質の追求とオムニ戦略の実践

2014/01/27

・セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長(COO)の話を聴いた。「変化への対応と基本の徹底」というテーマで、NECのC&Cユーザーフォーラムで語った。セブン&アイは2005年9月にホールディングを設立して、丸8年を経過した。当時、市場が売り手から買い手市場に移る中で、商品のライフサイクルの変化が加速し、従来のイトーヨーカ堂中心では、変化への対応ができないと判断した。

・総力を上げて新しい企業価値を作るべく、上場3社を一本化した。7つの事業領域を定め、戦略は共有しつつ、ブランドは独立で展開すると決めた。現在、全世界の店舗数は5.2万店(うち、国内は1.7万店)、一日の来店数は5300万人(うち日本は1800万人)である。地域に合った商品・サービスを、地域に合ったマネジメントでいかに展開していくか。その基本精神は ①誠実で信頼されること、②基本の徹底とりわけ単品管理にある、と村田社長は強調する。量の追求ではなく、質の改善で量は作られる、という考え方である。

・マーケットは変化している。女性の有職率は60%になっている。2008年のリーマンショック前と比べると、医療費や通信費の支出が増えているが、被服費は減少している。消費の中心が40~50代から、60代以降にシフトしている、全体の45%がすでにこの世代である。NRIの1万人アンケートを見ると、この7年で安くて経済的なものを買う人の比率が減少し(50%→41%)、多少高くても品質がよいものを買う比率が上がっている(40%→46%)。

・そこで求められることは、①質による商品の差別化、②接客による現場力の強化である。コンビニは新しいニーズへの対応、大型店はより良いサービスの発信が必要であると認識している。新しい価値として、PB(プライベートブランド)商品の開発を進めた。NB(ナショナルブランド)商品は競争にさらされており、PBこそ企業の意見を盛り込むことができる。また、顧客に近づくことで、商品を伝える力を強化できると考えた。

・それが、セブンプレミアムの開発である。ホールディング体制になって、グループ各社のシナジーを追求した。しかし壁は厚かった、と村田社長はいう。上からみると線であっても、現場では高い壁でなかなか越えられなかった。今までスーパーでは低価格志向のPB商品を手掛けていたが、それとは違うグループ共通の品質の良いPBを作り、それはグループどこでも取り扱うと、2006年の戦略会議で決めた。グループ全員が参加した。メーカー機能は持っていないので、外部とのタイアップが必要であった。安いものではなく、良いものを作るには一流メーカーと組むことが求められた。一流メーカーは乗り気でなかったが、全品買い取り、値引き販売はしない、ということで納得してもらった。

・価格はNBより20~30%安く、粗利はNBと同じ30%はとれるようにした。良いものを作って粗利を確保するには、売り切る力がポイントである。そのためのマーチャンダイジングには、チームが6カ月以上かけて練っていく。本格的に売るには、工場から作り変える必要もある。セブンプレミアムは年商50億円からスタートして、今期1500億円、3年後に1兆円を目指している。マーケットで差別化できるのは、価格ではなく、品質のよいPBしかないという考えの実践である。

・1商品で年商3億円以上をベースに、現在年商10億円を超えるものが92アイテムほどある。その中で、セブンカフェは2年かけてシステムを開発し、2013年1月からスタートした。美味しいものは淹れたてしかない、という考えを実現した。1店当たり1日90杯売れて、年商500億円の規模となっている。金の食パンは、これも2年ほどかけて開発し、工場も新設してもらった。5か月で2000万食売れて、年商80億円ペースである。

・コンビニでセブンカフェを購入する客は、コーヒー以外に調理パンなどを買ったり、今までパンを買わなかった人が買ったり、コーヒーのために初めて来店した人も増えている。金の食パンは価格が通常の2倍である。既存のパンとの競合もあるが、全体では+60%と上乗せになっている。このようにPB商品が新しい顧客を呼び込んでいる。セブン-イレブンの日販(1店舗当たりの1日平均販売額)はリーマンショック前に68万円であったものが、60万円を切るところまで落ち込んだが、今は再び67万円まで戻している。

・セブン-イレブンは、開いていて良かったから近くて便利へ、割高な商品から鮮度の良いプレミアム商品へ、男性中心から高齢主婦層へ、と変化している。現在業界シェア40%であるが、新しいマーケットの創造でシェア50%に持っていくことを狙っている。

・ネットへの対応も図っている。オムニチャネルの時代を迎え、客の行動は早くなっている。1対1の接点が、eコマースの発展で顧客はクロス購入を考える。客はあらゆるチャネルからアクセスしてくる。チラシのPRは効果をもたなくなり、会話情報が大事になっている。双方向の情報が求められている。

・米国では2011年の小売り店舗販売比率90%が、2017年には80%に下がるという予測も出ている。ネットとリアル(店舗)の競合ではなく、あらゆるチャネルを総動員したオムニチャネル戦略が重要である。顧客の信頼を得て、顧客の立場に立って、顧客に近づくには実店舗が重要である、と村田社長は強調する。ネットとリアルの融合では、ラスト1マイルを制するものが小売を制する、ともいわれる。全国1.7万店でこれを推進する。

・セブン&アイ・ホールディングスは、新しい企業価値の創造によって収益力も上がってきている。質の追求とオムニ戦略の成果に注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ