日本再興と株式市場~策はみえてきたか

2014/04/04

・3月にICGN(世界コーポレートガバナンスネットワーク)の国際会議が東京で開かれた。そこで印象に残った点について、いくつか述べてみたい。結論からいえば、海外から来たガバナンスに関わる人々にとって、日本は意外に動いているという印象を持ったのではないか。日本が先進的なわけではない。かなり遅れており、改革が進まない国と思われていたが、そうでもない。結構進め始めた、と受けとめられたように思う。

・東証は3つの点を強調した。1つは、社外取締役について、1人以上入れることが望ましいという指針を出して、その導入を促進している。社外取締役を入れている企業は2000年に20%であったものが2013年に54%(東証1部では62%)に上がってきている。あと1~2年で、この比率は8割前後となろう。経団連の会長会社で、社外取締役など必ずしも必要ないといっていた会社も次々と導入を決めている。

・では次は、何が求められるか。社外取締役が本当に機能しているかが問われよう。社外取締役を入れてみると、1人では不十分なことがわかってこよう。1人入って、その人がモノを言わないのであれば、役割を果たしていないことになる。何か意見をいうとすると、その意見の妥当性が問われる。経営方針に関われば関わるほど、1人の意見では不十分で、もう1人の意見というのを聴きたくなる。さもないと、執行サイドとしてもバランスがとりにくい。社外取締役の意見を無視するわけにはいかないし、かといってそのまま取り入れるわけにもいかないからである。十分議論するには、複数の社外取締役が必要と感じるようになろう。

・2つ目は、JPX日経インデックス400の導入である。ROEの指標を入れているので、このインデックスに入った企業も、入りきれなかった企業も、これまでよりROEを意識するようになろう。ROE経営とは何か。これは20年も前から議論されてきたことであるが、日本企業には十分身についていない。業績を上げれば、ROEという指標も改善されるので、結果として付いてくる数字であるとみられている。それでは、ROEはよくならない。ROEがすべてではないが、投資家が最も重視するKPIであるROEを、自らの経営に組み込んで実践してほしいのである。その企業価値向上の仕組みの革新こそ、投資家は知りたいのである。

・3つ目は、東証の2013年度企業価値向上企業の表彰として、丸紅が大賞に、キリンホールディングス、アンリツ、バンダイナムコホールディングス、伊藤忠商事が優秀賞に選ばれた。この表彰は、企業価値向上を社内の仕組みとして組み込んで、資本コストを意識して経営を実践しているかという点をみている。

・アンリツは別の組織の表彰である「誠実な企業」表彰にも選定された。伊藤忠商事はWICI(世界知的資産イニシアティブ)の統合報告(インテグレーテッド・レポーティング)の優秀企業にも選ばれている。表彰される企業が完璧に優れているというわけでない。足らないところも数多くあろう。しかし、求められる“よさ”をみると、それぞれの視点からみて、一歩抜きんでているということだ。

・金融庁は、日本版スチュワードシップについて、そのスタートを宣言した。機関投資家が企業と対話をして、中長期的な企業価値向上に貢献しつつ、自らのパフォーマンスを向上させていく上での行動指針を定めたものである。

・この指針は原則(プリンシプル)ベースで、ルールベースではない。“コンプライ・オア・エクスプレイン”を基本とする。つまり、細かいルールに従ってやるのではなく、原則を自分で考えて具体化する。自ら方針とルールを固めて、それを実践するのである。もし自らの考えに合わないところがあれば、自分のところはどうしてその原則に従わないかを明確に説明するという行動をとる。これは、従来の日本には馴染んでいない行動様式である。しかし、多くの機関投資家はこのスチュワードシップを取り入れていくことになろう。これから、その中身が問われることになる。

・経済産業省は、企業と投資家の望ましい関係(エンゲージメント)について、英国のジョン・ケイ教授(有名なケイレポートのリーダー)を交えて、現在進めているプロジェクトのフレームワークを強調した。企業と投資家のあるべき対話(エンゲージメント)とは何か、論点の明確化が議論となった。

・ここでのポイントは、企業からみた時、投資家との対話は、投資家から聞かれたことに答えるだけでは不十分であるということだ。もっと自らの主張をすべきである。そういうと投資家のニーズを無視して、一人よがりになっていると言われそうである。そうではなく、会社が考える長期的な企業価値創造について、熱く語っていく必要がある。投資家によってはそんな抽象的な話より、足元の数字を知りたいというかもしれない。しかし、この点だけは譲らずに主張してほしい。実際、それを実践している会社がある。もちろん企業価値をきちんと作り上げている。

・機関投資家は、企業価値を見抜く実力を養う独自の仕組みを工夫し、実践することである。対話には見識が必要である。スチュワードシップ原則の7番目には実力を養え、という項目が入っている。企業価値向上に寄与する運用を行うことが求められる。

・セルサイドアナリストには何が求められるか。一言でいえば、しっかりしたレポートを書くことである。このin-depth report を書くことがカギである。それを促進するようなビジネスモデル(インセンティブの働く仕組み)を業界あげて作ることである。その方策はある。単なるコストやR&Dと捉えるのではなく、価値創造のナレッジ・ドライバーとして活かすことである。一流のアナリストはここからしか育たない、ということをもう一度認識する必要があろう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ