リスクマネジメントのセンスとマインドを磨く

2013/10/01

・この会社のリスクマネジメントはしっかりできているだろうか。普通に外から見ただけでは、なかなか分からない。しかし、一旦何か事象が起きると、その会社のリスクマネジメントのレベルが表われる。普段は表に出ないが、どこまで体制を整えておくべきか。7月に日本価値創造ERM学会の研究会でユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のERMについて話を聴いた。その骨子を参考にしながら、企業のリスクマネジメントを投資家としてどう評価するかを考えてみる。

・企業のもつリスクがネガティブに出ると、突然の業績下方修正となる。この業績下方修正のリスクを、いかに事前に察知するか。会社は、投資家説明会で、この点を明確に述べているか。我々は、そのリスクに対して、会社としてどういう仕組み作りをしているかを知りたい。そこが理解できると、会社のビジネスモデルに対する信頼感は高まろう。

・USJでは、大学生が乗り物ボートを転覆させたり、ジェットコースターから身を乗り出して運行を止めたり、といった迷惑行為があった。それをネットに自慢げに載せて風評被害を助長した。USJは本人を訴えた。メディアへの対応を含めて、中途半端ではダメだと考え、刑事告訴をした。従業員が同じような行為をした場合も厳しく懲戒処分にしている。年間1000万人が来場し、年7000人が働いているので、厳しい対応をとっている。このリスク・コミュニケーションの実効性が問われる。

・USJは、ゲスト(来場者)に期待を上回る「感動とサービス」を提供することをモットーに、ビジネスモデルを構築している。収入の65%は入場料、25%が物販、飲食、残りは駐車料金代やスポンサーフィーである。

・アクションコードは、“Decide Now. Do it Now. Everything is possible. Swing the bat!”である。つまり、自ら考え、決断して、行動せよ。リスクをとって変えていこう、という意味である。2014年には、450億円を投じて、ハリーポッターのキャラクターを活かす施設が登場する。

・リスクには、戦略リスクと事業運営リスクがある。戦略リスクにはプロダクト(ショウ)リスク、マーケティングリスク(ゲストの心)、需要予測リスク(ライフサイクル)、パブリシティ、プロモーションリスクなどがある。リスクをとって、チャンスを作るのが基本であるが、それをどうマネージするのか。事業運営リスクは、ERMのフレームワークに従い、自然災害や風評、オペレーション、リーガルなど様々な内容を含む。

・USJでは、ERMとコンプライアンスの融合を図っている。ERMでは、PDCAを回すという点で優れているが、リスクマインド、コンプライアンスマインドが不足しがちである。一方、コンプライアンスは、アクションがはっきりしているが、PDCAのアプローチが足りない。ではどうするのか、とにかく声を上げるようにすることである。マインドのキープと高いモニタリング、そしてスピークアップに徹する。

・役割を与えたら、必ず公正な評価(インセンティブ)を下す仕組みを入れる。同時に、リスクを感知するには、センスとマインドが肝心である。現象には連続性と反復性があると、USJの大森勉氏は強調する。微小の連鎖に何らかの予兆はある。そして、相定外とのイタチごっこは宿命であり、宿命を使命に変えることが、リスクマネジメントの要諦であるという。リスク評価に当っては、①重大性、②影響度、③発生頻度から、重みを付けて評点していく。

・我々投資家としても、会社はどのような仕組みでリスクマネジメントを行っているのか。そのリスク評価に対して、どのような手を打つのか。少なくとも過去の重大なリスク事象に対して、どのような対策を立てたのかについては、よく知りたいところである。そして、安易に想定外とは言わないでほしい。自らコントロールできること、できないことを仕分けした上で、その影響度については、十分準備しておく必要がある。何よりもトップマネジメントのセンスとリスクマインドを、組織能力に高めることが求められる。そこまでできれば、投資家に説得的に説明できるはずである。

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