日銀の追加緩和と政府との共同文書について

2012/11/01

今週、最大の注目イベントだった日銀の金融政策決定会合が30日に終了しました。焦点だった金融緩和については、資産買い入れ基金の追加増額や、その基金の買い入れ期限を1年延長することなどが決定されました。

具体的には、長期と短期国債の購入額をそれぞれ5兆円ずつ増やすほか、ETFが5,000億円、社債が3,000億円、CP(コマーシャルペーパー)が1,000億円 、REIT(不動産投資信託)が100億円など、合計で11兆円程度の増額規模になります。また、貸し出し増加を支援するために、無制限の資金供給の枠組みを新たに創設することも決定されています。

これを受けた直後の市場は「円高、株安」で反応し、日経平均は当日の安値で終了しました。今回の会合の結果が発表されたのは、東証の取引終了間際の14時45分頃で、大抵の場合は昼過ぎまでに結果が発表されることが多いことを踏まえると、かなり遅いタイミングでした。時間がかかったことで、「もしかしたら大規模な金融緩和などのサプライズがあるのでは?」という観測が一部で広がったことによる反動も、売りに拍車をかけた一面があると思われます。

ただ、翌日の日経平均は前日の下落分を取り戻す格好で上昇しており、今回の追加緩和については、「期待(希望)以上ではなかったものの、想定には即した内容」という受け止め方のようです。

また、今回の会合での新たな動きとしては、日銀と政府が連名で「デフレ脱却に向けた取り組みについて」と題した共同文書を公表したことです。こうした共同文書を出すのは、1998年4月に新日銀法が施行されて以来、初めてです。その主な内容は、「日銀と政府はデフレの早期脱却と、物価安定の元での持続的成長経路に復帰することが重要な課題と認識」、「そのために、日銀と政府が一体となってこの課題に向けて最大限の努力を行う」、「この課題に対し、政府は日銀にデフレ脱却が確実となるまで強力な金融緩和を継続することを強く期待する」というもので、日銀と政府との協調姿勢をアピールしたものとなっています。

この共同文章ですが、市場では、政府と日銀の事実上のアコード(政策協定)として受け止められているようですが、重要なのは、日銀と政府の役割分担が明確になったことだと思います。それにより、「日銀と政府のどちらに圧力がかかるか?」がポイントとなりそうです。つまり、政府がこれまで以上に日銀に対して一段の追加緩和を迫るのか、もしくは、進展しない政府の取り組みについて風当たりが強くなるのかということです。

日銀はこれまでに何度となく追加の金融緩和を実施し、資産買い入れ基金の総額を、導入時(2010年10月)の35兆円から今回の91兆円程度まで3倍近くに増やしていますが、現在の日経平均の水準は導入時よりも低くなっています。世界景気の減速や震災、欧州情勢の悪化などの悪材料が次々と出てくる中で、金融緩和の効果は株価の下支えになっているものの、株価の押し上げやデフレ脱却には結びついていないのが現状です。

この現状の要因として、「まだまだ緩和の規模が足りないためなのか?」、もしくは「金融緩和をしても、それを活かす仕組みや構造改革、規制緩和などの政府の取り組みが進んでいないためなのか?」という見解の相違があります。政府の立場は前者、日銀の立場は後者になるのですが、これまでの経緯からすると、共同文章内にもある通り、「最大限の努力」をしているのは政府よりも日銀と考える方が自然です。

先日、政府もようやく野田首相が約4,000億円規模の景気対策の策定を指示しましたが、国会では特例公債法案が成立しておらず、そもそも予算の執行自体が危ぶまれているほか、解散総選挙をめぐる与野党の攻防など、本来、デフレ脱却に向けた政策を押し進めるべき政治の停滞が続いています。

相場の環境は未だに国内外で景気減速や企業業績の下振れが警戒されていますが、政府が責任を持ってデフレ脱却に取り組めない以上、結局は日銀の金融緩和に期待するしかないという状況がしばらく続きそうです。

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