グローバルニッチトップ企業100選~日進工具のケース

2020/08/24

・6月に経産省(製造産業局)から2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」が公表された。個々の市場規模は小さいものの、世界シェアが高く、世界のサプライチェーンにおいて、なくてはならない存在である企業を100社選んで表彰した。

・249件の応募の中から選ばれた。評価項目は、①収益性、②戦略性、③競争優位性、④国際性の4つを軸とした。これらを定量的、定性的に評点した。選定要件は、1)大企業の場合、市場規模が100~1000億円、世界シェアが20%以上、2)中堅企業(売上高が1000億円以下)、中小企業では、世界シェア10%以上を保有することとした。

・重視したポイントとして、①収益性では従業員当たり売上高、営業利益率、②戦略性では、技術の独自性、唯一性、展開可能性や、内外の納入先企業数と従業員増加数、③競争優位性では、サプライチェーンにおける重要性、世界シェアとその将来予測、及び市場規模とその将来予測、④国際性では、海外売上比率、販売国数と海外取引実績を重視した。

・選定企業113社の平均的な姿(2018年度ベース)は、1)世界シェア43%、2)売上高営業利益率12.7%、3)海外売上比率45%であった。因みに製造業全体の営業利益率は4.8%であった。

・いずれも今後5~10年で、市場規模は2倍以上に伸びると見込まれる。1)コア技術の活用で他分野へ進出(全体の7割)、2)新規顧客との取引拡大(同5割)という展開の中で、3)他分野への安易な進出は避けるという集中志向型(同3割)も一定数存在する。選定企業113社の業種は、機械・加工部門61社、素材・化学部門24社、電気・電子部門20社、消費財、その他部門8社であった。

・それぞれユニークな会社であるが、その中に機械工具3社が入っていった。オーエスジー(時価総額1470億円)はねじ切り工具(タップ、ダイス)でトップ、ユンオンツール(同560億円)はプリント配線板用超硬ドリルでトップ、日進工具(同300億円)は工作機械に取り付けて、金属等の加工を行う刃先径の小さな小径エンドミルでトップと、それぞれ特色を出している。

・月刊生産財マーケティング(7月号)で、日本を代表するFA関連37社の財務分析(2020年3月期)をみると、OSGは売上高経常利益率15.5%、ROE10.6%、ユニオンツールは同13.0%、同4.5%、日進工具は同23.4%、同10.8%、であった。中小型企業ながら日進工具の収益性の高さが目立っている。

・エンドミルの中で、素材にタングステンやコバルトなどの粉末を焼結した超硬合金を用いるのが、超硬エンドミルである。日進工具は刃先径が6㎜以下の超硬小径エンドミルを主力とし、エンドミル取扱高の約7割が超硬小径エンドミルである。

・この200億円の市場で個性ある存在になろう、というのが当社の基本方針である。当社の小径の売上規模は73億円であるから、3割強のシェアは確保しているとみられる。

・強みはメイド・イン・ジャパン にあり、その要素は3つある。①生産力では、15年前から工場で使う機械を内製化しており、今では主力の加工機全体の8割が自社製となっている。②開発力では微細加工の技術力を高めており、刃先径100分の1mmという加工もできる。これは髪の毛よりも細い。③販売力では、当社の製品を必要とする特定の顧客にフォーカスしているので、ここの営業人員だけをみると、大手よりも充実している。

・当社の基本戦略は、開発段階から提案営業を行う開発営業/技術営業にある。姿勢として、1)やたら手を広げることはない、2)顧客のマーケットを広げるように自社の強みを活かしていく、3)売上高経常利益率20%以上をキープできるようなマーケットを拡大し、そこでシェアをとっていく、4)必要な投資は予断をもたずに粛々とやっていく。

・後藤社長の経営方針は3つある。1つは、マーケットはそこにあるのではなく、自ら作っていくという考えである。スマホ、車のセンサー、IoT向け電子部品用の超硬工具は、顧客が新しいニーズに対応した製品を開発し、その加工方法を工夫している初期の段階から当社が入って行く。従来にない加工ができる金型を作るのはどうすればよいか、そのための工具にはどんなスペック(仕様)が求められているか、について開発から入っていく。

・2つ目は、技術的なイノベーションに向けて、投資を継続していく。仙台工場で大型投資を行っているが、技術開発には人材も含めて資金を使っていく方針である。IoTが世界で伸びていけば、顧客は世界のどの企業でもよい。そこに先端パーツを納入する企業があり、必ず精密加工を必要とする。その新たな精密金型分野に当社は入っていく。

・微細加工のレベルが上がってくればくるほどライバルが減ってくる、と後藤社長は強調する。当社の製品がほしいという顧客が増えている。このパターンに持ち込むように、技術開発力を高め、新製品開発に結びついていく。

・リピートユースとして、需要のストック化ができる。開発段階から技術的サポートを行い、顧客ニーズを安定的なビジネスに結びつけていく作戦である。顧客は高付加価値製品を作っていくので、そのために当社の製品を選ぶようになれば、当社も高付加価値品が販売できることになる。

・3つ目は、会社を大きくすることを、第一の目的にしないことである。結果として大きくなることはよいが、それを最初から目指さない。会社を大きくしようとすると、売上を追う。そうするとボリュームゾーンを取りに行く。ここには儲からない仕事がいろいろある。利益率の低いビジネスに手を出すと、収益が上がらないので十分な投資ができない。ひいては、競争力を失っていくことになる。

・1億円の仕事でも、利益率が5%ならやらない。これを徹底している。そこで売上営業利益率20%をKPIとしている。20%あれば、開発投資が十分確保できるからである。結果として会社が伸びていき、規模が拡大していくことは健全であると後藤社長は認識している。

・中国の現地企業(日系、台湾系、中国系)を視察した後藤社長は、日本の金型企業の強さと、そこで使われる工具の競争力について、改めて自信を持った。日本の金型は品質の高さと信頼性は十分なので、もっと個性を追求して、ボリュームゾーンとは異なる価格帯で勝負していく必要があるという。日進工具はすでにそのゾーンにあり、台湾の工具メーカーですら競合になるという存在ではない。

・当社は差異化戦略に主軸をおいているので、規模は追求していない。他社のやらない差別化された高付加価値品を中心に、小径で攻めていく。ニッチ市場であるマイクロ製品分野での新市場開拓(マイクロ・カテゴリー戦略)が確実に進展しつつある。

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