山崎式「株価の高低判断法」

2013/02/22

<万能の方法はないが…>

株価の高低を判断できる「尺度」はないか、というのは、古くからあるテーマだが、決定的な答えがない。
敢えていうなら、個別銘柄についても、市場全体の水準についても、PER(株価収益率)が勝ち残っている。
たとえば、米国では、伝統的にS&P500の株価収益率が20倍を超えると、市場が過熱していて、株価が高すぎるのではないかという声が出る。
人気銘柄に三桁のPERが続出したネット株バブルの時代には、「PEG」(PERを%単位の成長率で割ったもの)のような「きわもの」としか言いようのない尺度が登場したが、この尺度は短期間に支持を失った。PBR(株価純資産倍率)を参考にする投資家も少なくないが、個別銘柄の株価の高低を論じる場合に、一番多く使われている数値はPERだろう。
個別に高い利益成長率が予想される場合、PERは高くてもいいので、予想される成長率や、同業他社のPERとの比較などを参照しつつ、PERが高いか・低いかで株価が論じる場合が多い。
今回は、個別の銘柄の株価の高低ではなく、市場全体の株価水準の判断方法を取り上げる。前回の本連載で、株価の高安を「利回り」で判断しようという趣旨のことを書いたが、ある読者の方から、どういう考え方に基づいて判断しているのか詳しく説明して欲しいというリクエストがあったので、近年私が使っている株価の判断方法を少し詳しくご説明する。

<益利回りvs.長期金利>

筆者は、株価を概ね「将来の純利益の割引現在価値の合計」として考えることにしている。
似た考え方として、将来の配当の割引現在価値を考える「配当割引モデル」(通称「DDM」。Dividend Discount Model)が有名だが、DDMは、配当性向の変化を考慮しなければならず、計算が煩雑で、扱いにくい。
企業の純利益は配当されるか否かに関わらず株主のものだ、と先ずは割り切って考える。
将来の企業の一株当たり利益(EPS)が一定の場合、割引率をrとすると、無限に続く将来の一株利益の現在価値の合計はEPS/rで計算でき、これがあるべき株価(P)となる(等比級数の和の公式に、公比として1/1+rを代入すると求められる)。
EPS/Pを計算すると、これはPERの逆数だが、「益利回り」と呼ばれる。株主が現在の株価の株式を保有する(=その金額だけ企業に資本を提供し続ける)ことの「利回り」と解釈できる。
益利回りと市場で形成される金利を比較する、というのも一つの方法だ。
たとえば、2月20日時点で東証一部の平均PER(利益は日本経済新聞社予想ベース)は概ね20倍であり、益利回りは5%となる。長期金利(10年国債利回り)は0.74%なので、この差について考える。
この場合、両者の差である、4.26%は、予想利益成長率の期待値をゼロと考えた場合の株式の「リスク・プレミアム」だと考えていい。
しかし、この方法では、将来の利益の成長率の対する見通しが株価の判断に加わっていない点が物足りない。

<成長率を加味する>

将来の一株利益(EPS)の割引現在価値の合計が株価だとして、一株利益が一定の比率(g)で成長するとした時の株価(P)は、P=EPS/r−gで計算できる。
たとえば、一株利益が100円で、割引率が6%(=0.06)、利益成長率が2%(=0.02)とすると、この銘柄の株価は100円÷(0.06−0.02)=2,500円といった具合に計算できる。
尚、「世の中には、せいぜい数%の割引率よりも、高い二桁の利益成長率を持った銘柄があるので、この場合、公式にあてはめると株価がマイナスになってしまい、明らかにおかしい。この公式は間違っている」という人がたまにいるのだが、割引率よりも高い利益成長率が永遠に続くことは無い。万が一、割引率に近い永遠の利益成長率を持った銘柄があれば、その銘柄の時価総額は無限の大きさになり、世界全体の富にほぼ等しいくらいになるだろう。
さて、先ほどの株価の式を益利回りと関連づけてみよう。
簡単な移項で、EPS/P=r—gとなることが分かる。さらに、成長率(g)を左辺に持ってくると、EPS/P+g=rとなる。
rは投資家が株式に要求する割引率だが、これは、一定の利益成長(g)を仮定した場合に、株式が投資家に無理なく提供し続けることができる投資収益率を意味している。

<現実の株式市場と関連づける>

益利回り(EPS/P)はPERの逆数なので、簡単に求めることができる。PERが20倍なら5%だし、25倍なら4%といった具合だ。
問題は、長期的な利益成長率だ。
現実の利益成長率は、毎年大きなアップ・ダウンがあり、「永久に一定率」というような計算上の都合のいいものではない。
ここで、簡略化のために割り切った「仮定」だが、「投資家がイメージする企業の長期的な利益成長率が、当面予想されているGDP成長率と同じだ」と考えてみる。この場合のGDP成長率は、実質成長率ではなく、名目成長率だ。
これはかなり大雑把な仮定だが、人々は所詮、その時々の足許の景気(≒GDP成長率)から企業利益の成長率に対するイメージを形成して、株式を取引していることを考えると、案外悪くない近似ではないかと筆者は考えている。
投資家は、将来の利益成長に関して正確な予想を形成しているわけではないし、自分自身が正しい予想を形成できていると思っているわけでもないが、その時々の景気から利益成長率が高まったり低くなったりしていることを感じつつ株式を評価している。
直近で益利回りが5%だとして、GDP成長率をどこから取ってくるかということが次の問題だ。
筆者は、先ず政府の予想を見、次に民間のシンクタンクやエコノミストの予想を見て、漠然と世の中でイメージされている成長率を推測することにしている。
現状で、2013年度の政府の名目GDPの成長率見通しは2.7%(実質2.5%+物価上昇率0.2%)だ。
この数値を採用すると、益利回りが5%なので、割引率が意味する株式の投資収益率は7.7%となる。これは、直近の長期債(10年国債)利回りである0.74%を約7%上回る。
リスクのある資産の期待投資収益率と安全資産の期待収益率の差は、株式のリスクを取ることに対する報酬を意味するので、「リスク・プレミアム」と呼ばれる。
株式のリスク・プレミアムがどのくらいの大きさであるかについては、内外に長年の議論があるが、確たる答えは無い。
学者や実務家の多くがイメージし、運用計画などに用いる数値は、5%〜6%くらいであることが多く、株価が上がり続けている時には、これがもっと小さくてもいいのではないかという議論がしばしば登場する(たとえば、金融危機の前のサブ・プライム問題が起こる前の米国がそうだった)。しかし、経験的には、そうした議論が登場してしばらくすると、株価が大きく下落する場合が多い。
現在、筆者が使っている大まかな判断基準は、先のような方法で計算したリスク・プレミアムが、(1) 7%以上あれば株価は安い、
(2) 6%程度なら普通、
(3) 5%以下なら株価は高い、
というくらいのイメージだ。
これらは、いつでもこの基準でいいというものではないだろう。場合によっては修正が必要になると考えられるが(投資家の要求利回りの変化の他に、企業の自己資本比率の変化の影響を受けそうだ)、当面、筆者は上記の水準を判断基準にしている。
先の計算では、政府の名目GDP成長率見通し2.7%が少し高いかも知れないと思わないでもないが、これを1%下方修正したとしても、リスク・プレミアムは約6%になるので、現在の株価は「少なくとも、ひどく高いわけではない」というのが筆者の判断だ(注;正しいことを保証できるわけではないが)。
この計算結果は、
(a) 株価の変化、
(b) 企業の予想利益の変化、
(c) 実質GDP予想の変化、
(d) 物価上昇率予想の変化、
(e) 長期金利の変化、
の影響を受ける。
これらの変化をよく見ることと、それぞれのバランスの変化を見ることは、投資の考え方としてオーソドックスなアプローチだと思う。読者のご参考になると幸いだ。

以上

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楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てください。
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