企業価値創造のリターン~株価3万円に向けて

2014/04/30

・アベノミクスは道半ばである。第3の矢の実行が問われている。この第3の矢は第1、第2の矢に比べると効果がはっきりみえない。民間活力を引き出すために規制緩和をすべし、税制の見直しによってインセンティブをつけるべしといっても、利害が錯綜して、政策が小出しになっているようにも思える。

・第1の異次元の量的・質的金融緩和は効果を上げている。大幅な円安によって、日本の輸出型企業は一息つけるところまできた。1ドル100円台の居心地はよい。これが120円までいくとなると、輸入品の価格が一段と上がってきて、企業全体のとっては苦しいことになる。しかし、世の中はいつも想定外のことが起こりうる。自らにとって都合のよい状態が長く続くとは考えない方がよい。次の円高、円安に対して、どういう覚悟と対応策を考えておくかが今問われている。

・第2の財政拡大もこれまた順調な効果を上げている。政府支出を増やせば、何らかの景気拡大効果は生む。従来型のばら撒き型公共投資は、財政赤字の制約から抑えられてきたが、東日本大震災からの復興のためには大型予算が必要であった。10兆円~20兆円規模で復興予算が執行されている。それは経済的には効果を有するが、本当に十分な復興に結びついているだろうか。避難している人々の生活基盤を整えるという意味ではまだ不十分である。とりわけ、原子力発電所への対応という点では、全力をあげているとしても極めて不満を残している。

・4月から消費税が上がった。2015年10月にはさらに2%ほど上がることが予想されているが、その最終判断は今年後半頃に目途をつける必要がある。消費税を上げれば個人消費はその分落ち込む。そうならないためには、全体の景気が腰折れせずに一定の伸びを続け、働く人々の所得が増えてこなければならない。追加の景気対策は打たれる。個人所得については、目先はマイナスとなるが、いずれカバーされよう。ベアは上げられており、時間外労働も増えている。企業収益が拡大しているので、ボーナスも増える方向だ。3割を超える非正規労働者の雇用も増えており、その所得も上昇傾向にある。いたるところで人手不足が目立っている。とすれば、来年10月からの消費税も上げられることになろう。社会保障を充実させるために消費税の増税は必要であるという大義名分はそれなりに説得的である。消費税を上げて税収を確保するという構造を強化することはやむをえない。

・第3の矢はどうか。産業競争力強化法は動きだした、事業再編、先端設備投資、ベンチャー事業の拡張などはやり易くなる。特区もいろいろできるので、規制緩和はそれなりに促進されよう。ここでの課題は、誰かが得をすれば、誰かが損をするというパイの取り合いに終始してはならないということである。規制緩和は、利害は対立する面もあるが、それぞれの頑張りで、全体のパイを大きくすることが第一義的な目的である。そのためには損して得取れという発想で人の3倍頑張れるかどうかである。政策の立案遂行に当たっても、目先のバランス、摩擦の回避ばかりに気を配っていては大胆な手が打てない。土俵は広くして、民間の活力を引き出すことである。

・最大の課題は民間企業の経営行動にある。昔からの秩序を守りたい、今からの変化を避けたいという考えに凝り固まっているのでは、新しい土俵に乗って勝負することはできない。そもそも不戦敗になってしまう。日本企業の現場力は強いといわれるが、経営者の構想力と実行力が問われる。

・第3の矢が見えにくいのは、新しい土俵作りに時間がかかるのと、その土俵に乗って頑張る企業の成果がみえてくるにも一定の期間を要するからである。中長期の経営戦略が一段と求められ、タイムスパンを長めにとる必要がある。そこでは東京オリンピックが1つのきっかけを与えてくれよう。2020年までの6年間を展望して、社会のインフラ作り、日本の魅力作り、若者の挑戦、高齢者の活用、技術革新の導入による福祉の見直しなど、中長期視点が導入しやすい。オリンピックを単なるお祭りに終わらせるのでなく、その後の日本の活力に結び付くような仕組み作りと位置付けるべきである。

・人口減少社会の日本は、皆で仲良く我慢するだけの現状維持型であれば、平均的には貧乏になって衰退する。その中で格差は拡がるから、社会は不安定化する。それを回避するには、企業が中長期的な価値を創造するような経営に力を入れ、投資家はそれを応援する姿勢を大幅に強めることである。

・企業価値創造とは、中長期のお金儲けであるが、そのための枠組み作りも進んでいる。企業は社外取締役を入れてコーポレートガバナンスを強化し、投資家は企業ときちんと対話していく必要がある。「対話をする」と宣言するスチュワードシップコードが整備され、実際の対話(エンゲージメント)もこれから活発になろう。

・対話の根幹とは何か。それは企業価値の向上を実践して収益力を上げることである。まずはROEを現状より2% 上げて、8~10%を必達とすることが求められる。一般に、どの企業でも赤字になったら大変だと認識し、日本的にはいえば、経営者は恥ずかしいと感じる。その基準を赤字・黒字の損益分岐点(BEP)ではなく、資本コストを意識したもう少し上の水準においてほしい。具体的には、‘ROE8% 以下では尻に火がつく、恥ずかしい、何としてもそれを上回る業績を中期的に上げていく’というようになれば、様変わりとなろう。それはできる。日本の上場企業の大半はその力を十分持っているからである。

・そうすると何が起きるか。株価3万円がみえてくるのである。ただ、そのための絶対条件が1つある。法人税を現在の35%から25%へ下げることである。日本基準ではなく、世界標準の競争の土俵に置き直すことである。税率を下げると税収が減ると心配するかもしれない。確かに単純な計算でも、税収は現状より29%ほど減る。財務省では5兆円の影響が出るともいう。しかし、経済財政諮問会議でも議論されているように、税率を下げて企業の活動が活発になれば、逆に税収は増えるという試算もある。

・法人税の引き下げを決めると、3つの効果が期待される。①日本は変わると、世界の企業と投資家は判断する。海外企業の日本への投資が増える可能性が高まり、外人投資家は日本株を買ってくる。②日本企業が投資を活発化させる。海外に出るだけでなく、国内での投資にも前向きになる。また、③利益が上がってくれば、株価が上がるのに加えて、企業は配当も増やすようになり、年金基金を通して年金生活者にプラスの効果をもたらす。

・企業価値創造(バリュークリエーション、VC)のリターン(R)はどのように効いてくるのか。簡単に試算してみると、ROVC(Return on Value Creation )は、1)脱デフレと内外での市場創造による売上拡大効果で利益が+50%、2)競争力の強化によるROEを8~10%へ向上させる価格戦略の見直しで同+38%、3)35%から25%への法人税の引き下げで同+15%が見込めよう。

・その効果は2つのインパクトを生む。効果1は、企業の利益が2倍になるので、日経平均株価はそれを反映して3万円にのせよう。効果2は、法人税収が現状より+43%と大幅に増えることになろう。まさに、企業価値創造のリターンは大きい。株価3万円に向けて、それぞれの立場で全力投入をしたいと思う。

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