新しいIRの活用~六感に響くか

2020/06/15

・新型コロナウイルスの影響で、Webや電話による決算説明会が活況である。細かくみると、様々なタイプがある。Q&Aができるタイプ、動画を撮って説明会の時に流すタイプ、電話によるテレコンのみで映像はないタイプ、事前登録しないと参加できないタイプ、ホームページで誰でも見れるタイプなど、何が違うのだろうか。

・本気で説明会に臨む場合は、事前に決算資料にすべて目を通し、質問したい事項はチェックしておく。当然20~30項目は出てくる。これを一人で聞いていくと1時間はかかる。この他に、もっと大事なビジョンや戦略などのテーマについて議論したいので、ゆっくりやればもう1時間はほしい。

・つまり、動画を見る説明会に参加して1時間、個別のQ&Aで1時間、社長へのトップインタビューで1時間というのが、アナリストとしての筆者の時間配分である。これを四半期ごとにやりたい。現実はどうだろうか。そううまくはいかない。

・今までのやり方は、社長が行う説明会に参加して、いくつか大局的な質問をして、後は個別インタビューをCFOやIRの責任者に行う。中小型企業の場合、もう1度社長に会える機会も多い。

・新型コロナの影響で、昨今は直接会う機会が少なくなった。動画で社長のプレゼンをみて、Webや電話で個別インタビューを社長やCFO、IR責任者に行うようになった。テレコンでもだいたい1時間ほどやりとりしているので、通常の面談の時と変わらない。

・すでにフォローしている企業は、レポートも書いているので、会社のことはよくわかっている。その上で、社長のビデオを見て、直接担当者にインタビューを行えば、会社が考えていること、投資家に伝えたいことは概ね分かる。それで十分だろうか。

・実はもっと知りたい。別に秘密を知りたいわけではない。フェアディスクロージャーを越えたいわけでもない。どんな表現にも、そこに込めた思いや意味合いがある。短信ならば行間を知りたい。説明会資料ならば、社長がそれをどう使うかを知りたい。単に読み上げるだけでなく、必ず自分の言葉で何らかの解釈を加える。その解釈の意味合いを知りたい。

・IRの担当者には、財務データに含まれている企業の実態について、その内容を聞きたい。さらに、財務は結果なので、誰がどういう意思決定をして、今のような状況になっているのかを知りたい。

・社長の話を、生で見聞きする場合と映像で見聞きする場合とでは、目線、表情(顔色)、音声(声色)、動き(しぐさ)などに受け止め方の違いが出る。こちらの集中力にもよるので、生ライブの方がよくつかめる。

・今どこに最も関心があるのか。不透明ながら先行きに自信を持っているのか。不安な点はどこにあるのか。それにはどのような手を打っているのか。それで十分なのか、まだ足らないのか。意気軒昂なのか、呻吟しているのか。いろんなことが分かる。

・ビデオだけでも分かることは多い。全体のストーリー建て、次期計画のシミュレーション、ファクト情報の整理などは十分伝わる。今のところは、社長のビデオを見た上で、IR担当者に社長の表現から受けた印象を各々の具体的テーマにおろして議論していく。

・抽象的な話では議論にならないので、自分なりに咀嚼して、丁寧に聞いてみる。その反応がまた面白い。よく分かってくれる人、あまりのってこない人などさまざまであるが、いかに話しやすくするか。その質問の仕方がカギである。

・3月決算では、生の説明会を止めて動画にした企業がほとんどである。次の9月中間決算はどうなるだろうか。コロナショックが落ち着いて、従来型に戻ってくるだろうか。

・それとも、投資家のニーズを聞いて、Webの方が便利ということでネット開催が増えるだろうか。たぶん後者が圧倒的に増えてこよう。この時、企業サイドは、Web開催のプレゼン効果をもっと工夫する必要があろう。

・大事な点は、説明用資料を大きく映すことではない。説明資料は事前でも事後でもみることができる。手元に用意していることも多い。それよりも、社長のプレゼンする姿、表情、声をはっきりと知りたいのである。

・映像や音声のレベルを上げて、きれいにしてほしい。そこには演出が必要である。TVに出る時を考えればよい。当然シナリオがあり、本番の練習が必要である。準備不足は見苦しいことになりかねない。伝えたいことも、上手く伝わらない。

・社長だけでなく、CFO、CTOなど経営陣が何人か登壇することも効果的である。同じ時間でも、人が増えると情報量が増大するからである。

・映像のレベルを上げるというのは、社長に演技してほしいと言っているのではない。プレゼンの良し悪しは準備に依存する。中身はもちろんであるが、それをどう伝えるか。レポートでいえば、統合報告書のコンテンツと考えればわかりやすい。いかに自分の言葉で直接語りかけるか。ここがカギである。

・Webプレゼンのレベルが上がってくれば、Webプレゼン優良企業として表彰されることにもなろう。Webなら、何人でも参加できる。多くのファンドマネジャーが聞きに来よう。直接対話の機会として有効である。

・Q&Aの時間も多くとってほしい。ファンドマネジャーはラージミーティングの場ではあまり質問しない。セルサイドアナリストが中心かもしれないが、機関投資家も一段と議論に参加してほしい。

・投資家、アナリストは、Web説明会でも第六感を働かせて、話を見聞している。六感とは、ものごとの動きを鋭くつかむ心の働きである。五感に加えて、第六感に訴えることができれば最高である。そのようなネットの活用が、新しいIRのあり方となってほしい。

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