IRフェアを活かすコツ

2019/09/19

・8月に「日経IRフェア」が催された。投資にどう活かしたらよいか、という点について、日経CNBCでコメントした。個人投資家にとってのポイントをいくつか取り上げてみたい。

・個人投資家向けのIRフェアは、年間にいくつも開かれている。東京で行われることが多いが、名古屋、大阪でも催されている。投資家は、自分がIRフェアのことを気にしていると、新聞やネットなどを通して、その案内が目に入ってくる。まさに、関心があることは目に飛び込んでくるし、気にしていないことは見逃してしまう。

・活用するには、①行ってみる、②聞いてみる、③選んでみる、ことが大切だ。出かけるのはちょっと面倒かもしれないが、生で会社の情報に接することは、自分にとっての刺激が違う。誰かがまとめた記事やレポートも参考になるが、自分の感性、五感を使うと印象と理解が深くなる。

・聞いてみることには、2つの方法がある。1つは、大きなセミナー会場で社長の話を聴く。あるいは、個別企業のブースでIR担当者から説明会風に話を聴く。どちらも一方向の情報を受け取るだけである。聞き耳を立てて咀嚼しようとしても、理解できないことが残ってしまう。

・そこで、もう一つの方法は、ブースの展示を見ながらIR担当者に個別にいろいろ聞くことである。IRフェアはこれができる。Q&Aを行うと、分からないことや疑問に思ったことにかなり答えてくれる。

・聞くというのは、少し勇気がいる。こんなことを聞いていいのか、そもそもどんなことなら聞いたらいいのか、よくわからないかもしれない。こうした不安があっても、気にしなくてよい。ブースにいるIR担当者は、話したくてうずうずしているのである。

・IRフェアにブースを出す会社は、わが社をもっと知ってもらいたいと思っている。だから、わざわざ時間とお金をかけて参加している。遠慮せずに聞くことが、相手にとっても嬉しいことなのだ。

・私は、アナリストの基本動作として、3つを心掛けている。それは、①ネタ探し調査、②フォローアップ調査、③重点調査である。

・IRフェアでは、よく知らない会社もいろいろ出ている。その時は、私は「何屋さんですか?」と聞いて、話の糸口を作る。先方の担当者はどう答えるか。当然、自分が答えやすいように、初歩的に説明してくれる。初歩から入ると、知らないことを聞くのが恥ずかしくない。

・フォローアップ調査は、すでに知っている会社をもう一度確認してみる。例えば、NTTのブースがあった。今回の展示では特に何をアピールしたいと思っているのか。それを聞いてみる。その時、知ったかぶりの先入観は捨てた方がよい。会社はどんどん変わっていく。5年前、10年前のイメージで、自分の知っていることを固定化しないことが大切である。新しい動きが出ているかもしれない。

・重点調査は、すでによく知っており、投資対象として有望と思っている場合である。より深く知る機会として活用したい。会場に社長や役員がいることもある。逆に、会社のパンフレットを配っている人だけのこともある。

・ここで大事なことは、同じ会社の何人かの人に、別の質問をして、その反応をみることである。ちょっと話せば、それなりに詳しい人か、全く詳しくないかがすぐに分かる。

・重要なことは、その人が知らないことを聞いてはいけない。人間、自分が知らないことを聞かれると不愉快になる。知っていることを聞かれると得意になる。得意なことを聞くと話が弾んで、話の輪が広がっていく。楽しい数分間のQ&Aになろう。これがIRフェアの醍醐味である。

・人の話を一方的に聴くだけでは、その内容を忘れてしまうことも多い。しかし、自分が質問して聞いたことは中々忘れない。つまり、長持ちする情報になっていく。こうした情報の蓄積が投資の勘を養っていくことになる。

・IRフェアの会場にはいろんな会社が出ているが、話を聞いて回って、投資の候補になりそうな会社を自分で3つくらい選んでみるとよい。但し、すぐに買ってはいけない。一時的な雰囲気に巻き込まれないように、もう少し調べてみる必要がある。

・さらに別の観点から、会社の話を聞いてみることも大いに役立つ。日経IRフェアの例でいえば、経営コンサルのフロンティアマネジメントからは、今この会社がやっていることを通して、企業の経営課題を探ることができる。それを、どう解決していこうとしているのかを知りたい。

・不動産のフューリックからは、現在の不動産市場をどうみているか。五輪後も大丈夫なのかなど、事業環境への対応を知ることができよう。

・太陽光発電のインフラ投資法人からは、今後の太陽光発電はどうなるのか。政府の政策の変更がどう影響するのか、という点について理解を深めることができよう。

・ステーキのブロンコビリーは外食業界で高収益率を上げているが、人手不足の中で、これが続くのか。日米貿易摩擦の中で、牛肉のグローバルな調達はどのように変化するのか。その方向性について知りたい。

・ヘルスケアの総合メディカルからは、高齢化と共に医療費負担が重くなる中で、薬価改定の影響や医療法人の経営コンサルについて、話が聞けそうだ。

・このように、ミクロの企業を通して、マクロの動きをみるというのも、大いに役立つ。個人投資家は、エコノミスト、ストラテジストの話をきくのが大好きであるが、トップダウンの見方と同時に、ボトムアップの動きも実感しておきたい。

・IRフェアの見聞を終えて出てくいる時には、今日のお土産を3つくらいにまとめておきたい。会社からの景品ではない。自分なりに納得した情報の発見である。1つでは足らない。比較するという点では何事も3つ必要である。

・今日印象に残ったこと、次につなげること、大いに学んだこと、などいろいろありうる。こういうまとめが腹に入ると、半日歩いたことも心地よい疲れとなろう。健康にとっても良いことである。私は、IRフェアをこのように活用・実践している。

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