わが国初のスピンオフ~コシダカホールディングスのケース

2019/11/19

・コシダカは、カラオケとカーブスを分離独立するという日本初のスピンオフを行う。これで、企業価値は一段と向上するであろうか。

・2020年2月末に、カーブス事業をスピンオフする。日本初のスピンオフ税制を使った事業の分割独立である。分割前の株主に何ら不利益はない。二社に分割されても、カーブスの株を1:1の同数もらえ、カーブスも上場する。

・腰髙社長は、経営を分けた方が互いの成長力を高められると判断した。分割後のコシダカHD(ホールディングス)は自らが経営し、新しいエンタメ・インフラ企業を作っていく。創業の精神が「既存業種新業態」にあり、新サービスと海外展開で飛躍を目指す。

・新しく独立会社として上場してくるカーブスHDは、これまでの成長を牽引してきた増本社長のリーダーシップのもと、メンズ・カーブスや海外展開で第2の成長を目指す。大株主が腰髙氏であることは変わらない。

子会社株式の現物配当という形でスピンオフする。コシダカホールディングス1株に対して、カーブスホールディングスの1株がもらえる。つまり、分割前の1株の価値は、分離後も変わらない。配当課税もない。

・そうなると、分割しない一体経営の方がよいのか、分割して2つの独立会社として経営した方が企業価値を高められるのか、という点が重要なテーマになる。

・スピンオフについては、2年前にスピンオフ税制ができた時から腰髙社長は検討してきた。カーブスは順調に成長し、カラオケの利益を抜いてきた。米国のカーブス本部を買収して世界展開を図る局面にきている。国内ではメンズ・カーブスの新業態を開発し、そのビジネスモデルがみえてきた。これから全国展開に入る。

・この局面において、グループの子会社でいるよりも、①独立して上場する方がより成長できる、②上場のメリットを活かすことができる、と考えた。マネジメントは、カーブス・ジャパン創設以来、リーダーシップを発揮してきた増本氏が担っていく。

・一方、カラオケは、駅前繁華街への出店を4年前から始めて、独自の成長をとげている。カラオケは一見成熟しており、もう伸びないとみられるが、従来のマーケットはそうであっても、腰髙社長がテーマとする既存業態新業種に従うと、イノベーションによって、自社のビジネスモデルではこれからも十分伸ばすことができる。駅前繁華街はまだ首都圏で始まったばかりであり、全国に出店余地は大きい。腰高社長はここを本業として全力投入していく。

カーブスのスピンオフについては、1:1の株式配当(無税)を予定している。11月の株主総会で承認を得た後、上場準備に入り、2月26日の終値をベースに新しい株価(基準値)が決まる。終値-配当分の8円-カーブスHDの公開価格=コシダカHDの基準値となる。

・2つのコア事業が同じ会社にある場合と、別々の会社に分れる場合、何が違うのか。論点は2つある。

・1つは、同じ会社の2つの事業にシナジーがあれば、別々に分けてしまうデメリットがある。逆に、シナジーがなければ、別々にして思う存分経営した方がより成長機会を手に入れることができる。

・カラオケとカーブスにはもともと事業におけるシナジーはほとんどない。腰髙社長の経営力がカーブスに及ばなくなることによるマイナス面が課題とみる向きもあるが、この10年の増本氏の経営をみれば全く心配ない。

・もう1つは、株主にとっての投資機会である。2月までの株主は2つの主力事業をもつ会社の株主である。3月以降も既存の株主であれば、双方の株式を同じ株数だけ持てるので、株主価値が何ら変わるわけではない。ところが3月以降新規に株主になろうとする投資家は、カラオケかカーブスかに分けて投資することになる。

・そうすると、カラオケの投資価値、カーブスの投資価値をより厳密にみるようになる。その時、経営者の経営力がより発揮されるのであれば、各々の企業が前よりも光ってくるので、そこをみればよい。2つの事業があった方が、安定感があると思うのであれば、2つの会社の株式に投資してポートフォリオを作ればよい。

・つまり、ポートフォリオは企業が事業として構成する場合と、投資家が自分で構成する場合がある。互いに自らの価値向上を図って構築していくことが望ましい。その意味で今回のスピンオフは成長戦略として高く評価できる。

・別の視点がある。コシダカHDの表面的な数字をみると、2019年2月期、2020年2月期、2021年2月期の売上高、営業利益は、カーブスの分がなくなっていくので、表面上減っていくようにみえる。これが心理的にネガティブは感じられるかもしれない。

・営業利益でみると、表面上95億円→80億円→60億円(2021年8月期)と減っていくようにみえるが、カラオケ事業だけでみると、45億円→55億円→63億円と増えていく。

・2月末までの株主にとっては、2つの株を持つことができるので、両社合算の営業利益は95億円→110億円→130億円と、従来ペースの成長が十分見込めるので、何ら問題はない。表面上の財務数値に惑わされないようにしたい。

・創業者は両社の大株主のままである。予定通りいくと、2020年3月2日にカーブスは上場する。企業には成長ステージがあり、カーブスは独立会社として自立した方が、よりチャンスが活かせると腰髙社長は判断した。

・創業者である腰髙社長は、コシダカHDの大株主であると同時に、カーブスHDのマネジメントは離れても、こちらも大株主であり、持株数を減らすことは考えていない。カーブス事業のキャッシュ化を考えたのではなく、独立した中長期の価値創造を大株主としても望ましいと判断したのである。

・カーブス上場のメリットは大きい。カーブスの上場によって、社員のモチベーションは上がり、人材を集める点でも望ましい。ヘルスケア企業として、産学官の連携、自治体との連携、医療機関との連携を一段と進めていく。この時、自立した上場企業としての信頼は大きく貢献しよう。また、人手不足の中、カーブスFCにとって、人材採用面でのサポートはかなり期待できる。

・増本社長はカーブスの立ち上り期から会社をリードしてきた。腰高社長は、財務基盤も安定し、次の成長に向けて自立するタイミングであると判断した。その時に、スピンオフの制度が整ったので、これを日本初の第1号として活用することにした。

・経営体制は明確である。スピンオフに向けて、11月の株主総会後の経営体制は、コシダカHDとカーブスHDでマネジメントに重複がないようにする。社長の弟である腰髙修専務は退任して、カーブスHDの取締役に専念する。

・増本社長は、保有する新株予約権を上場後速やかに行使して、カーブスの株主となるが、その株式を2年間は継続して保有する約束である。

・腰髙社長は、資産管理会社を含めて、コシダカHDの37.1 % を所有している。ファミリー全体では40%を超える持株比率であるが、スピンオフ後もカーブスHDの株式について、短期的に売却する意向は全くない。

・2年前にできたスピンオフ税制の活用を検討していたが、その間に、米国CVI(カーブスインターナショナル)の買収があったので、事業のスピンオフは今回のタイミングとなった。

・コシダカHDの株価は2020年2月26日(水)に基準株価が決まった後、2月27日28日と2日間は単独で取引される。その後、翌週の3月2日(月)にカーブスHDの新規上場となる。

・スピンオフ公表後に株価が下がったが、カーブスHDの公開に伴って、公募増資が実施されるので、そのダイリューション(希薄化)を嫌った面がある。しかし、公募増資のダイリューションについては全く心配する必要はない。

・公開価格を決めるための増資であり、カーブスHDに強い資金ニーズがあるわけではない。FCビジネスなので、内部資金で十分経営できる。米国本部の買収で借入残が多いというようにもみえるが、カーブスのFCF(フリーキャッシュ・フロー)は潤沢なので、現在の借入金は内部留保を使えば3~4年で返済できる。借入金の返済ニーズが強いわけでもない。

・カーブスの経営陣もオーナー型となる。つまり、カーブスの増本社長、坂本取締役、増本取締役の3名はカーブス創業時からのメンバーで、コシダカがカーブスを買収した時に、3名の持ち株比率は10%であった。

・今回のスピンオフに当たって、一度100%子会社にして、10%分は3名への新株予約権という形にした。カーブス上場後はこの予約権を行使して、3名は従来と同じ10%の持ち分を保有するようになる。

・カーブスHDの大株主は、コシダカファミリーが40%を超え、増本社長をはじめとする創業期からのメンバーが10%を保有する。今のトップマネジメントが一定の株式を持つことは望ましい。

・カラオケとカーブスの今後の収益性をどうみるか。2019年8月期セグメント利益でみると、カラオケの売上高営業利益率は12.6%、カーブス20.0%である。この利益率に対して各々のビジネスモデルが適切に展開されるのであれば、カラオケ15~25%、カーブス20~25%が見込める。

・つまり、外部からみると、カーブスの収益性が高く、カラオケは低いという現時点の見方にとらわれがちであるが、マネジメントからみると、カラオケとカーブスは同等の収益性を出す力を十分持っており、しかも将来の伸びしろ(成長余力)について、両者とも何ら遜色ない。

・ここが実行戦略としてみえてくれば、コシダカHDとカーブスHDの各々の企業価値はそれぞれ高く評価されることになろう。「総合余暇サービス提供企業」をビジョンに、中期的に営業利益は、コシダカHDもカーブスHDも各々営業利益で100億円が十分達成できよう。

・スピンオフ後も、両社ともROEが高くピーク利益を更新、独自の価値創造を続けよう。両社の革新に大いに注目したい。

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