(3853)アステリア株式会社 人的資本強化による競争力向上

2022/03/10

 

 

平野 洋一郎 代表取締役社長

アステリア株式会社(3853)

 

企業情報

市場

東証1部

業種

情報・通信

代表取締役社長

平野 洋一郎

所在地

東京都渋谷区広尾1丁目1番39号 恵比寿プライムスクエアタワー19F

決算月

3月

HP

https://www.asteria.com/jp/

 

財務情報

売上収益

税引前利益

当期利益

資産合計

資本合計

ROA

ROE

2,688百万円

1,026百万円

807百万円

7,907百万円

5,721百万円

12.8%

15.7%

*2021年3月期実績。IFRS適用。当期利益は親会社株主に帰属する当期利益。ROAは資産合計税引前利益率。ROEは、親会社所有者帰属持分当期利益率。

 

目次

1.会社概要
2.トップインタビュー
3.課題・マテリアリティと取り組み
4.「中期経営計画STAR」概要
5.財務・非財務データ
<参考>
(1)ESG Bridge Reportについて
(2)「ROESGモデル」について

1.会社概要

「ソフトウェアで世界をつなぐ」をコンセプトに、ソフトウェア技術とインターネット技術を中核としたさまざまな「つなぐ」ニーズに応えるソフトウェアを開発。主力製品「ASTERIA Warp」の導入企業数は2020年に9,000社を突破。国内企業データ連携ソフト市場で直近の2021年まで15年連続市場シェア No.1を達成している。「中期経営計画 STAR」では、「自律・分散・協調型の新社会を創るサービスを世界規模で提供する」とのビジョンの下、24年3月期目標「売上高45億円、調整後EBITDA10億円」達成を目指す。

 

【1-1 上場までの沿革】

中学生のころからコンピュータに関心を持ち、ソフトウェア開発に打ち込んできた平野洋一郎氏(現 アステリア株式会社 代表取締役社長)は、コンピュータの世界をもっと知りたいと思い大学に進学したが、高い志から大学を中退し知人とソフトウェア会社を設立。エンジニアとして活躍し自身が開発したワープロ用ソフトが人気を博した後に、世界的なソフトウェアメーカーであったロータス社に入社する。
1990年代半ば、インターネットが急速に普及する中、メーカーが異なっていてもシステムやソフトウェア同士が繋がる必要性のある時代が必ず到来すると「先見」した平野氏は、ロータス社の主力製品であったグループウェア「ロータス ノーツ」のデータ形式や通信手順を公開して他社メーカーのグループウェアと接続できるようにする事がインターネットの時代には不可欠であると提案したが、既に大きなシェアを確保していたロータス社はその提案を却下した。
データ連携の必要性・重要性を強く感じていた平野氏は、コンピュータの共通言語である新技術XMLを使用することで、社内外を問わずあらゆるシステムがつながり、さまざまな業務が遂行される時代が来ると確信し、同僚であった北原淑行氏とともに2名で、1998年9月、インフォテリア株式会社(現 アステリア株式会社)を設立した。

 

製品開発に徹底して集中することが必要と考えた平野社長は会社設立後間もなく、日本のスタートアップ企業ではこの当時では異例の、約27億円の資金調達を実施し開発に注力。
2002年には、データ連携のためのソフトウェアである「ASTERIA R2」(現 「ASTERIA Warp」)をリリースした。
「ASTERIA Warp」は、「ノーコード」コンセプト、つまり導入企業側で完全なプログラミングが出来なくてもデータ連携を実現できる点が当時として画期的な製品で、長年にわたりトップシェアを握る同社の主力製品に成長していった。

 

コンピュータの共通言語XMLを使用したデータ連携は、まず初めに電子商取引の領域で新しい潮流を形成し、ソニー、京セラといった一流企業が注目し採用。その後データ連携の有意さを理解する企業数は着実に増加し、「ASTERIA Warp」の導入企業数は、リリースから3年後の2005年には200社を突破。2006年にはEAI(企業データ連携、Enterprise Application Integration)のソフトウェア国内シェアNo.1となった(その後2021年まで15年連続シェアNo.1)。
こうして成長トレンドに入った同社は業容を一段と拡大し、2007年6月に東証マザーズに上場。
その後も、2009年6月モバイルコンテンツ向け管理システム「Handbook」、2016年10月モバイルアプリ作成ツール「Platio」、2017年6月AI搭載IoT統合エッジウェア「Gravio」など、時代の流れを先見し、「つなぐ」価値を拡大する製品・サービスを次々と市場に投入していく。
2018年3月には、東証1部へ市場変更し、同年10月にはアステリア株式会社に社名を変更した(アステリアは、ギリシャ語で「星座」の意。地球上に存在するさまざまな輝くものを星座のように繋いで、新しい形、新しい価値を創っていくことを目指して社名とした)。

【1-2 理念】

経営理念として以下の3つを掲げて、これを基に、世界中に価値を提供する企業となるべく挑戦を続けている。

発想と挑戦 (Challenge for Ideas)

自由闊達な発想と挑戦を尊ぶ。時代をリードするイノベーションは新しい発想から生まれる。その実現のために、リスクを取ることを厭わず、常に新たな可能性に挑戦する。

世界的視野 (Global Perspective)

常に世界市場を視野に入れる。世界的に存在価値のある独自性を持った製品やサービスを提供する。

幸せの連鎖 (Chain of Happiness)

幸せを連鎖させる。自ら幸せを感じる誇りある活動を営むことで、お客様の幸せに貢献し、ひいては社会の進歩発展に寄与する。

 

【1-3 事業内容】

「ソフトウェアで世界をつなぐ」をコンセプトに、ソフトウェア技術とインターネット技術を中核としたさまざまな「つなぐ」ニーズに応えるソフトウェアの開発と販売およびそれに付帯する事業を行っている。
報告セグメントは「ソフトウェア事業」と「投資事業」の2つ。

 

1-3-1ソフトウェア事業セグメント
ソフトウェア事業とデザイン事業で構成されている。

 

(1)ソフトウェア事業
同社の中心事業。
個別の企業向けのソフトウェア開発を行う「受託開発」ではなく、不特定多数向けのパッケージやクラウドサービスを提供する「製品開発」に特化。企業情報システム、クラウドサービス、ハードウェア機器などを「つなぐ」ためのソフトウェアを開発し、市場に提供している。
主要製品は、「ASTERIA Warp」「Handbook」「Platio」「Gravio」の4つ。

 

(データ連携について)
同社事業の根幹となるコンセプトが「つなぐ」。具体的には、容易かつ効率的、安全に同一企業内や他の企業間とのデータ連携やシステム連携を行い、データの価値を拡大するということである。

 

*データ連携の必要性
システムやソフトウェアは開発したベンダー、使用しているプログラミング言語やプロトコル(規格、手順、約束事)が異なるのが大前提である。
同一企業内でも、営業部門と商品企画やマーケティング部門で使用しているシステムやツールが異なると、両部門のデータを簡単には連携させることができず、他部門からのデータを自部門で改めて加工しないと使用することができないことになる。また、外部の企業にデータを送る際も、そうした手間暇がかかることとなる。

 

こうした問題を解決するのが「データ連携」である。
データ連携を行えば、部門間または企業間で異なる形式で扱っていたデータを、自部門や自社のシステムで扱えるように加工する手間やコストを削減でき、業務の生産性が大きく向上するほか、必要なタイミングで必要なデータをすぐに利用できるため業務上の機会損失を防ぐことができる。

 

(同社資料より)

 

(主要なソフトウェア製品)
①データ連携ミドルウェア「ASTERIA Warp」(アステリア ワープ)
平野社長が「データ連携」を容易に行うことでデータの価値をさらに引き上げることを目指し、第一号製品としてリリースしたのが「ASTERIA Warp」である。
「ASTERIA Warp」の導入企業数は2020年に9,000社を突破。国内企業データ連携ソフト市場で直近の2021年まで15年連続市場シェアNo.1を達成している。シェアNo.2の製品の約1.5倍のシェアで、同分野の製品の中で圧倒的な支持を得ている。

 

「ASTERIA Warp」は、独自に設計・開発を行った企業向けデータ連携用ミドルウェア製品で、汎用のデータ連携機能をパッケージで提供することにより企業内外に存在するシステム間の連携を簡単・迅速に実現することを目指した製品。
沿革でも触れたように、「ノーコード」コンセプト、つまり導入企業はコーディングが不要で、完全なプログラミングが出来なくても、「アイコン」を並べて設定するだけでデータ連携を実現できる点が大きな特長である。

 

(データ連携の形態)
*企業内データ連携
企業内システムを連携させる際に、システム間を1対1で個別に接続するのではなく「ASTERIA Warp」を中心として多対多の接続を実現する。「ASTERIA Warp」にあらかじめ用意された多様なデータ形式、通信手順形式、業務システムへの対応によって最小限の接続数で、拡張性の高い柔軟なシステム連携を迅速かつ効率的に行うことができる。

 

*企業間データ連携
システムの仕様や業務フローなどが多様な複数企業間における、多種多様な情報をやりとりするために必要な通信プロトコルや認証などの機能を装備し、企業間での発注処理などにおいて円滑なシステム連携を行うことができる。
ユーザー企業の1社である報道機関(通信社)では、各地の新聞社など相手システムに合わせた個別設定を行う手間なく、全国一斉にニュース配信をすることができる。

 

*クラウドサービス連携
近年普及が進んでいる各種クラウドサービスとの連携が可能。AWS(Amazon Web Service)やMicrosoft Azureで提供される基本的なクラウドサービスに加え、Salesforceやkintoneなどクラウド上のアプリケーションサービスとデータ連携することができる。

 

これまでも、様々なERP、業務システムなどとのデータ連携を実現してきたが、今後も「Blockchain」「IoT」「AI」「Robot」「Fintech」といった新技術やクラウドサービスと企業システムをノーコードでAPI接続することができるよう、新しい時代の変化を「先見」して進化を続けていく製品である。

 

(販売方法)
28社(2022年2月13日現在)の、主としてシステム開発会社である「ASTERIAマスターパートナー」と呼ばれる販売パートナー(代理店)がエンドユーザーへ販売している。
「ASTERIAマスターパートナー」は、主として自社が構築するシステムの中に「ASTERIA Warp」を組み込む形でエンドユーザーに販売している。

(同社資料より)

 

また、2016年に販売を開始した月額利用料金型のサブスクリプション版「ASTERIA Warp Core」は、ASP(ASTERIA Subscription Partner)62社(2022年2月13日現在)がパートナーとして販売を行っている。

 

導入先に対して技術サポート(問合せ対応)及び製品の更新(新しいOSへの対応、機能の拡充、不具合の修正)など運用支援を行うサポート業務も提供している。サポート料金はライセンス金額の15%。ライセンスと同じく毎年ストック型で積み上がり、ASTERIA Warpの安定した収益拡大の一因となっている。
サポートの提供は原則として販売パートナー経由で行っている。

 

② 「Handbook」(ハンドブック)
組織で発生する多種多様な情報を、スマートデバイス(スマートフォンやタブレット端末)に対してセキュリティを保ちながら登録・配信・共有することを可能にするサービス。
スマートデバイス上にダウンロードして使う「アプリ」と、クラウド上で提供される編集・管理ツールの構成となっている。

 

月額利用料金型のサブスクリプションで提供されるため契約した時点から直ぐに利用を始めることができる。
対象ユーザーは、企業や教育機関など1600社を超え、コロナ禍の下、スマホやタブレットを使用したリモート活動を円滑に実施する際に大きな効果を発揮している。

 

市場調査・コンサルティング会社ITR社が作成した市場調査レポートである「ITR Market View:SFA/統合型マーケティング支援市場2021」では、セールス・イネーブルメント・ツール市場の2カテゴリ(売上金額シェア、累計導入社数ランキング)でシェアNo.1となっている。

(同社資料より)

 

③ 「Platio」(プラティオ)
誰でも簡単に自社の業務にフィットするモバイルアプリを作成・活用できるアプリ作成ツール。
「ASTERIA Warp」同様、「ノーコード」が大きな特長である。

 

モバイルデバイスで得られる位置情報、カメラ・ビデオの情報に加え、手入力の情報などをまとめて入力する機能を有している。アプリで入力した情報は、担当者のモバイルデバイスに即座に共有。共有されたデータはCSV形式で出力したり、APIを介して他のシステムと連携したりできる機能も有している。
100種を超える豊富なテンプレートを標準装備。柔軟なカスタマイズ機能を備えており、現場業務に適したモバイルアプリをノーコードで作成できる。
iOS版(iPhone、iPad用)及びAndroid版を、パートナー制度により月額利用料金型のサブスクリプションで提供している。
企業のみでなく、地方自治体など幅広い業界での採用事例が拡大している。

 

(同社資料より)

 

④ 「Gravio」(グラヴィオ)
オフィス、ビル、店舗などでのIoTソリューションにおける、効率的なデータ収集と活用をシンプルに実現するために開発したAI搭載のエッジコンピューティング用ミドルウェア。
世界中で幅広く普及しているWindowsやMacOS上でも動作するため、既存のPC運用における知見や情報リソースを最大限に活かしながら、カメラとAIによる画像認識や各種センサーデータを利用するエッジ統合型のAI・IoTシステムをノーコードで容易に実現することができる。

 

6つの特長
1:センサーデータ処理。IoT機器からのデータ加工・連携を一元的にエッジで処理可能。
2:各種デバイスの制御が可能。IoT機器に対する作動制御(命令発行)が可能。
3:AI(マシンラーニング)搭載。顔認識や天気の識別などカメラをセンサーとして使用可能。
4:ノーコード。直感的かつ流麗なインターフェースにより高い操作性を提供。
5:レイアウトビュー。エリア内に設置されたIoT機器の状態を画面上で俯瞰することが可能。
6:Windows、MacOS、Linuxで動作。運用、管理、保守が容易でかつ高いセキュリティを実現。

 

Windows版、MacOS版、Linux版を、サブスクリプション(月額/年額)で提供している。今後もハード/ソフト両面での機能追加を継続的に予定している。

 

自動化、遠隔化のための事例が続々と登場している。

(同社資料より)

 

(2)デザイン事業
2017年、英国This Place社を買収し提供を開始したサービス。
企業向けのソフトウェアも今後はデザインファースト、つまり、機能だけでなく、それ以上に使いやすさ・分かりやすさを重視したデザインが重要になるとの考えから、企業のデジタルトランスフォーメーション実現を支援することを目的としている。顧客企業のデジタルデザインにおけるブランディング戦略のコンサルティング、顧客企業のDX戦略策定・実行支援、ウェブやモバイルアプリのデザインに関するコンサルティング、開発支援等を提供している。

 

英国、米国、香港を拠点とし、大手企業を中心顧客としてサービス提供している。現在の中期経営計画期間内に日本でも拠点を設置しサービス提供を開始する計画である。

 

1-3-2 投資事業セグメント
2019年に設立した米国に拠点を置く100%子会社Asteria Vision Fund Inc.で実施する企業投資事業。
重点投資対象を「4D」と定義し、投資対象を発掘している。

 

領域

コンセプト

具体的な製品・サービス

Data

データのみが企業IT資産になる

AI、Big dataなど

Device

デバイスが不可欠なインフラになる

IoT、Smart devicesなど

Decentralized

分散して協調ができる「個」の時代になる

Blockchain、DAppsなど

Design

「デザインファースト」の時代に

Design Thinking、DXなど

 

2022年1月末現在、日本、オーストラリア、台湾で各国/地域1社、米国2社の計4社に投資を行っている。ファンド総額は22万USD。

【1-4 特長・強み・競争優位性】

①優れた「先見性」をベースにした製品開発力
同社は「IT業界」の中で、主としてソフトウェアの製品開発に軸足を置いて事業を展開している。
不特定多数のユーザーを対象とした製品開発は、個々のクライアントのニーズに対応したシステムを開発する受託開発と違い、売上規模を拡大しやすい。また初期の開発コストを一定のボリュームを販売することでカバーし損益分岐点を超えれば、その後は「売上≒利益」となるため、粗利率は受託開発に比べて極めて高い。
「ASTERIA Warp」の粗利率は80-90%、Handbookも既に損益分岐点を超えた。Platio、Gravioの2つの新製品は未だ利益貢献には至っていないが、今後の販売拡大・利益貢献を同社では見込んでいる。

 

もちろん、開発した製品が想定通りに販売数量が拡大しない場合のリスクは大きいため、製品開発にあたっての先読み、設計思想が重要になるが、同社の場合、企業内外でデータを「つなぐ」ことの重要性をいち早く「先見」して主力製品「ASTERIA Warp」を開発したように、時代の先を読む優れた「先見性」によって競争力の高い製品を次々と世の中に提供している。

 

 

 

(同社資料より)

 

②独自の企業文化の浸透により構築される強力な人的資本
前述した経営理念に代表される独自の企業文化が全社に浸透し、行動のベースとなっている。
特に、日本企業に見られがちな前例踏襲ではなく、「発想と挑戦 (Challenge for Ideas):自由闊達な発想と挑戦を尊ぶ。時代をリードするイノベーションは新しい発想から生まれる。その実現のために、リスクを取ることを厭わず、常に新たな可能性に挑戦する」ことを最大の評価項目としている。

 

また、前記①とも重複・関連するが、創業時に平野社長は現在のインターネットで全てが「つながる」世の中を「先見」し、「日本発で世界に通用するソフトウェアを発信」するというビジョンをもって、およそ20年間にわたり製品開発に取り組み、ノーコードで製品を開発できるソフトウェア開発力を培ってきた。

 

こうした理念、ビジョンを全社員が共有することで、「ASTERIA Warp」の後も、次々と新たな発想で新製品を世の中に送り出しており、独自の企業文化の浸透により構築されたエンジニアを中心とした強力な人的資本は同社競争優位性の源泉となっている。

 

③高い市場シェア
①、②をベースに開発された同社製品は、その有用性、使い易さなどからユーザーの評価は高く、No.1製品となっている。
2021年時点で、「ASTERIA Warp」は、EAI/ESB製品の国内市場シェア(出荷数量ベース)で15年連続No.1。「Handbook」も、セールス・イネーブルメント・ツール市場の2カテゴリでシェアNo.1となっている。

 

④新技術、ソリューションへの積極的な取り組み
「発想と挑戦」を経営理念のトップに掲げる同社は、新たな技術やそれを活かしたソリューションの普及、製品化、サービス化にも積極的に取り組んでいる。
平野社長は、コンピュータ共通言語XML普及啓発のための団体「XMLコンソーシアム」の副会長を務めていた(2010年3月に活動終了)。現在注力中のブロックチェーンは、2015年に上場企業として初めて取り組みを始め、2016年4月には、平野社長の提唱により、ブロックチェーン技術の幅広い普及推進を行う団体「BCCC(ブロックチェーン推進協会)」が設立され、平野社長は代表理事を務めている。

 

現在注力中のブロックチェーン技術については、2020年12月1日に開催された明治安田生命保険相互会社の「総代報告会」においてアステリアの開発した、ブロックチェーン技術を活用した「出席型バーチャル株主総会ソリューション」を採用した。
明治安田生命が「出席型バーチャル株主総会ソリューション」を採用したポイントは、「新型コロナウイルス感染者の急拡大で12/1開催の総代報告会で3密回避が必須」「バーチャル開催でも投票集計や質問の公正性が担保されるブロックチェーン技術に着目」「最新技術を導入しても、高齢者でも操作が簡単なインターフェース」などである。

 

また、2021年6月26日(土)に開催したアステリアの第23回定時株主総会において、新型コロナウイルスの感染拡大予防対策として、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を実施した。
今回の株主総会は、基盤技術として、企業向けのブロックチェーンとして注目されるQuorum(※)を適用し、バーチャルオンリー株主総会で必須となる動議対応をバーチャル環境から実現した。これにより、株主総会で議決権を有する株主の全ての行為(投票・質問・動議)のバーチャル対応が完了した。
株主は議決権行使書の案内に従ってPC、スマートフォン等のブラウザから簡単に投票ができるほか、企業は株主総会の最中でも投票や質問の受付が可能で、得票数はリアルタイムで瞬時に集計される。また、投票結果はブロックチェーンに記録するので主催者でも投票内容の改ざんができないなど、これまでにはない画期的な株主総会となった。

 

※Quorum
米国JPモルガン・チェース社が開発し、現在米国ConsenSys社が所有するEthereumをベースとしたスマートコントラクトプラットフォーム。金融分野における企業向けブロックチェーンとして開発される。

 

今後は、上場企業を中心とした企業向けサービスとして展開していくとともに、行政さらにはエンターテイメント領域における投票の集計方法や結果に公正性を担保できる仕組みとして拡張する計画である。

 

⑤多様性を重視したガバナンス及び経営体制
世界に通じるものづくりを追求するためには多様性が極めて重要という考えから、社外取締役は多様性(ジェンダー、国籍)を重視した構成となっている。
「コーポレート・ガバナンス」という言葉を耳にすることが珍しかった1998年の創業期から継続的に社外取締役2名以上を選任しており、現在は5名の取締役のうち3名が社外取締役である。
また、経営と執行を分離した体制をとっており、兼務しているのは平野社長・北原副社長の2名のみ。様々な分野に強みを持ち、8名中2名が外国人という執行役員構成で、グローバルな経営体制を構築している。

【1-5 ESG/SDGs】

社会からの信頼や期待に応えるために、顧客、株主、従業員、取引先、地域社会をはじめとするあらゆるステークホルダーと積極的にコミュニケーションを図りながら事業活動を行うことにより、社会の持続的発展への貢献を目指している。

 

以下の基本方針を掲げている。

アステリアは、「繋がる」ことにより価値を創造し、つねにお客様本位であり続けます。

アステリアは、すべての判断に説明可能な理由を持ち、株主の皆様の期待に応えていきます。

アステリアは、個人の多様性、人格、個性を尊重し、従業員のやりがいと誇りを大切にします。

アステリアは、「世界をつなぐ」という目標に向け、取引先と共に発展していきます。

アステリアは、人々の役に立つ価値を生み出すことで社会に貢献します。

 

同社は、2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を社会から求められる重要な課題と捉えている。
世界共通の目標としてSDGsが示されたことで、企業が取り組むべき方向が明確になり、多くの企業が主体的な取り組みを始めており、同社もSDGsを意識した事業活動に取り組んでいる。既に17ゴール中、11ゴールをカバーしており、今後も更に推進する。主な考え方、取り組みは以下の通り。

 

Environment(環境)

 

 

環境保全活動

ビジネスパートナーおよびエンドユーザーとの良好な「エコシステム」を構築していくだけでなく、自然環境における「共存協栄」を実現する「エコシステム」の整備にも注力し、持続可能な社会の構築に貢献していく。この活動を通じて「地球環境・自然」と「社会・産業」との間の「エコシステム」の構築に向けたさまざまな施策を中長期的な視点で展開し、サステナブルな社会の実現を目指す。

 

*ペーパーレスの推進

*Asteria Green Activity(※)

 

 

Social(社会)

 

社会貢献活動

健康で豊かな社会実現とその持続的な発展のため、これからを担う若者の支援などを通し、「社会貢献活動」を展開している。

 

*かものはしプロジェクトの支援

*チャリティマラソンへの参加

*パンゲア(スタートアップ支援)

 

 

働き方に多様性を

さまざまなバックグラウンドを持った人材が継続的に活躍できるよう、多様な働き方を支援する職場環境づくりを積極的に推進している。

 

*ダイバーシティの推進

*テレワーク

*サバティカル休暇/誕生日休暇

*子育て支援

 

 

Governance(ガバナンス)

*コーポレート・ガバナンス

*内部統制システム

*反社会的勢力排除

 

 

 

(※)Asteria Green Activityとは?
2015年に、主力製品である「ASTERIA Warp」導入5,000社突破を記念して開始した持続的な社会・自然環境の構築に貢献する活動(開始当時の名称は「Infoteria Green Activity」)。
現在までに以下のような実績を残している。

 

◎熊本県小国町との地域再生計画
熊本県小国町(おぐにまち)のブランド材「小国杉」の森林保全活動や、間伐材の利用促進、林業・林産業の再生に向けた取り組みを、2015年から行っている。
小国杉を使ったおもちゃやノベルティを製作して社員やユーザー企業に提供するほか、同社オフィスでも小国杉を使用し、木のぬくもりを感じられる暖かい空間を創出している。

 

◎秋田県仙北市との地域再生計画
秋田県仙北市と2016年より産業振興に向けたICT導入促進について提携を行い、ドローンで撮影した映像コンテンツを同社製品「Handbook」を用いて各観光拠点で閲覧できるようにしているほか、タブレットを活用した観光サービスの充実に向けた実証実験などを進めている。

 

◎熊本県小国町と秋田県仙北市への企業版ふるさと納税
同社から提供されるそれぞれ年間100万円を事業資金とした小国町への事業計画「小国杉をもっとずっと使って計画」と、仙北市への事業計画「桜に彩られたまちづくり事業」(桜の保全活動や観光振興活動)は、どちらも「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」の対象事業として内閣府より認定されている。

 

5年間にわたり継続し、企業版ふるさと納税に係る寄附を行い、寄附を契機とし、寄附先の地方公共団体との対話や広報に関する勉強会を重ね新たなパートナーシップを構築。自社の強みを活かして、市職員の体温管理等のアプリを開発し無償で提供するなど、地域に貢献した取組を実施してきたことが評価され、2022年には、内閣府による令和3年度(2021年度)「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞した。

 

◎カーボンオフセットの株主総会を開催
2021年6月に開催した同社のバーチャルハイブリッド形式の定時株主総会で、CO2のオフセットを実施した。
総会が開催される株主総会会場に加え、テレワーク環境から参加する出席役員14名の自宅での電力消費によって排出されるCO2を実質ゼロとした。
このオフセットは、国が運営するJクレジット制度(※)に準じたもので、熊本県小国町などでのCO2吸収量から生まれた森林吸収クレジット1tを一般社団法人 more trees(東京都)から購入して実施した。アステリアでは、 2015年より熊本県小国町と協定を締結し森林保全活動を展開しており、同町の森林がCO2オフセット先に含まれている一般社団法人 more treesを採用した。

 

Jクレジット制度(※):省エネルギー機器の導入や森林経営などの取組による、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。 経済産業省、環境省、農林水産省で共同運営されている。

 

ESGについての主な考え方、取り組みなどは、「2.トップインタビュー」「3.課題・マテリアリティと取り組み」を参照。

【1-6. 価値創造のフロー】

 

 

アステリアは、創業以来の理念・ビジョン・存在意義をベースに、優れた先見性。強力な人的資本を始めとする競争優位性を活かして「つなぐ」ニーズに応えるソフトウェアを次々と開発。社会課題の解決と持続的な成長を目指している。

2.トップインタビュー

●社会的責任、社会的存在意義について

Q.近年、社会全体が持続可能な成長を目指す中で、その重要なプレーヤーの一員である企業の理念、ミッション、社会的存在意義が重視されています。
アステリアの経営理念について、平野社長はどんな想いを込めているのでしょうか?

 

発想と挑戦 (Challenge for Ideas)

自由闊達な発想と挑戦を尊ぶ。時代をリードするイノベーションは新しい発想から生まれる。その実現のために、リスクを取ることを厭わず、常に新たな可能性に挑戦する。

世界的視野 (Global Perspective)

常に世界市場を視野に入れる。世界的に存在価値のある独自性を持った製品やサービスを提供する。

幸せの連鎖 (Chain of Happiness)

幸せを連鎖させる。自ら幸せを感じる誇りある活動を営むことで、お客様の幸せに貢献し、ひいては社会の進歩発展に寄与する。

 

 

 

 

 

3つの経営理念はどれも当社にとって重要な考え方です。

私は全社ミーティングの際はもちろんのこと、入社レクチャーなど、ことあるごとに経営理念について触れていますので、全社員にしっかりと浸透しています。

 

1つ目が「発想と挑戦」。

当社は上場企業ではありますが、常にベンチャー精神を忘れずにいたいのです。「日本発で世界中にソフトウェアを提供する」という創業からのミッションは、まだ道半ばです。常にチャレンジし、大きな成長を目指さなければ、その実現はできませんから、開発だけでなく全ての部門、全ての社員が自由で新しい発想とチャレンジを続けていくことが大切だと考えています。

 

2つ目が「世界的視野」。
創業時から世界を目指していますから、海外担当だけでなく、開発、営業、マーケティング、経理、法務、人事など全ての業務において、全ての社員が世界の標準・レベルを意識した視野を持って仕事に取り組んでいく。これができて初めて世界に発信することができると思っています。

 

3つ目が「幸せの連鎖」。
最近は「Well-being」とも言われ、社員の幸せにフォーカスしようという企業も増えてきました。
私がここに込めた想いは、「まず自らが幸せを感じる仕事をしよう、それができてこそ継続的に幸せを外に届けることができる。その幸せを連鎖させていこう」というものです。
日本ではともすると、「自分は二の次として、世のため人のためにとにかく施しましょう」、滅私奉公のような考えがありますが、これを否定しています。
なぜなら、ビジネスは継続性が最も重要であり、施したのはいいが疲弊してそこで息絶えたら何の意味もありません。継続的に幸せを連鎖させていくには、自らが幸せでいなくてはいけない。自分たちが幸せだからこそ、お客様も、取引先も、ビジネスパートナーも幸せにできる。ひいては社会にも幸せを伝播することができるのです。

 

先程、ことあるごとに社内では経営理念について触れているとお話ししましたが、Slackというコミュニケーションツールでほぼ毎日全社員にメッセージを発信しています。
世の中のちょっとした出来事を素材にして、私の考え方を社員に知ってもらうことで、理念、ビジョンの共有、浸透を図っています。

 

Q:平野社長は以前から、「自律・分散・協調」の実現を追求されています。御社にとってのパーパス、社会的な存在意義とは何でしょうか?

 

「自律・分散・協調」は当社にとっての100年テーマです。

 

アステリアは創業時より、「自律・分散・協調」の時代になると唱え、それを支えるソフトウェアを開発してきました。20世紀までの組織や社会は、階層があり、規律があり、統制されているいわば『階層・規律・統制』の時代でしたが、インターネットが普及することによって21世紀は『自律・分散・協調』の時代・社会になる」と考えています。

 

小さなチームや個人が、何かにぶら下がるのではなく自律している。そして地球上どこにでも分散して存在できている。しかし、必要に応じて協調している。必要な時は繋がるし、必要ない時には切れる。重要なのはこの「必要ない時は切れる」ということなのです。
従来は何か大きいことをやろうとするたびに組織が大きくなっていった。繋がり続けて、切れることはないので組織はどんどん肥大化する。しかし、これだけ社会の変化が激しいと、大きな組織は動きが鈍くなり、変化への対応が難しくなる。PDCAを速く回そうとするが、図体が大き過ぎて、まさに恐竜のように時代に対応できない存在となってしまっている企業がたくさんあります。
ですから、これから求められるのは、大きな組織ではなく、自律している小さなチームをいかにして必要に応じてつなぐかということになります。

 

「自律・分散・協調」の最大の利点は、とにかく動きが速いということです。必要に応じて最小限のチームを、しかもつなぐことで最適なチームを組むことができます。
例えば、ブロックチェーンで何か立ち上げようとした場合、自律・分散・協調型であれば、世界中から最適な専門家を組み入れて、どんどん仕事を進めることができます。自律・分散・協調の仕組みは専門性が高く、小さくスピーディーに良いものが低コストで作り上げることができるのです。
組織が大きく、専門性は高くないが既にあるリソースを使用せざるを得ない大企業=恐竜は敵うわけがありません。

 

この「自律・分散・協調」社会を実現するために、「つなぐ」ことを世の中の仕事においてソフトウェアで推し進めるのが当社のアプローチです。
まず初めにシステムをつなぎ(ASTERIA Warp)、次にモバイルをつなぎ(Handbook)、今はIoT等のデバイスをつなぐGravioや、現場をつなぐPlatioも提供しています。当社自身も、コロナ禍で完全にテレワークとなり、未来の仕事の在り方を自ら実践している状況です。実践の中から様々なアイデアや気付きがあり、今後は更に新たな製品やサービスが磨かれていく事と考えています。

 

アメリカの大きなテクノロジー企業は、規模こそ大きいものの、その動きは「自律・分散・協調」です。一方、日本は依然として動きは鈍く、結果的に失われた30年となり、企業の新陳代謝もほとんど起きていない。
こうした点を、私たちが変えていかなければならない。「自律・分散・協調」こそが、最も求められ、最も価値を生み出す形であると考えています。

 

(同社資料より)

 

我々が開発するソフトウェアによって「つなぐ」ことで「自律・分散・協調型の社会が実現」し、多くの社会課題が解決され、より良い社会が生まれる。これに貢献することこそが我々の社会的な存在意義であると考えています。

●アステリアの競争優位性

Q:御社についてもう少し伺いたいと思います。御社の競争優位性についてお聞かせください。

 

一言で申し上げれば、「コンパクトな組織と強力な人的資本」、これが当社の競争力、競争優位性の源泉です。たった150人足らずで5ヶ国/地域に展開しています。
ご存じのように、IT業界、ソフトウェア業界は変化のスピードが極めて激しい。このスピードに遅れることなく付いていく、それ以上に、先回りして自らビジネスを仕掛けるには、大きな組織のトップの号令だけでは全然間に合いません。
ですので、現場の一人一人が自ら考え、自ら行動に移すことが不可欠です。

 

当社の場合、先程申し上げた経営理念の一つ目「発想と挑戦」が全組織、全社員にしっかりと根付いているため、時代の先を読む、優れた「先見性」や自由な発想力・チャレンジ精神によって、「ASTERIA Warp」が15年連続シェアNo.1であるほか、それに続く、「Handbook」「Platio」「Gravio」など最先端の技術を企業のビジネスに活かす製品を提供し続けることが出来ています。中期経営計画では、この「人的資本」を更に強化していくことで、当社および当社製品の競争力を更に磨き上げていこうと考えています。

 

Q:今お話しいただいた競争優位性とのつながりで、「先見性」や「発想と挑戦」によって、世の中に存在していなかった最先端製品がどのように生み出されてきたのかを、もう少し詳しく教えていただけますか?

 

例えば、「Handbook」は、2009年の発売ですが、開発コンセプトの発想は2005年になります。
2007年の上場に向けて、収益を安定させるためにも「ASTERIA Warp」の1本足打法ではなく、第2、第3の製品が必要だと考え、様々検討した結果、創業時の事業展開説明図でも示していた「モバイル」に進むことにしました。

 

当時、社外や周辺はモバイルをやるならNTTドコモの「i モード」という意見が圧倒的でした。なぜなら、当時は「iモード」全盛時代で、「iモード」対応製品が売りで上場した企業もあったほどだったからです。しかし、私も副社長の北原も「i モード」ではないだろうと判断しました。
理由は明確です。エンジニアリングの観点からは、OSの限界や、画面制御の限界が明らかだったからです。グラフィックはではない文字のみ、OSもマルチタスクではない(同時に複数のアプリケーションを動作できない)「i モード」に未来はないと考えました。
一方で、今使っているノートPC、具体的にはアップルのMac等はどんどん小型化し、ポケットに入るようになるだろうと考え、その方向に向かって研究開発を進めました。

 

2年後の2007年には予想したように、Macの流れを汲むiPhoneが米国で発売され、日本では2008年に発売。アステリアは、2009年に「Handbook」をリリースしました。
2009年頃のiPhoneは、まだ高級な玩具といった感じで捉えられていました。それでも私たちは、これからスマートフォンはビジネスでどんどん使用される、その際、「Handbook」も「つなぐ」価値を大いに発揮すると確信していましたが、周辺での理解は極めて低いものでした。
ところが翌2010年にiPadが登場し、A4サイズの資料が閲覧できるようになると、私たちが以前から言ってきた「文書共有・情報共有」がようやく具体的な形になって理解されるようになり、株式市場も反応します。
1年前には全く理解していなかった方から「いやインフォテリアって前から先見性があると思っていたんだよ」とも言われるなど、評価は180度転換しました。

 

こんなエピソードもあるように、早すぎて理解されないこともあります。
ブロックチェーンも同様です。2015年の当時、上場企業の中でブロックチェーンに言及する企業は1社もなく、当社が最初にブロックチェーンを手掛け、出資も行い、翌年2016年にはブロックチェーン推進協会を立ち上げました。株式市場でもブロックチェーンが急速にテーマとなりました。先んじて製品や技術を手掛けたりするが、リリースしたときは世間ではよく理解できていない、しかし数年後には時代が追い付いてくるというパターンですね。

 

「Platio」も「Gravio」もリリースした時はよく理解されませんでした。
実は、社内でもわからないと言われることがよくあります。
当社では、新しい製品を開発する際、お客様の声を聞かないという方法を採っています。
市場の声を聞かないし、営業の声すら聞かない。開発とプランニングに携わっている人間だけで先を見越して設計をして出荷します。その上で、バージョン2以降はお客様の声を積極的に聴いて製品を磨いていきます。
今でこそ「Gravio」「Platio」も評価されていますが、今のニーズから作っていないバージョン1の販売には営業のメンバーは大変苦労しました。
目の前のニーズから作らずに、将来のニーズに向けて開発、リリースする。その後、バージョン2、バージョン3でお客様の声を元にどんどん磨いていくわけです。これはまさにスティーブ・ジョブズが言っている「何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」ということです。

 

ただ、当社としては突拍子もないことを行っているつもりはありません。
マーケティング用語に、「マーケットイン」「プロダクトアウト」という言葉があります。当社はプロダクトアウトに見えますが、時系列で見ると、「未来のマーケットイン」なんです。一見プロダクトアウトに見える会社、ソニーやアップルも実は、未来のマーケットインもしくは未来のマーケットクリエイトです。
この点も是非皆さんに知っておいていただきたいと思います。

 

Q:未来のマーケットイン、御社を表現するのに非常にぴったりなキーワードですね。製品開発について、もう一つ伺います。御社製品の大きな特長が、『ノーコード』です。何故ノーコードであるのか、その想いは何でしょうか?

 

ノーコードを目指した理由は、私たちが100年テーマとしている「自律・分散・協調」の社会を創造するには、「誰でもつなぐ製品を使うことができる、現場が使うことができる」ことが不可欠だからです。
情報システム部門にお願いしないとつながらないということでは、必要なときにつながることができません。現場でいつでもつながるためには特別な人、エンジニアがいなくてもつながることができる環境を提供する必要がありますから、当社製品は創業以来全てがノーコードです。
私たちはエンジニアとして、コンピュータやソフトウェアの利点を、特別な人の特別なものではなく、世の中の隅々にまで広げたいという強い思いをもっており、それが「自律・分散・協調」の社会・未来に繋がると考えています。

●主要マテリアリティにおける取り組み

Q.それでは、ESGブリッジレポートの主要テーマである、御社のESGについての取り組みを伺います。今回御社では初めて12のマテリアリティを選定しました。(「3.課題・マテリアリティと取り組み」参照)
このうち、御社の持続的成長にとって特に重要なマテリアリティについて社長のお考えを伺いたいと思います。

 

まず最初は、「人的資本」についてです。
基本方針に「アステリアは、個人の多様性、人格、個性を尊重し、従業員のやりがいと誇りを大切にします」と掲げているように、御社は人的資本を極めて重要な経営資源と位置づけています。
改めて、「人的資本強化」が御社の企業価値向上にいかに重要か、またそのためにどのような取り組みを進めているかをお聞かせください。

 

 

当社の3つの事業、ソフトウェア事業、デザイン事業、投資事業は全てクリエイティビティが極めて重要です。

このクリエイティビティは「人」からしか生まれないですので、当社にとって「人的資本の強化」「個々のメンバーの能力開発」はこれまでも、そしてこれからも必須命題です。

 

当社では私たち自身が世界最先端の技術にコミットして、自ら実践していく、つまり道なき道を行くのが基本的な仕事のスタンスです。この過程で、能力が身に付き、強化されていきます。

これは開発についてですが、営業でもマーケティングでも管理でも考え方は一緒です。当社は創業時から世界を目指していますから、開発のみでなく、全ての業務において、全社員が世界の標準・レベルを意識した視野を持って仕事に取り組んでいく。この過程で個々の能力が花開き、磨き上げられていきます。

もちろん、人事が中心になり研修や語学の教育なども行っています。

 

 

 

さらに、もう一つ大切だと考えているのは、クリエイティビティを発揮してもらうための環境創りです。そのためのベースとして経営理念にも掲げているように、発想と挑戦 (Challenge for Ideas)を重視しています。
新人であろうが、経験者であろうが、アイディア、工夫をいかんなく発揮できる、躊躇うことなくチャレンジできる環境創りを意識して、労働環境を始めとした様々な方針を立てたり、工夫をしたりということを重ねています。

 

 

Q:環境創りについてもう少し具体的お話しいただけますか?

 

個々人の評価に関しては当社では「アウトプット評価」と呼んでいる仕組みを使っています。そもそも当社はコア勤務時間の無いスーパーフレックス勤務制度を採用していますから、勤務時間とか定時通りに出社したというようなことではなく、どういうアウトプットが行われたか、これが評価の全てです。
さらに評価においては、失敗をしたとしても大幅な減点とはしません。それによって、チャレンジする、アイデアを出す、工夫をするといったクリエイティビティを発揮しやすい環境を整えています。

 

また物理的な働く環境に関しても、5つの形態のオフィスを用意しており、自身のクリエイティビティを発揮できる、生産性を上げることのできるオフィスを選ぶことができます。
本社はもちろんですが、社員の自宅オフィスにもこの1年半をかけて投資を行い快適性や効率を追求したオフィスに進化しています。さらにレンタルオフィス・シェアオフィスも3社と契約し全国で約300カ所が利用可能ですし、アバターによるバーチャルオフィスも常備し、気軽にコミュニケーションを取ることもできます。
また、リゾートオフィスを使ったワーケーションも先般試してみたところ、環境の良さから生産性の向上も認められましたので、今後は拡大していこうと考えています。
2011年からスタートした当社のテレワークは、当初は災害対策の観点からでしたが、翌年以降は、ウェルビーイングのための働き方の多様化や職場環境創りが主眼となり、今回のコロナ禍でその流れが一気に本格化したという状況です。

 

 

Q:基本方針に「従業員のやりがいと誇りを大切にします」ということも挙げておられますが、こうした、やりがいや働きがいをモチベートするためにどんな事をお考えですか?

 

当社では「べき」よりも「たい」を重視しています。

 

日本の社会や企業では、「○〇すべき」という話が多いと思うのですが、これは自らのアイデアとかモチベーションとは関係なく「こういうことをやりなさい」ということですから、基本的に社員のやりがいを削ぐ方向になると考えています。
そうではなく、やりたいことを大切にして、それをいかに社会や組織のルールやレギュレーションに沿って実現するかということを考えると起点は「〇〇したい」ということです。この「たい」を重視することがやりがいに繋がりますし、そうして認められた仕事に携わることが誇りに繋がります。
ここは、当社は日本企業とは大きく異なっている点であると考えています。

 

 

Q.続いて環境課題について伺います。御社のウェブサイトでは「環境のエコシステム」と「ITのエコシステム」に言及されています。改めてご説明いただけますか?

 

まず私たち事業そのもののエコシステムとは、アステリアのみではなく、ビジネスパートナー、お客様、当社のビジネスの関わる全ての方がハッピーになるようなサイクル、その起点となろうという考え方です。
全てをアステリアが担うのではなく、ビジネスパートナーに仲間になっていただき、価値を共有し、どんなことを付加していけばお客様のためになるのかを議論する。お客様もユーザーグループに入っていただき、お客様の声を製品に反映させていく。こういうサイクルを意識的に作り出しています。

 

同様に、環境についても当社が起点となってサイクルを創り出し、地球環境や社会環境への貢献を目指しています。
当初は製品自身による貢献、例えばASTERIA Warpで生産の最適化のプログラムが構築できれば廃棄量削減につながったり、 Handbookでペーパーレスにつながったりといったことからスタートしたのですが、2015年頃から更に進めて、森林の保全や、地域自治体と連携した環境の保全などにも活動領域を拡大し、私たちの事業と地球環境保全、この二つが連携するサイクルを作り出しています。

 

 

Q:環境課題への対応という点では、どのように事業機会の創出に繋げているのでしょうか?

 

当初は単純な社会貢献でしたが、森を保全するだけではなく、例えば保全で発生する間伐材を使用したグッズを制作し販売促進に活用しています。私が今着けているSDGsバッジは杉の間伐材でできています。
森林保全は熊本県の小国町でスタートしたのですが、やはり地方の小さな自治体ですから、デジタルに詳しい人材がおらず、いろいろとアドバイスが必要とのことでしたので、提携を結び支援を始めました。
当社製品Handbookを使って災害の記録をされたり、同じく当社製品Platioを使ってコロナ対策のアプリを作られたり、選挙の投票用のアプリを作られたりと、当社製品が自治体運営の最新化、デジタル、効率化に貢献しています。
日本国内に地方自治体は1,700以上ありますが、3,500以上ある上場企業の半分でも取り組めば全ての自治体をカバーできます。私たちがカバーできる地方はすくないですが、デジタル化におけるモデル例を創り、日本の課題である地方創生に貢献していきたいと考えています。

 

 

Q.続いて御社の競争力強化に向けた取り組み・イノベーションについてお聞かせください。

 

最初の質問と関係しますが、人的資本の強化が競争優位性の強化に繋がると考えています。
その中でも、1つは、BtoC的な感覚と戦略を持ったマーケティング力の強化が大変重要です。
当社製品は現在でも高い競争力を有しています。特にBtoB領域で強みを持っていますが、企業向けソフトウェアのコンシューマー化が益々進むと見ています。なぜかというと、企業向けソフトも、企業内のスペシャリストがいる情報システム部門が社内で構築するのではなく、クラウドサービスやアプリといったものを現場がどんどん利用するケースが急速に拡大しています。現場の決してソフトウェアに詳しくない人でも使いこなすことができるようなコンシューマー化が進んでいきますから、BtoC的な感覚を持ったマーケティング力を強化することが必須になってきます。開発も営業もマーケティングもその観点から人的資本強化を進めていきます。

 

もう1つは海外展開の強化です。
当社は日本では高い競争力がありますが、「自律・分散・協調型の新社会を創るサービス」を世界規模で提供することを目指しています。現在基本的にソフトウェア事業は国内人材、デザイン事業と投資事業は海外人材が担っていますから、欧米人材を中心としたソフトウェア事業の強化、国内人材によるデザイン事業・投資事業の強化を進めていきます。

 

海外の優秀な人材を確保するには、当社が世界レベルで価値を認められるプロダクトやサービスをリリースすることが必要です。現在Gravioに関しては、テキサス、シンガポール、香港、ロンドンに4名のメンバーがおり、21年4月から情報発信やプロモーションを開始しました。
これを起点に、海外の優秀な開発・マーケ等の人材を採用・確保していきたいと考えています。

 

 

Q:先行製品のASTERIA WarpやHandbookの海外展開はいかがなのでしょうか?

 

日本で販売を開始して、ASTERIA Warpは20年、Handbookは13年経ちます。日本市場のユーザーには非常に高くご評価いただくベストセラーとなっていますが、買収したThis Placeの調査により、現在のデザインでは海外では受け入れられにくいということが分かっています。
日本の大手ネット通販サイトやポータルサイトを見ていただくとお分かりかと思いますし、政府や官庁のプレゼン資料などもそうなのですが、日本では1つの画面にできる限り多くの情報を詰め込むデザインが受け入れられる。海外は反対に、いかにシンプルにスマートにするかが重要です。
ASTERIA WarpもHandbookも、日本的なデザインなので、2017年に英国のデザイン企業であるThis Place社を買収し、グローバルで評価されるデザインを志向していくこととしました。
その第一弾が、Gravioです。
ASTERIA WarpとHandbookは既に大勢のユーザーがいらっしゃいますので、ユーザーインターフェースを現時点で劇的に変更することは、難しい。
まずは新製品であるGravioでグローバル対応を進め、ASTERIA WarpやHandbookは次世代へのジャンプアップ時での転換を考えています。

●「中期経営計画STAR」

Q.次に、現在進行中の「中期経営計画STAR」について伺います。社長が特に重要と考えている点についてお話しいただけますか?

 

この3年間は、誰でも作れる「ノーコード」、いつでもどこでも使える「モバイル」、安心・安全な「エッジ」を製品としての注力領域とし、新技術のブロックチェーン、AIなどについて研究開発を行っています。

 

中期経営計画の名称であるSTARは、重点4項目の頭文字です。
Sustainable: 持続可能な社会構築に貢献する事業を遂行すること
Top-line: 価値創出・提供の結果として売上増大を狙うこと
Acquisition: 企業買収・事業買収を通じて成長のスピードを獲得すること
Refine: 既存の製品・サービスに磨きをかけて新時代を先取りすること

 

*Sustainable(サステナブル)
サステナブルの重要性は改めて私たちが言及しなくても現在では皆さんが理解されていると思いますが、ここに掲げた意味は、私たちの事業活動にサステナブルを組み込んでいくということです。以前からCSR、SDGsに取り組んでいますが、今回は経営計画として1つ1つの事業の中でこのサステナビリティーを組み込んでいくという意味です。

 

*Top-line(トップライン)
サステナブルを実現していくためには成長が不可欠です。成長とは私たちが社会に生み出す価値が増加している証拠でもありますから、トップライン(売上)を、しっかり伸ばしていきます。単に数字を伸ばすのが目的ではなく、価値創造のリターンであるという意味合いを込めています。

 

*Acquisition(アクイジション)
これは創業理念にも書いていますが、自前主義に陥らないということです。日本の企業はすぐに自社内でやりたがるんですが、これではスピードが遅くなります。スピードを獲得するために仲間をどんどん増やしていく。技術も買っていきますし、メンバーも仲間もどんどん組み入れていく、これがアクイジションです。世界市場で勝負できるスピードをつけていきます。

 

*Refine(リファイン)
私たちは新しい価値創造を追求していきますが、既に私たちが持っている製品・サービス・自分たちのスキルをさらに磨きをかけていくという意味です。
今期より、事業報告のカテゴリを「ソフトウェア事業」「「デザイン事業」「投資事業」の3本柱としました。
特に大きなポイントは2019年に開始した投資事業です。これまではどのぐらいの規模となるか不明確であったので、その他のような位置としていたのですが、前期からはしっかりと成果が出始めています。今期以降も十分期待できると見ていますので、しっかりと報告する項目としました。

 

中期経営計画では2024年3月期、売上高45億円(21年3月期26.9億円)、調整後EBITDA10億円(同6.2億円)を目標としています。それぞれ伸び率は60%以上の増加と非常にチャレンジングな数字となっていますが、今期は仕込みの時期で、来期に仕切り、最終24年3月期に仕上げに入ります。

 

当社は、新たな発想で全く新たな製品を世の中に出していきますので、新製品「Platio」「Gravio」に関しては、現在自らマーケットを創り出しているところです。商品カテゴリを認知していただき、マーケットを確立しトップシェアを握るという戦略です。
両製品とも急成長中です。
現時点では「ASTERIA Warp」と「Handbook」で稼ぎ、「Platio」「Gravio」に投資するというモードですが、中期経営計画が終了するころには両製品とも利益に貢献し、更に次の新製品への投資を行うというフェーズになっているものと考えています。

 

●ESGにおける課題・さらなる取り組み

Q. ESGについて、これから必要な取り組みはどんな点と認識されていますか?

 

まずE(環境)ですが、これまで緑の豊かさへの貢献を進めています。また、ITは元々CO2の排出が極めて少ないですが、当社の事業活動におけるCO2排出削減について進めていきたいと考えています。

 

2015年からは熊本県小国町の小国杉の5,000本の杉を保全しています。これは、現在までの6年間で264トン(※)のCO2削減に相当します。また、2016年からは秋田県仙北市の通称千本桜の保全を行っています。※算出方法:林野庁による杉の二酸化炭素吸収量
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/20141113_topics2_2.html

 

また、昨年は当社の定時株主総会においいてカーボンニュートラルを実現させましたが、今後は他のイベントや日常的なオフィス運営においてもカーボンニュートラルにむけて積極的に取り組んでいきます。

 

さらに、現在ほとんどリモートワークとなっており、通勤など移動に伴うエネルギー消費低減やCO2排出削減を更に大きく進める余地は小さくなっていますので、ソフトウェア事業においてお使いいただく多くの企業や団体などで、モバイル化、自動化、遠隔化を通じて環境課題の解決に貢献することを意識して、機能の向上や新製品の開発に取り組んでいきたいと考えています。

 

今年4月の東証の市場再編にあたってはプライム市場を選択しました。気候変動に対する企業の責任は十分認識しています。ソフトウェア開発において発生するCO2は限られていますが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応も進めます。

 

次はS(社会)です。私たちは創業時から日本のソフトウェアを有力な輸出産業にしたいとの想いを抱いています。ただ、日本のソフトウェア産業はまだまだ受託開発が圧倒的な主流です。
これを、当社の強みである優れた「先見性」をベースにした製品開発力によって進化し、日本をリードするようなソフトウェアを開発することで日本の国力や豊かさを向上させていきたいと考えています。そのためには先ほどお話しした、人的資本の強化が極めて重要です。

 

G(ガバナンス)については、かなり先進的な企業であると考えています。
創業時から社外取締役を2名選任しており、5年前からは過半数としています。一方で子会社のガバナンスにはまだ向上の余地があると認識しています。これは子会社のガバナンスが不十分という意味ではなく、本社側の課題で、英語によるコミュニケーション能力を向上させる、システム連携によって子会社の状況を即時に把握するなど、本社側の体制を、コミュニケーションを中心に向上させることで結果的にグループガバナンスを向上させたいと考えています。

●ステークホルダーへのメッセージ

Q.様々なお考えをお聞かせいただきありがとうございました。最後にステークホルダーへのメッセージをお願いいたします。

 

当社は、独自のソフトウェアの開発を通じて、従来の「階層・規律・統制」という社会から、100年のテーマである「自律・分散・協調」の社会への変革にチャレンジしています。
この変革自体が、この社会に生きる人一人もしくはチームの個性を尊重することに繋がりますから、多くの人々の幸せに通じると考えています。
もちろん変革は一朝一夕に完遂できることではありませんが、私たちの社会は間違いなくこの方向に進んでいきます。私たちは今後も長期的視点に基づいた製品やサービスを開発、提供することで、「つなぐ」価値を高め、「自律・分散・協調」への変革を進め、お客様、ビジネスパートナー、社員、社会、全ての人々の個々の価値観や特性を活かしながら幸せを享受できる社会を実現して参ります。是非、私たちの理念、ビジョンをご理解いただき、目指したい社会を一緒に創り上げていきたいと強く願っています。

 

3.課題・マテリアリティと取り組み

アステリアが現状認識している課題・マテリアリティは以下のとおりである。
マテリアリティの選定に際しては、社外へのヒアリングも行っている。

 

課題

マテリアリティ

環境

温室効果ガス排出削減

エネルギー管理

社会資本

顧客のプライバシーとデータ保護

地域社会の活性化

社会貢献

人的資本

社員の働き甲斐醸成

社員の健康と安全

教育・育成制度

社員の多様性・参画

ビジネスモデル&イノベーション

競争力強化に向けた取り組み・イノベーション

バリューチェーンマネジメント

リスク管理・ガバナンス

コーポレートガバナンス体制の拡充

コンプライアンス、リスク管理(事故、法令)

*SASB Materiality Mapなどを参考に作成。

 

【3‐1 「環境」課題におけるマテリアリティ】

ビジネスパートナーおよびエンドユーザーとの良好な「エコシステム」を構築していくだけでなく、自然環境における「共存協栄」を実現する「エコシステム」の整備にも注力し、持続可能な社会の構築に貢献していく。この活動を通じて「地球環境・自然」と「社会・産業」との間の「エコシステム」の構築に向けたさまざまな施策を中長期的な視点で展開し、サステナブルな社会の実現を目指している。

 

マテリアリティ(1)「温室効果ガス排出削減」およびマテリアリティ(2)「エネルギー管理」
具体的に以下のような取り組みを行っている。

 

①ペーパーレスの推進
同社製品である「Handbook」やタブレット等の活用により、取締役会議を含めた全ての社内会議資料の印刷を全廃し、温室効果ガスの削減に貢献している。
「Handbook」の販売は、同社の売上・利益拡大という事業機会の創出とともに、ユーザー企業のペーパーレス化も推進し、環境課題の解決に結びついている。

 

②Asteria Green Activity
「会社概要」で触れたように、持続的な社会・自然環境の構築に貢献する活動「Asteria Green Activity」に取り組んでいる。

 

◎熊本県小国町との地域再生計画
熊本県小国町(おぐにまち)のブランド材「小国杉」の森林保全活動や、間伐材の利用促進、林業・林産業の再生に向けた取り組みを、2015年から行っている。
小国杉を使ったおもちゃやノベルティを製作して社員やユーザー企業に提供するほか、同社オフィスでも小国杉を使用し、木のぬくもりを感じられる暖かい空間を創出している。

 

◎カーボンオフセットの株主総会を開催
2021年6月に開催した同社のバーチャルハイブリッド形式の定時株主総会で、CO2のオフセットを実施した。
総会が開催される株主総会会場に加え、テレワーク環境から参加する出席役員14名の自宅での電力消費によって排出されるCO 2を実質ゼロとした。
このオフセットは、国が運営するJクレジット制度(※)に準じたもので、熊本県小国町などでのCO2吸収量から生まれた森林吸収クレジット1tを一般社団法人 more trees(東京都)から購入して実施した。

 

Jクレジット制度(※):省エネルギー機器の導入や森林経営などの取組による、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。 経済産業省、環境省、農林水産省で共同運営されている。

 

【3‐2 「社会資本」課題におけるマテリアリティ】

マテリアリティ(1)プライバシーおよびデータ保護
◎個人情報保護・データ保護
「アステリア製品共通利用規約」を設けており、「顧客データについての顧客の保有する著作権その他の権利保護」「顧客データの漏洩対策などの適切な管理の実施」「顧客の同意がある場合や法令により強制される場合を除いた、顧客データへのアクセスや顧客データの非開示」などを明示している。

 

また、「プライバシーポリシー」を定め、個人情報保護法の規定に従い、同社との取引等に伴い同社が入手する個人情報の入手目的、取り扱い等について説明している。

 

マテリアリティ(2)地域社会の活性化
「Asteria Green Activity」として以下のような活動を行っており、地域社会の活性化を目指している。

 

◎秋田県仙北市との地域再生計画
秋田県仙北市と2016年度より産業振興に向けたICT導入促進について提携を行い、ドローンで撮影した映像コンテンツを同社製品「Handbook」を用いて各観光拠点で閲覧できるようにしているほか、タブレットを活用した観光サービスの充実に向けた実証実験などを進めている。

 

◎熊本県小国町と秋田県仙北市への企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)
同社から提供されるそれぞれ年間100万円を事業資金とした小国町への事業計画「小国杉をもっとずっと使って計画」と、仙北市への事業計画「桜に彩られたまちづくり事業」(桜の保全活動や観光振興活動)は、どちらも「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」の対象事業として内閣府より認定されている。

 

マテリアリティ(3)社会貢献
健康で豊かな社会実現とその持続的な発展のため、これからを担う若者の支援などを通し、「社会貢献活動」を展開している。

 

◎かものはしプロジェクトの支援南アジアでの少女の性的人身売買問題撲滅のために活動をしているNPO「かものはしプロジェクト」を支援している。事業と同様、社会貢献活動支援についても、自分達で考え、自分達で共感し賛同できる活動にフォーカスしている。

 

◎チャリティマラソンへの参加IT業界における「社会的に立場の弱い未就労者」の社会復帰を目的に毎年「NIPPON IT チャリティ駅伝」が開催されている。同社も社会的責任のある立場から、毎年プラチナスポンサーとして社員の参加を募って毎年2~3チーム参加し、「駅伝」を通じて、未来を担う若者を支える活動に取り組んでいる。

【3‐3 「人的資本」課題におけるマテリアリティ】

さまざまなバックグラウンドを持った人材が継続的に活躍できるよう、多様な働き方を支援する職場環境づくりを積極的に推し進めている。

 

マテリアリティ(1)従業員の意識・働き甲斐醸成
◎アウトプット評価
個々人の評価に関して近年「ジョブ型評価」を耳にする機会が増えているが、同社では以前より「アウトプット評価」を導入・定着させている。
勤務時間ではなく個々の業務のアウトプットを集計し評価することが生産性の大幅な向上に繋がっている。
また、仮に失敗をした場合でも、大きな減点とはせず、次のチャレンジ、アイデア創出に繋げられるような、創造性を発揮しやすい環境を整えている。

 

◎テレワーク
災害時に社員の安全を確保しつつ事業継続もできるよう、ノートPC・タブレットや通信などのテレワークに必要な環境を全社員に用意している。
各自の事情で日頃からテレワークを利用が可能。また、猛暑・台風・大雪などの際にも、在宅勤務が推奨されるなど、全社で積極的にテレワークを活用している。
2011年からスタートした同社のテレワークは、上記のような災害対策の観点から導入したものであるが、その後、ウェルビーイングのための職場環境創りが主眼となり、今回のコロナ禍でその流れが一気に本格化。同社の生産性向上に大きく寄与している。

 

*「必要な時に必要な人が集う場所」という新たな概念の本社を新設(21年10月)
昨年から実施している全社テレワーク(2020年4月〜2021年3月実施率90%以上)において、社員の生産性が大きく向上していることから、コロナ禍が収まった後も全社テレワークを継続する。そのため、新たな本社となる「センターオフィス」はコロナ以前に比べてスペースを1/4に削減。新オフィスは「湖畔の別荘」をコンセプトとし、木材やグリーンをふんだんに使った快適かつ機能的な内装となっている。
全社テレワークが定着していることから、センターオフィスは平日でも無人になる可能性もあるため、同社のAI搭載IoT統合エッジウェア「Gravio」を用いてセンサーを多数導入し、人の出入りやオフィス内のCO2濃度を常時監視する。また、木材については熊本県小国町産「小国杉」の間伐材約100本を使ったオフィスの内装・什器を採用するとともに、消費する電力は小国杉によってカーボンオフセットすることで脱炭素の推進も図る。

 

*猛暑テレワーク
夏の猛暑日に対しては、気象庁が早朝に発表する予想最高気温が35度以上の場合に、猛暑日の予報を、自社ソフトを使って自動で社員のスマートフォンに通知。その日のテレワークの実施を促している。
猛暑日予報通知サービスは、毎年社外にも公開し、猛暑テレワークの普及拡大を推進している。

 

*ふるさと帰省テレワーク
年末等の大型連休時には、海外を含めた帰省先でのテレワークも可能。規定の休日より前に、もしくは後にずらして移動することで、切符手配の煩雑さや交通混雑などを回避できる。

 

マテリアリティ(2)従業員の健康と安全
◎サバティカル休暇/誕生日休暇
ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を目的とし、通算の勤務年数が6年以上の従業員に対して1ヶ月の長期休暇制度(サバティカル休暇)を導入している。毎年数名が取得し、リフレッシュのほか、資格取得、短期留学、ボランティアに参加するなどの自己啓発のために制度を活用している。また社員は毎年誕生日(もしくはその前後15日)には休暇(誕生日休暇)を取得できる。

 

◎子育て支援
子育て社員それぞれの生活スタイルに合わせ、安心して働ける環境を整えるため、制度として一様に定めるのではなく、短時間勤務や在宅勤務、子の看護休暇など、社員それぞれに配慮した働き方を、会社のルールや法的な観点などを踏まえた上でサポートしている。創業から現在まで、育児休暇取得者の復職率は100%。

 

マテリアリティ(3)教育・育成制度
◎新卒社員の育成
一般的なビジネスマナー・ビジネススキルについての集合研修を受講するほか、社内研修では同社製品の理解、一部プログラミングなどITの基礎等を学ぶ。その他、対人折衝力、営業提案力、プレゼンテーションなどに関する課題型の研修を実施。5月中旬から配属となる。課題研修については、新卒社員の習得度合いや個々の適性に合わせて見ながら、内容を柔軟に変更する点は同社独自の研修スタイルである。

 

◎今後の社員教育
「研修」というよりも「学び」の場というテーマを設定し、トレーニングではなく新たな知見や知識の獲得を意図している。「学び」をオンラインで複数人が共有することによる横軸でのコミュニケーション創成や、ベテラン社員による自身のスキルの伝達などを検討している。

 

◎開発人材の育成
同社の開発人材は入社時点で一定の技術力をクリアしている。そうした開発人材が更に成長するために最も必要なことは、新たに自らが身に付けたいと考える技術やスキルに貪欲に挑戦することができる環境創りであると経営は考えており、技術系のセミナーや習得に掛かる費用の補助などを行っている。

 

◎外国籍社員への日本語教育
日本での社会活動に必要なコミュニケーションを習得してもらうことが目的で、マンツーマン方式の日本語教育を実施している。外国籍社員の日本語習熟度や興味・関心に合わせてリスニングや読み書き学習を組み合わせたカリキュラム。

 

マテリアリティ(4)従業員の多様性・参画
◎ダイバーシティの推進
性的マイノリティ(LGBT)、外国籍、障がい者の雇用創出に向けた活動を通じて多様な価値観を尊重する社会の実現を目指している。創業当初から採用や昇進において、性別、国籍、人種、宗教、思想などにとらわれない姿勢を貫き、社員が働きやすい環境づくりに努めている。
2017年には英Economist主催によるダイバーシティの推進を考える国際フォーラム「PRIDE AND PREJUDICE」(香港開催)に、同社代表の平野 洋一郎氏が登壇。各国でLGBTに積極的に取り組んでいる企業から、トップとしてダイバーシティ、特にLGBTにどう取り組むのかを議論するセッションで、その年の開催では日本からの唯一の登壇者であった。

 

【3‐4 「ビジネスモデル&イノベーション」課題におけるマテリアリティ】

マテリアリティ(1)競争力強化に向けた取り組み・イノベーション
人的資本の強化がもっと重要であると考えている。
人的資本強化を通じて、企業向けソフトウェアにおけるコンシューマー化の流れに対応し、BtoC的な感覚を持ったマーケティング力の強化を図るほか、「自律・分散・協調型の新社会を創るサービスを世界規模で提供する」ことを目指し、欧米人材を中心としたソフトウェア事業の強化を進める。
海外の優秀な人材を確保するには、自社製品をリスペクトしファンになってくれるようなプロダクトサービスをリリースすることが必要であるため、現在Gravioに関しては、テキサス、シンガポール、香港、ロンドンに4名のメンバーがおり、21年4月から情報発信やプロモーションを開始した。これを起点に、海外の優秀な開発スタッフを採用・確保していく。

 

人的資本強化には、働く環境創りも重要な要素と考えている。
「アウトプット評価」「挑戦を尊重する企業風土」のほか、物理的な環境に関しても、5つの形態のオフィスを用意し、自身のクリエイティビティを発揮し、生産性を上げるためのオフィスを選ぶことができる。
本社はもちろん、自宅もセキュリティや効率を追求したオフィスに進化している。さらにレンタルオフィス・シェアオフィスも3社と契約し全国で約300カ所が利用可能。アバターによるバーチャルオフィスも常備し、気軽にコミュニケーションを取ることもできる。
また、リゾートオフィスを使ったワーケーションも、環境の良さから生産性の向上を認めることができたため、今後の拡大を計画している。

 

マテリアリティ(2)バリューチェーンマネジメント
同社では、自社のみではなく顧客、ビジネスパートナーなど同社ビジネスに関わる全てのプレーヤーがメリットを享受することができるサイクル「エコシステム」を形成し、その起点となろうと考えている。全てをアステリアが担うのではなく、ビジネスパートナーとともに価値を共有し、顧客のために何を提供できるかを常に追求している。
以下のパートナーシップを通じて、それぞれの分野のプロフェッショナルな企業とともに強力に顧客のシステム開発およびビジネス展開の成功を支援している。

 

名称

概要

社数

ASTERIAマスターパートナー

ASTERIA Warpのシステム構築と販売

28社

ASTERIAサブスクリプションパートナー

ASTERIA Warp Coreのシステム構築と販売

62社

ASTERIAテクニカルパートナー

ASTERIA Warpベースのシステム開発と構築

15社

 

上記のパートナー以外にも、「アダプター開発プログラム」があり、同プログラムに参加する企業は、ASTERIA Warpオリジナルのアダプターを開発・販売することができ、現在28種類(2月21日時点)の対応アダプターが提供されている。これにより自社だけでは対応できない顧客ニーズの多様化に対応すると共にパートナーのビジネス拡大を支援している。

 

また、ASTERIA Warpユーザー同士の交流の場である「ASTERIA Warpユーザーグループ(AUG)」を運営している。
交流会では当日の司会や運営もユーザー企業社員が行い、ユーザー同士が自社における活用事例の紹介など、積極的な情報交換を行っている。
また、コミュニケーションツールSlackを用いたASTERIA Warpデベロッパー・コミュニティ「ASTERIA Warp Developer Network Slack」には1,000名超のユーザーが参加しており、ユーザーの質問にユーザーが回答するなど、有機的なコミュニティーが形成されている。
アステリアは、そうしたユーザーの声、要望を製品に反映させてより付加価値の高い製品を顧客に提供することを目指している。

【3‐5 「リスク管理・ガバナンス」課題におけるマテリアリティ】

マテリアリティ(1)
コーポレートガバナンス体制の拡充
「会社概要」で触れたように、世界に通じるものづくりを追求するためには多様性が極めて重要という考えから、社外取締役は多様性(ジェンダー、国籍)を重視した構成となっている。
1998年の創業期から継続的に社外取締役2名以上を選任しており、現在は5名の取締役のうち3名が社外取締役である。
また、経営と執行を分離した体制をとっており、執行役員を兼務しているのは平野社長・北原副社長の2名のみ。様々な分野に強みを持ち、8名中2名が外国人という執行役員構成で、グローバルな経営体制を構築している。

 

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

5名、うち社外3名

監査役

3名、うち社外3名

 

取締役会の任意諮問機関として社外取締役を委員長とし、委員総数の過半数を社外役員で構成する指名・報酬諮問委員会を設置している。

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2021年12月10日

 

<基本的な考え方>
当社は、継続的な事業成長を通じて株主、お客様、従業員等の関係者をはじめ、広く社会に貢献する企業となることを経営目標としております。 このため、透明性及び健全性の高い企業経営を目指し、会社創立時から社外取締役の招聘等によりコーポレート・ガバナンスの強化に取り組むとともに、役員・従業員へのコンプライアンスの徹底を経営の基本原則として位置づけ、法令やルールを厳格に遵守し、社会的規範にもとることのない誠実かつ公正な企業活動を遂行することを基本方針としております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、コーポレートガバナンス・コードの各原則について全てを実施しております。

 

<各原則に基づく主な開示>

原則

開示内容

【原則1-4. 政策保有株式】

当社は業務提携、取引先との安定的・長期的な取引関係維持・強化の観点から、当社の中長期的な企業価値の向上に資すると判断される場合に、株式の政策保有を行い、企図した効果が見込めないと判断した場合には政策保有株式を縮減する方針です。当社が保有する政策保有株式について、上記の観点及びリターンとリスクも踏まえ、政策保有株式を保有することが当社の中長期的な企業価値の向上に資するかどうか定期的 に取締役会において検証いたします。

政策保有株式の議決権については、投資先企業の中長期的な企業価値向上の観点、社会的要請に合致するかの観点から、その行使について判断いたします。

【補充原則3-1-3.サステナビリティに関する開示】

当社のサステナビリティについての取組は、当社ウェブサイトに記載しております。

https://www.asteria.com/jp/company/csr/

【補充原則4-11-1.取締役会の知識、経験、能力のバランス、多様性及び規模に関する考え】

当社では、定款で取締役員数を8名以内としており、取締役会は、国籍、性別、年齢などにかかわらず、取締役に最適と思われる人材を取締役候補者として選定する方針を採っております。現在は、情報技術、企業経営、企業投資、金融に関する豊富な知識と経験を備えた5名が取締役を務めております。当社では、取締役および執行役員のスキル・マトリックスを作成し、役員選任議案の参考として株主総会招集通知に記載しております。

https://www.asteria.com/jp/wp-content/files_mf/1623227514ipr210609_01.pdf

取締役5名のうち1名が女性、1名が外国籍、3名が東京証券取引所の定める独立社外取締役の要件を満たしており、取締役会における活発な議論が可能となっております。

原則5-1 【株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、持続的な成長と中期的な企業価値向上のためには、株主と積極的な対話を行うことが重要であると認識しております。そのため、IR体制を整備し、当社の経営戦略や経営状況に対する理解を得るため、株主との対話の場である個人投資家向け説明会に社長が出席しわかりやすく説明しております。

株主との対話の対応は、広報・IR部にて行い、株主から個別の要望がある場合には、合理的な範囲で代表取締役及び執行役員が面談に対応しております。対話において把握された株主の意見等については、経営判断に役立てるべく取締役会に報告しております。

対話に際してのインサイダー情報の管理に関する方策としては、「インサイダー取引防止規程」を定めインサイダー情報を管理しており、特定の株主にインサイダー情報を伝達しないよう情報管理を徹底しております。

 

 

◎IR活動
一般社団法人日本IR協議会が主催する、IR活動において優れた成果を挙げた企業を表彰する賞である「IR優良企業賞 2021」
において「IR優良企業奨励賞」を初めて受賞した。

 

*主な選定理由
「経営トップの発信力が高く、メッセージ性のあるIR活動を実行している。経営トップの説明はIT業界全般を踏まえたもので、わかりやすいと評価を得ている。ブロックチェーンに関する勉強会も開催しており、トップがブロックチェーン推進協会の理事長も務めていることもあって注目度が高い。IR部門も工夫して開示に努め、事業説明が分かりやすいと評価されている。昨年度からは、海外機関投資家の開拓にも注力している」

 

*同社のIR活動の特長・概要
事業への理解を促進するために、ステークホルダーに向けた積極的な情報発信を上場以来続けている。毎四半期の決算発表 当日には社長による決算説明会の生配信を実施、個人投資家向け説明会では投資家、YouTuberや経済アナリストとの対談 を企画するなど、専門性の高いアステリアの事業内容を分かりやすく解説するIRコンテンツを多数配信してきた。近年は、SPAC、NFT、ブロックチェーンなど注目度が高まるテーマについて、機関投資家向けの勉強会をタイムリーに開催し、知見を共有してきた。
また、株主総会では新たなステークホルダーとのコミュニケーションのあり方として、ブロックチェーン技術による議決権行使システムを用いた「ハイブリット出席型バーチャル株主総会」を業界に先駆けて2017年から試行を開始した。この手法は、コロナ禍でオンライン環境が重要視されるなかで注目を集め、2021年には「バーチャルオンリー株主総会」を実施した。ブロックチェーンを用いることで 総会主催者でも投票結果を改ざんすることができず、透明性の高い仕組みを提供した。

 

マテリアリティ(2)
コンプライアンス、リスク管理(事故、法令)
以下のような各種規定、委員会を設置し、リスク管理、コンプライアンス体制や内部統制システムの整備、維持、向上に努めている。

規程

目的、体制など

内部統制基本規程

「内部統制システムに関する基本的な考え方」の「財務報告の信頼性を確保するための体制」に基づき、内部統制の整備・運用及び評価における全社的な管理体制、人員及びその編成等を定め、財務報告に係る内部統制の有効かつ効率的な整備・運用及び評価を行うことを目的とする。

コンプライアンス規程

当社の会社経営におけるコンプライアンス(法律を遵守すること)の取り扱いを定めることを目的とする。

また、コンプライアンスへの関心を高め、コンプライアンスについての正しい知識を付与するため研修会を開催している。

リスクマネジメント委員会規程

当社の連結グループの経営に重大な影響を及ぼすリスクに関する重要な事項に関する審議・決議・報告機関としてリスクマネジメント委員会を設置している。

贈収賄防止規程

当社の事業活動に関連して、国内外において贈賄および収賄が行われることがないよう、当社における贈収賄防止体制ならびに役員等および従業員等が遵守すべき基本的事項を定めることを目的とする。

役員等および従業員等による贈収賄の防止のため、必要な規定や細則の整備・運用、研修の実施などを行うものとしている。

インサイダー取引防止規程

証券取引の公正性と健全性に貢献し、証券市場における当社の信頼を確保するため、当社の役員及び従業員が業務上取得した内部情報の管理および株式等の売買その他の有償の譲渡、譲受け等金商法第166条1項で定める売買等に際し遵守すべき基本的事項を定め、適時開示の推進および内部者取引の未然防止を図ることを目的とする。

災害対策/BCP ガイドライン

当社における「危機」への対応に関する組織、企業活動等について定め、人命尊重を最優先とすることで、来訪者ならびに社員(正社員、契約社員、派遣社員を含む)の生命の保護、損害の極小化ならびにできる限り早期の業務復旧を達成するために、適正・迅速な対応を行なうことを目的とする。

情報システム運用管理規程

当社の情報システムの安全かつ合理的な運用を図り、併せて、法令に基づき保存が義務づけられている情報の電子媒体による運用の適正な管理を図るために、必要な事項を規定している。

 

4.「中期経営計画STAR」

2021年6月、21年4月から24年3月までの3か年を期間とする「中期経営計画 STAR」を公表した。

(1)ビジョン

創業ビジョンである「組織を超えるコンピューティングを実現するソフトウェアを開発し、世界規模で提供する」を踏まえ、中計期間の経営ビジョンを「自律・分散・協調型の新社会を創るサービスを世界規模で提供する」とした。

 

(「中期経営計画名STAR」について)
計画期間における重点項目の頭文字をとって「STAR」と名付けている。

Sustainable

持続可能な社会構築に貢献する事業を遂行すること

Top-line

価値創出・提供の結果として売上増大を狙うこと

Acquisition

企業買収・事業買収を通じて成長のスピードを獲得すること

Refine

既存の製品・サービスに磨きをかけて新時代を先取りすること

 

 

ビジョンの下となる基本的な考え方は以下の通りである。

アステリアは創業時のXML技術製品以来20年以上におよび「つなぐ」製品を提供している。

2002年のASTERIA R2出荷以降は「Graphical Language」というコンセプトのもと、全製品が「ノーコード」である。近年、「ノーコード」という用語の認知が広がってきているが、この傾向は当面拡大する。

コロナ禍によって、アステリアが創業時から標榜する「自律・分散・協調」の世界への動きがいよいよ顕在化している。

この時代においては、分散環境において「いつでもどこでも」使えるモバイルデバイスが当たり前となる。また、チップや部品の性能向上とIPv6の普及、さらにクラウドのセキュリティリスク回避のために、エッジコンピューティングの普及が加速する。

 

(同社資料より)

 

(同社資料より)

 

(2)事業別活動計画

①ソフトウェア事業
◎主力製品
21年3月期時点で「柱」となっている2製品についての目標
*ASTERIA Warp
サブスク比率を向上させストック比率を7割までに上げる

 

*Handbook
22年3月期後半に新製品をリリース

 

◎新製品
2製品を育成し4本柱を確立する
*Platio
積極的なマーケティングを実施する。カテゴリを確立し市場シェアNo.1を目指す。

 

*Gravio
世界展開を開始する。22年3月期は日本、米国、英国、シンガポール、23年3月期は中国市場に参入。
自社デザインのGravioセンサー、機器のチップや部品の製造国を吟味し、貿易上の影響を回避する(既に対応済み)。
カテゴリを確立し市場シェアNo.1を目指す。

 

◎研究開発・コンサルティング
長期的製品のベース技術として以下の研究開発を推進する。
*Blockchain:自社開発ブロックチェーンの外部提供
*AI:ロボティクス向けミドルウェア(Asteria ART)
*成長性の高いマネタイズ方法としてサービサーとのJVを推進する。

 

◎M&A
コロナ禍の状況を反映し国内M&Aを強化する。
*国内M&A組織を立ち上げた。
*対象はクラウドサービスに限定し、ライセンス売上が過半数の案件

 

②デザイン事業
◎既存市場
ポートフォリオ戦略を継続する。
欧米の顧客企業のコロナ禍からの復活後のプロジェクトを獲得する。

 

◎日本市場
早期に日本法人を設立する。

 

③投資事業
◎Asteria Vision Fund-1
IRR 10%のための投資先成長により未実現益を定常的に上げている。

 

◎第2号ファンド
Asteria Vison Fundの成果次第で組成を検討する。

 

④人員計画
21年3月末(124人)の約1.5倍の人員を目指す。
ジェンダー、国籍等のダイバーシティを重視した採用を継続する。
新卒採用を継続し、インターン採用なども拡大する。
テレワーク中心、スーパーフレックスなど働き方の多様性を活用し、世界中から優秀な人材を採用する。

 

(3)数値計画・目標

以下のような数値計画を掲げている。

 

21/3期(実績)

24/3月期(計画)

CAGR

売上収益

2,688

4,500

+18.7%

調整後EBITDA

615

1,000

+17.6%

同マージン

22.9%

22.2%

営業利益

820

営業利益率

30.5%

単位:百万円。調整後EBITDA=営業利益+減価償却費±その他の調整項目。その他の調整項目は、のれん減損、未実現買収対価、未実現評価損益等。CAGRは同社計画よりインベストメントブリッジ作成。

 

5.財務・非財務データ

(1)財務データ(連結)

◎BS/PL

 

2017/3期

2018/3期

2019/3期

2020/3期

2021/3期

売上収益

1,621

3,110

3,478

2,677

2,688

税引前利益

303

444

463

-159

1,026

当期利益

230

197

271

-176

807

EPS(円)

15.52

11.90

16.39

-10.66

49.02

ROE(%)

8.4

4.6

4.9

-3.5

15.7

資産合計

3,601

7,560

7,117

8,061

7,907

純資産合計

2,874

5,634

5,382

4,720

5,544

自己資本比率(%)

79.8

74.5

75.6

58.6

70.1

*単位:百万円。当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。純資産は親会社の所有者に帰属する持分。

 

◎CF

 

2017/3期

2018/3期

2019/3期

2020/3期

2021/3期

営業CF

267

853

34

503

776

投資CF

-265

-324

-474

-1,926

-599

フリーCF

2

529

-441

-1,423

177

財務CF

-101

1,914

-538

728

-358

現金・現金同等物

1,740

4,219

3,277

2,477

2,451

*単位:百万円

 

(2)非財務データ

①人的資本関連

 

2017/3期

2018/3期

2019/3期

2020/3期

2021/3期

従業員数(名)

66

74

72

72

83

 男性

41

44

43

46

55

 女性

25

30

29

26

28

 外国籍

5

5

7

5

6

管理職数(名)

19

21

22

20

21

 うち、女性管理職数

2

3

4

4

4

 同比率

10.5%

14.3%

18.2%

20.0%

19.0%

有休消化率

69.16%

73.25%

74.45%

70.77%

70.50%

平均勤続年数(年)

7.2

7.3

7.9

8.2

7.8

産休・育休取得率

 

 

 

 

 

 女性

100%

100%

100%

100%

100%

 男性

0%

0%

0%

0%

40%

*アステリア単体

 

社会資本関連

 

2017/3期

2018/3期

2019/3期

2020/3期

2021/3期

株主数

11,252

12,693

9,953

9,568

11,287

パートナー数

50

64

76

82

102

*パートナー数は、「ASTERIA Warp」「Handbook」「Platio」「Gravio」の4製品についてのパートナー数合計。

 

<参考>

ESG Bridge Reportの発行に際しては、柳 良平氏(京都大学経済学博士、エーザイ株式会社専務執行役CFO、早稲田大学大学院会計研究科客員教授)に多大なご協力を頂いた。
この「参考」のパートでは、ESG Bridge Report発行の趣旨についても述べさせていただくとともに、同氏の提唱する「ROESGモデル」の概要を同氏の著作「CFOポリシー」から引用する形で紹介する。

 

(1)ESG Bridge Reportについて

ESG投資がメインストリーム化する中で、投資家からは日本企業に対し積極的なESG情報開示が求められ、これに呼応する形で統合報告書作成企業数は増加傾向にあります。
ただ、統合報告書の作成にあたっては経営トップの理解・関与が不可欠であることに加え、人的リソースおよび予算負担から多くの企業が踏み出すことができていないのが現状です。
また、統合報告書の作成にあたっては各種データの整理、マテリアリティの特定、指標や目標値の設定など多くのステップが必要ですが、現状の準備不足のために二の足を踏んでいるケースも多いようです。

 

しかし、柳氏が「CFOポリシー」で、「日本企業が潜在的なESGの価値を顕在化すれば、少なくとも英国並みのPBR2倍の国になれるのではないだろうか」「ROESGの実現により日本企業の企業価値は倍増でき、それは投資や雇用、年金リターンの改善を経由して国富の最大化に資する蓋然性が高い」と述べているように、日本企業のESG情報提供は、日本全体にとっても有意で積極的に推進すべき事項であると株式会社インベストメントブリッジは考えています。

 

そこで、一気には統合報告書作成には踏み出せないものの、ESG情報開示の必要性を強く認識している企業向けに、現時点で保有するデータやリソースをベースに、投資家が必要とするESG情報開示に少しでも近づけるべく、弊社がご協力して作成しているのが「ESG Bridge Report」です。
日本企業のESG情報開示を積極的に後押ししている日本取引所グループが発行している「ESG情報開示実践ハンドブック」のP6には「ここで紹介している要素が全て完璧にできていないと情報開示ができないということでもない。自社の状況を踏まえてできるところから着手し、ESG情報の開示を始めることで、投資家との対話が始まり、そこから更なる取り組みを進めていく際に、本ハンドブックが手がかりになることを期待している」とありますが、「ESG Bridge Report」は、まさに「できるところから着手し、ESG情報の開示を始める」ためのツールであると考えています。

 

柳氏によれば「ROESG」の本格的な展開のためには、ESGと企業価値の正の相関を示唆する実証研究の積み上げ、企業の社会的貢献が長期的な経済価値に貢献する具体的事例の開示などが必要とあり、実際のハードルは高いのですが、各企業のESGへの取り組みがいかにして企業価値向上に繋がっているかをわかりやすくお伝えしたいと考えています。

 

お読みいただいた多くの投資家からのフィードバックを基に、よりクオリティの高いレポートへと改善してまいりますので、是非忌憚のないご意見を賜りたいと存じます。

 

株式会社インベストメントブリッジ
代表取締役会長 保阪 薫
k-hosaka@cyber-ir.co.jp

 

(2)「ROESGモデル」について

(拡大する非財務資本の価値、ESG投資の急増、ESGと企業価値をつなぐ概念フレーム策定)
近年、多数の実証研究において企業価値評価における非財務情報の重要性拡大が証明されており、今や、企業価値の約8割は見えない価値(無形資産)、非財務資本の価値と推察される。
加えて、非財務情報と企業価値の関係を調べた多数の実証研究の結果から、ESGと企業価値は正の相関を持つ蓋然性があると考えられる。
一方、グローバルにESG投資のメインストリーム化が進む中、潜在的なESGの価値にもかかわらず多くのケースでPBRが1倍割れもしくは低位に留まる日本企業は、PBR上昇のために「ROESGモデル」により、非財務資本を将来の財務資本へと転換すること、つまりESGと企業価値をつなぐ概念フレームを策定して開示する必要がある。

 

(「ROESGモデル」の概要)
株主価値のうち、「PBR1倍相当の部分」にあたる株主資本簿価は現在の財務資本・財務価値により構成される。
一方、株主価値のうち「PBR1倍超の部分」にあたる市場付加価値は、(将来の財務資本ともいえる)非財務資本により構成されると同時に、残余利益モデルにおいてはエクイティス・プレッド(ROE-株主資本コスト)の金額流列の現在価値の総和でもある。
このことから柳氏は、非財務戦略の結論として「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデル」=「ROESGモデル」を、ESGと企業価値を同期化する概念フレームワークとして提案している。

 

「ROESGモデル」においては、「市場価値(MVA)」を通じて残余利益の現在価値の総和としてのエクイティ・スプレッドと非財務資本が相互補完的である、つまり、エクイティ・スプレッドによる価値創造はESGを始めとする非財務資本の価値と市場付加価値創造を経由し、遅延して長期的には整合性を持つ。
そのため、ESG経営は資本効率を求める長期投資家とは市場付加価値を経由して同期化でき、協働が可能であろう。
これを傍証するように、柳氏が実施した投資家サーベイにおいては、世界の投資家の大多数が「ESGとROEの価値関連性を説明してほしい」と要望していると同時に、「ESGの価値の100%あるいは相当部分をPBRに織り込む」と回答しており、「ROESGモデル」は間接的にも長期投資家の大半から支持されていると解釈できよう。
(同氏の「ROESGモデル」の詳細については、柳良平著「CFOポリシー」中央経済社(2020)をご参照されたい。

株式会社インベストメントブリッジ
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