタートさせた。タイミングを重視したという。

・3100万人のゲストの95%が日本人で、外国人は5%程度である。社員も日本人である。32年前にオープンした時は、100%米国のマニュアル通りであった。しかし、運営理念は同じであっても、ノウハウをためて、日本的な対応も取り入れている。安全性やコーテシー(礼儀正しさ)は進化している。ショーやパレードの場所取りをどう規制するか、入場制限の工夫、キャストの気配り、レストランでのサービスやレシピの改良、グッズの開発など実に多様である。ディズニーシーのダッフィーのぬいぐるみはものすごい年商、でも米国では全く違う。 

・TDLは日本流で発展した。パリや香港のディズニーランドを見ても日本の成功とは比較にならない。来年、上海にディズニーランドがオープンしても何ら競争にならないと、加賀見会長は心配していない。

・ディズニーランドに3600億円、ディズニーシーに3600億円、その他も入れて、トータルではこれまで1兆円の投資をしてきた。これに対して、次の10年で5000億円の投資を行っていく。第3のディズニーランドを作るのではなく、既存のエリアを拡張し、中身を充実させていく。

・TDLのインバウンド(来日観光客)は5%、少ないと思いきや、そうでないかもしれない。3100万人の5%は155万人。すでにインバウンドの10%を超える。インバウンドについては、今のところ日本での買い物が中心であるため、ディズニーランドを楽しむ客はさほど多くない。しかも、ディズニーランドを本当に楽しむには2~3日必要である。とすると宿泊してゆっくりする必要がある。来日観光客がモノではなく心を楽しむようになれば、その1つの選択としてTDLが注目されよう。上海や香港にない日本独特のおもてなしのディズニーランド、米国との違いも認識されてこよう、TDLはグローバルの中で、じっくりとオンリーワンを目指す。これが加賀見会長の経営哲学である。

・若者だけでなく、壮年も熟年もますます行くようになるかもしれない。アルコールが楽しめるようにもなっている。ファーストサービスではなく、スローサービスのレストランも増えてこよう。「異空間」の次なる演出に注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ