IR(統合報告)を中長期投資に活かす~その実践法

2020/01/20

・2019年のWICIジャパンの統合報告優良企業表彰では、大賞に日本精工、優良企業にアサヒグループホールディングス、コニカミノルタ、中外製薬、丸井グループ、そして奨励賞に日立製作所が選ばれた。初登場の企業は、中外、丸井、日立であった。

・審査のポイントは、5点ある。
1)財務情報と非財務情報が定量的、定性的に整理され、価値創造ストーリーが簡潔に記載されていること、
2)成果と課題が整理され、それらを踏まえた将来の事業戦略がリスクと合わせて見通せるようになっていること、
3)価値創造ドライバーがKPI等を使って示され、財務・非財務のデータのつながりが示されていること、
4)長期にわたる持続性を支えるESG情報が提供され、ふさわしい経営監視体制が保たれていること、
5)自社の資本コストを自覚し、株主、その他のステークホルダーへのバランスをもって経営に取り組んでいること、にあった。

・時価総額上位300社および統合的報告書を作成している214社を1次審査対象とし、その中から23社を選び、2次審査シートをベースに審査を行い、3次審査対象の10社が選ばれた。そこから上記6社が表彰された。

・では、統合報告書を投資にどのように活用したらよいか。これについて、投資家として誰でもできる方法について、筆者が実践していることを紹介したい。

・まずは投資対象になりそうな企業について、普段から目配せすることである。自分が関心を持たなければ調べる気にならない。興味があると調べることが億劫でなくなる。

・当たり前であるが、外部の情報は鵜呑みにしないことである。どんな情報も話半分と疑った方がよい。また、自分で調べたからといって、早飲みこみや勝手解釈をしないことである。とかく思い込みに陥り易いので注意したい。

・例えば、WICI表彰企業6社から3社を選んでみる。自分で調べてみようとする時は、できるだけ複数の企業を選ぶ方がよい。2社、3社を一緒に比較した方が、違いがはっきりわかり、自分で納得できるからである。

・例えば、日本精工、丸井、日立の統合報告書を読んでみる。全く違う業種であり、どこが優れているのか、はっきりしないかもしれない。各々よくできており、比較するといっても何を比べるのか、決めかねるかもしれない。

・投資家であるから、株が上がるかどうかに最大の関心があるのは当然である。だが、すぐ儲かるかどうかは分からない。通常の感覚でいえば、1)いい会社か、2)業績は伸びるか、3)株価は割安か、ということで判断したくなる。

・しかし、何とも曖昧である。いい会社とはどういう風に定義するのか。自分なりにはっきりさせておきたい。業績が伸びそうとしても、会社の計画がそのまま実現するわけではない。多くの場合、会社の言う通りにはならない。株価が割安かどうかはどうやって判断するのか。多くの株価は大体妥当ゾーンにある。まだ皆が気づいていない割安な掘り出し銘柄など滅多にあるものではない。

・そんなことはわかっているとして、さてどうするのか。何よりも、株式投資には中長期で臨むというスタンスを明確にすることである。次に、いい会社とは何かの要素をはっきりさせておく。そこで、統合報告書を読む場合は、5つの視点を持っておくとよい。

・第1は、経営者(CEO)が何を語っているか。ここで経営者の善し悪しをみる。きちんと自らの言葉で、将来について表現している経営者は素晴らしい。自分にとって、ピンと来るかどうかを大切にしたい。

・第2は、成長のためのイノベーションである。新しい革新的なことにいかに取り組んでいるか。そのためにどんな先行投資をしているか。そこを知りたい。

・第3は、リスクマネジメントで、突然業績がドスンと落ちて、それを想定外と言われても困る。リスクへの対応も踏まえながら、挑戦してほしい。準備している企業はしっかり書き込んでいる。

・第4は、サステナビリティ(持続性)を確保するためのESGについて実質的な中身を知りたい。コーポレート・ガバナンスの形式ではない。本当にどのように動かしているのか。社員はどのように働いているのか。自社だけでなく、バリューチェーン全体の中で、どのような活動をしているのか確認したい。

・環境については、社会的関心が一段と高まっているが、気候変動、CO2削減にどう対応するのか。直接関係ないから言及しないという姿勢ではなく、どう関わっていくかの姿勢と実践が問われている。

・そして、第5は、これら4つの軸が企業価値創造の仕組みであるビジネスモデルにしっかり結びついて、機能しているかがカギを握る。

・この5つの軸を頭において、統合レポートを読んでいく。そうするとその会社の活動がどのレベルにあるか、イメージできてくる。できれば評点してみるとよい。よくやっている:3点、まあまあかな:2点、もう一歩だな:1点、という3段階くらいでよい。

・評点が目的でなく、自分が評価する論点をはっきりさせるためである。軸が5つあるので、5×3点で15点満点である。15~12点ならAクラス。11~8点ならBクラス、7~5点ならCクラスとみておく。

・この視点で、日本精工、丸井、日立を比べてみると面白い。人によって意見は異なってよい。WICIの表彰は参考に留めて、自分なりの判断をしてみると、次第に考えが明確になってこよう。次に、どうして自分の評価はWICIと違っているのか、ワンランク上げるにはどうしたらよいか、などについて検討してみたい。

・ここまで調べてみた後で、PBR=ROE×PERを分析する。もし現状が、1.2倍=8.0%×15倍なら、ROEを12%に上げることはできるのか。どのようにやろうとしているのかを読みとってみる。

・PERの15倍は市場平均並みであるが、もっと成長性は上がらないのか。むしろ、これから下がってしまうのか。この点を統合レポートから読み取ってみる。

・PBRが1.2 倍ということは、非財務資本(無形資本)がさほど評価されていない。その程度の企業なのか、非財務資本への投資がこれから効果を発揮してくるのかを読みとってみる。

・もし、ROE 12%×PER 18倍=PBR 2.16倍という方向に蓋然性(確からしさ)があるのであれば、株価は中長期的に2倍になりうる。そう見込んでからが勝負である。すぐにアクションをとってはならない。

・さらに、社長の話(ビデオ)を見聞し、いろいろな資料をみながら、タイミングを図っていく。1~2年かけて判断して、それから投資してもよい。慌てる必要はない。その会社のファンダメンタルが変わっていないのに、マーケットが大きく下げた時こそ投資したい。

・こういうやり方を筆者は実践している。これをベルレーティング法と名付けている。特に難しいものではない。ただ、少し手間と努力を要する。投資をするには調べる必要があり、調べると成果が見えてくる。それなら調べることが楽しくなろう。ぜひ実践していただきたい。

株式会社日本ベル投資研究所
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