(4598)Delta-Fly Pharma 開発順調、22年の製品化を目指し

2019/04/18

 

江島 清 社長

Delta-Fly Pharma株式会社(4598)

 

会社情報

市場 東証マザーズ
業種 医薬品(製造業)
代表取締役社長 江島 清
所在地 徳島県徳島市川内町宮島錦野37-5
決算月 3月末日
HP https://www.delta-flypharma.co.jp/index.html

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,010円

4,369,600株

8,782百万円

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

0.00円

-188.31

228.15円

8.8倍

*株価は4/2終値。発行済株式数は19年3月期第3四半期決算短信より。BPSは前期末実績。

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2015年3月(実)

408

-281

-288

-290

-127.65

0.00

2016年3月(実)

145

-584

-595

-597

-185.53

0.00

2017年3月(実)

902

328

323

305

88.31

0.00

2018年3月(実)

150

-243

-244

-246

-71.20

0.00

2019年3月(予)

200

-682

-739

-741

-188.31

0.00

*予想は会社側予想。2018年6月25日付で1:500の株式分割を実施。EPSは遡及調整。

 

 

Delta-Fly Pharma株式会社の会社概要などをご紹介します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.業績動向
3.江島社長に聞く
4.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>

今回のポイント

  • 既存の抗がん活性物質等を「モジュール」(構成単位)として利用し、用法用量や結合様式等に創意工夫を加えて組み立てることで臨床上の有効性と安全性のバランスを向上させた副作用の少ない新規抗がん剤を創製する「モジュール創薬」という独自コンセプトで抗がん剤を開発。 
  • 「モジュール創薬」は治療効果の向上、副作用消失、低コストといった患者メリットに加え、特許化による高い排他性、迅速な開発スピード、低開発リスクといった開発上のメリットも大きい。同社では現在6つの製品・開発パイプラインを有し、3品目が臨床試験実施中、3品目が臨床試験準備中である。 
  • モジュール創薬の他、抗がん剤開発への特化、経験豊富なメンバーによる開発、外部資源の有効活用による効率的な企業運営なども同社の特徴。 
  • 江島社長にインタビューを行った。「上場してまだ間もなく、実際の承認・販売まではもう少し時間が必要だが、がんで苦しむ方々のお力になるべく全社一丸となって邁進してくので、是非中長期の視点で応援していただきたい。」とのことだ。 
  • モジュール創薬自体は決して同社でなければ手掛けることができない創薬方法ではないものの、現実に6つのパイプラインを立ち上げ、うち3品目が臨床試験実施中で、さらにうち1品目は最終臨床試験準備中という実績を積み上げることができているのは同社のみである。これを可能にしているのは江島社長を筆頭とした経験豊富な開発メンバーによる独自のアイデアや創意工夫に基づく開発力であり、同社の強力な差別化要因、競争優位性となっており、そのアドバンテージはゆるぎない。ただ、今後の持続的成長のためには開発力の更なる強化が不可欠であり、そのための組織作りを始めとした事業基盤強化の取り組み、進捗に注目したい。一方、開発が最も進んでいるDFP-10917の米国での承認・販売目標は2022年度までということから製品化、収益化にはいましばらく時間が必要だが、患者および家族のQOL向上、社会的損失の軽減という点からも大きな社会的意義を持つ同社の製品開発がスピーディーに進むことを大いに期待したい。

1.会社概要

『「がん」だけを見ることなく、「がん患者」の全体を診ることにより、安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供すること』を企業理念に、既存の抗がん活性物質等を「モジュール」(構成単位)として利用し、用法用量や結合様式等に創意工夫を加えて組み立てることで臨床上の有効性と安全性のバランスを向上させた副作用の少ない新規抗がん剤を創製する「モジュール創薬」という独自コンセプトで抗がん剤を開発。

【1-1 沿革】

徳島県出身の江島社長は、名古屋工業大学卒業、東京工業大学修士課程修了後、地元徳島県の製薬企業である大塚グループに就職し、その事業会社の一つ大鵬薬品工業に配属となった。
入社後すぐに早稲田大学理工学部に留学し、約12年間、研究者として医薬品、特に、機能性高分子から成る新薬の開発に関する研究に取り組む。その後、大鵬薬品工業の医薬品のシーズ探索を担当する部門在籍時、米国バイオベンチャーのマネジメントのあり方などを目の当たりにした際、大手製薬企業の研究開発組織で開発に携わるのではなく、独立して自分の力で製薬会社をマネジメントし、新しいアプローチで創薬を行いたいという意欲が強く湧き上がる。同時に、単に創薬を目指すのではなく、目の前にいる患者に何をしてあげられるのかを常に考えながら、ビジネスとして成立させることを目指し、2010年、江島社長61歳の時、大鵬薬品工業を退任し、Delta-Fly Pharma株式会社を設立。モジュール創薬による副作用の少ない患者に優しい抗がん剤開発に取り組んでおり、2019年3月現在6つの製品・開発パイプラインを有している。
2018年10月、東証マザーズに上場した。

【1-2 企業理念・経営理念】

社名「Delta-Fly」は「Dragonfly(とんぼ)」に由来している。とんぼは前にしか進まず退かないところから「不退転」の精神を象徴し、「勝ち虫」とも呼ばれていることから、強い意志をもって医薬品開発を行う決意を表している。

 

企業理念 「がん」だけを見ることなく、「がん患者」の全体を診ることにより、安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供すること

 

後述するように、同社は「がん」に打ち勝つことのみを目的とする抗がん剤を開発するのではなくのではなく、抗がん剤の大きな課題である副作用を軽減し、価格も含め患者およびその家族が安心して用いることのできる抗がん治療を提供することを自社の社会的存在意義であると認識している。

【1-3 同社を取り巻く環境】

厚生労働省「平成30年(2018)我が国の人口動態統計」によれば、2016年の主な死因別死亡率(人口10万人に対し何人が死亡したか)は悪性新生物(がん)が、298.3人で第1位であった。1981年に死亡率142.0人で、同134.3人の脳血管疾患に代わり第1位となって以来30年以上にわたり連続して第1位であり、その数値も年を追って上昇している。
高齢化、また食生活を含めたライフスタイルの変化等によりがん発症率は上昇していると言われている。

 

(出所:中国衛生和計画生育統計年鑑-2016、同社資料より)

 

(同社資料より)

 

こうした状況に対し、様々な抗がん剤が用いられ、新薬の開発も行われているが、周知のように抗がん剤治療に伴う各種副作用は、がん患者にとって大きな負担であり、患者のQOL(Quality Of Life:生活の質)向上の観点から副作用の軽減ニーズは極めて大きなものとなっている。
(副作用発生の仕組み)
がん細胞は、急速に分裂して成長するので、抗がん剤は、成長の速い細胞を殺すように作られている。しかし同時に健康な細胞にも、骨髄で造られる血液細胞、消化器の細胞、生殖器の細胞、毛根細胞など急速に細胞分裂するものがあり、抗がん剤はがん細胞だけでなくこれらの正常細胞にも影響を与えてしまい、嘔気、嘔吐、脱毛、疲労感といった副作用を引き起こす。

【1-4 事業内容】

(1)同社の創薬方法:モジュール創薬
多くのバイオベンチャーがある中で、同社を最も特徴づけるのが同社の創薬コンセプト「モジュール創薬」である。

 

(同社資料より)

 

既存の抗がん活性物質等を「モジュール」(構成単位)として利用し、用法用量や結合様式等に創意工夫を加えて組み立てることで臨床上の有効性と安全性のバランスを向上させた新規抗がん剤を創製するのが「モジュール創薬」である。
「モジュール創薬」では「がん」だけを見ることなく、「がん患者」の全体を診ることによって、未だに効果が限定的で多くの様々な副作用のある抗がん剤を複合的に改良して、副作用の少ない安心して身内のがん患者に勧められる薬剤にする。

 

(モジュール創薬の優位性)

患者へのメリット ・ 患者情報に基づく創薬だから治療効果が上がる。

・ 患者情報に基づく創薬だから従来の副作用が消失する。

・ 基礎と臨床試験が少なく短期間だからコストが低い。

開発上のメリット ・ 新規性・進歩性により特許化できるから高い排他性を有する。

・ 患者情報に基づく開発だから開発スピードが速い。

・ 患者情報に基づく開発だから開発リスクが低い。

 

一般的な抗がん剤の創薬においては、基礎の探索研究段階でがんの特異的な部分に作用する化合物をスクリーニングし、可能性のある化合物を抗がん剤候補とするが、臨床段階で作用を確認し、臨床試験で有効性と安全性を実証する必要があり、基礎段階からの研究開発に長い期間を要する。

 

これに対して、「モジュール創薬」は、既に医薬品として使用されている抗がん剤の活性物質を利用して組み合わせるため、基礎の探索研究がほとんど不要であることに加え、臨床での有効性と安全性の予測が可能であるため創薬に着手して1~2年後には臨床試験を開始できているなど、一般的な抗がん剤よりも研究開発の効率が高く、開発期間も短くなり、臨床試験で失敗する等の開発リスクが低減されている。
また、がん患者の治療上の課題に注目して、特許切れの医薬品を抗がん剤の知識とノウハウを駆使して組み合わせれば、新規の抗がん剤としての特許化が可能である。

 

(同社資料より)

 

また、近年、新薬開発のコスト低減などを目的とし、製薬企業においては後発薬ジェネリックや既存薬剤から新たな薬効を見つけ出すドラッグ・リポジショニングの開発が拡大している。
これらは既存薬を利用するという点では「モジュール創薬」と同じだが、ジェネリックはもちろんだが、ドラッグ・リポジショニングにおいても新規性・進歩性が認められにくいため特許取得が困難であるのに対し、「モジュール創薬」は全て特許化された新たな薬剤に生まれ変わるという点が決定的な違いとなっている。

 

このように、抗がん剤の問題点を解決しようとする限り、完全に新規の抗がん剤を生み出すことが可能であることから、同社では「モジュール創薬」は新たな創薬手法の大きなイノベーションになり得ると確信している。

 

(2)ビジネスモデル・収益モデル
(ビジネスモデル:効率的な研究開発体制を構築)
新しい医薬品が上市されるまでには、「基礎研究」から始まり、「前臨床試験(動物を用いて薬効薬理作用、生体内での動態、有害な作用などを調べる試験)」、「臨床試験(医薬品や治療技術などの人間への影響を調べる科学的試験)」を経て、当局への申請・承認を得たのち、「製造」、「販売・マーケティング・製造販売後調査」といったプロセスを経るのが一般的である。

 

こうしたプロセスにおいて同社は、研究開発のマネジメント業務に集中し、具体的な業務については国内外の優れた外部の研究開発受託会社や製造受託会社に委託しており、開発フェーズに応じた外部協力機関との連携により、効率的な研究開発体制を実現している。
また、三洋化成工業株式会社(東証1部、4471)との間で、ドラッグデリバリーシステムを用いた新規抗がん剤における共同研究開発にも取り組んでいる。

 

(同社資料より)

 

(収益モデル)
研究開発段階においては、提携製薬会社との契約に基づく「契約一時金」、「マイルストーン」、「開発協力金」が主な収入となる。
将来、提携対象の製品が上市に至った場合には、売上高に応じた「ロイヤリティ」収入を受け取る予定である。

現在の提携製薬会社は以下の2社。

協和化学工業株式会社

(未上場)

抗がん剤候補化合物DFP-14323の日本における独占的ライセンス契約を締結
日本新薬株式会社

(東証1部、4516)

抗がん剤候補化合物DFP-10917の日本における独占的ライセンス契約を締結

 

(3)製品・開発パイプライン
現在、前述の経営方針に沿って以下6つの製品・開発パイプラインを有している。
パイプラインの開発・事業化の経緯、現状、今後の計画は以下のとおりで、3品目が臨床試験実施中、3品目が臨床試験準備中である。

(同社資料より)

 

①「DFP-10917」

項目

概要

対象疾病 難治性・再発急性骨髄性白血病

(標準療法は確立されており、一時的には7割程度は血液中のがん細胞が消滅する寛解となるが、再発も多く、完全に治癒するのは全体の3割である。)

既存薬の特徴など 既存薬CNDACは固形がんを対象疾患とし、投与量は高用量・短時間で、投与経路は点滴または経口。固形がんへの効果が限定的であるのに加え重篤な副作用が散見された。
モジュールの改良点・効果 投与量を低用量・長時間とし、投与経路も点滴による持続静注としたところ、従来使用されてきている核酸誘導体(シタラビンやゲムシタビンなど)とは異なる作用を引き起こし、既存の化学療法が無効な難治性・再発急性骨髄性白血病患者に対しても、薬効を期待できる。

 

(開発状況・今後の事業化)
米国で行われた臨床第I/II相試験では、第II相パートで48%(14/29例)の患者で奏効し、高い有用性が示唆された。
これを受け、米国規制当局(FDA)との臨床第II相試験終了時会議を経て、臨床第III相試験の治験実施計画書を提出。合意を得ることができた。これを受け、治験参加施設の選定を進めている。
2021年度までの第III相試験終了、2022年度までの米国での承認・販売を目指している。
日本国内については、ライセンス先の日本新薬株式会社で臨床第I相試験の準備中である。

 

②「DFP-14323」

項目

概要

対象疾病 肺がんなど
既存薬の特徴など 既存薬べスタチン(ウベニメクス)は血液がんを対象疾患とし、投与量は高用量で、投与方法は単剤。経路は点滴または経口。血液がんのみの適応だが、肺がんで延命効果があった。
モジュールの改良点・効果 抗腫瘍効果の増強を目的とし投与量を低用量、投与方法を分子標的治療薬との併用としたところ、肺がんでの効果が確認された。がん患者の免疫機能を改善し、末期又は高齢の固形がん患者の治療が期待できる。

 

(同社資料より)

 

(開発状況・今後の事業化)
既存薬ウベニメクスは日本において、日本化薬(株)が、「成人急性非リンパ性白血病に対する完全寛解導入後の維持強化化学療法剤との併用による生存期間の延長」の効能・効果で承認済。
Delta-Flyは適応追加として、「EGFR 遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象とした低用量EGFR-TKI 併用治療の臨床第II相試験」を2018年1月から日本国内で開始し、症例登録を進めている。
2021年度までに日本での適応追加の承認・販売を目指している。
協和化学工業株式会社(未上場)と日本における独占的ライセンス契約を締結している。

 

③「DFP-11207」

項目

概要

対象疾病 固形がん(膵がん等)
既存薬の特徴など 既存薬ティエスワンは血小板減少を含む血液毒性により治療の継続が不充分であった。
モジュールの改良点・効果 DFP-11207は抗がん作用を有する5-フルオロウラシル(5-FU)の薬物動態を制御するために、徐放・阻害・失活させる3つのモジュール化された活性物質(モジュールI、II、III)を結合した化合物。

従来の5-FU系抗がん剤で発現する血小板減少を含む血液毒性が回避されており、有効性と安全性のバランスが改善され、長期に継続して治療することが可能となった。

化合物の組み合わせを改良した「モジュール創薬の代表例」。

 

(開発状況・今後の事業化)
米国にて固形がん(消化器がん)を対象に臨床第I相試験を進め、次試験の推奨用量と従来の5-FU系抗がん剤で発現していた血小板減少の副作用がないことを確認した。
現在、食事の影響試験が終了し、その総括作業と、臨床第II相試験の準備を行っている。
2024年度までに米国での承認・販売を目指している。

 

④「DFP-14927」

項目

概要

対象疾病 固形がん・血液がん
既存薬の特徴など 既存薬DFP-10917は投与には持続静注用ポーチを利用し、14日間連続の投与が必要で利便性の向上が必要であった。また対象疾患は血液がんのみであった。
モジュールの改良点・効果 ポリエチレングリコール結合を行った抗がん剤候補物質DFP-14927は、DFP-10917の高分子デリバリーであり、がん組織へ選択的に集まり、がん細胞内で効果的にDFP-10917を放出することを可能とした。

また投与回数を週1回投与に減らし、投与経路も点滴静注とし、対象疾患は血液がんに加え、固形がんや骨髄異形成症候群に広がった。

 

(開発状況・今後の事業化)
米国において前臨床試験が終了している。前臨床試験のデータでは、週1回投与で血液中濃度が長時間安定であることを確認しており、固形がんに対する抗腫瘍効果を認めている。
2018年3月に三洋化成工業(株)と共同開発契約を締結し、臨床第I相試験開始申請の準備を進めてきたが、2019 年1月18日、米国 FDAによる IND(Investigational New Drug:臨床試験用の新医薬品)の安全性審査が完了し、米国での臨床第I相試験の実施が許諾された。
この結果を受けて膵がん 及び胃がんを含む消化器がん患者を対象に臨床第I相試験を開始する予定。また、この臨床試験とは別に、骨髄異形成症候群を含む血液がん患者への可能性も検討する予定である。

 

⑤「DFP-10825」

項目

概要

対象疾病 腹膜播種転移がん(胃がん・卵巣がん)
既存薬の特徴など 基本薬siRNAは、基礎効果としては確実な阻害効果がみとめられるが、臨床効果としては全身投与での効果に難があった。
モジュールの改良点・効果 RNA干渉を利用した核酸医薬は、がん分子標的薬やがん免疫療法剤に次ぐ、次のがん治療薬として期待されている。核酸医薬DFP-10825は、がんの増殖に多大な影響を与える因子をRNA干渉で特異的に阻害させるために、全身投与ではなく腹腔内投与で効果を発揮できるように工夫している。卵巣がんや胃がん等の患者では、終末期になると胸水や腹水などの体液貯留(腹膜播種転移)が認められるが、腹腔内に直接注入して効果を発揮することにより、腹水をコントロールして苦しさを和らげ、延命につながることが期待される。

 

 

(開発状況・今後の事業化)
すでに卵巣がん、胃がん及び膵がんで生じる腹水の原因となる腹膜播種転移に対する薬効試験と薬物動態試験を終え、原薬、DDS 及び製剤などの治験薬の製造法についても現行の医薬品適正製造基準(cGMP)による予備的な検討を終えている。今後は、株式上場で得られた資金の一部を活用し、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(GLP)による前臨床試験を追加した後、米国 FDAにIND申請の上、米国で卵巣がん、胃がん及び膵がんの腹膜播種転移の患者を対象に臨床第I相試験を開始する予定である。出願中の各国の特許証も届いている。

 

⑥「DFP-17729」

項目

概要

対象疾病 固形がん等
既存薬の特徴など 既存薬である尿アルカリ化剤は、高尿酸血症などを対象疾患とするものだが、膵がんで延命効果が認められたほか、各がん腫瘍で抗腫瘍効果が見られた。
モジュールの改良点・効果 正常細胞では細胞内と比べて細胞外でアルカリ性となっているが、がん細胞の細胞外は酸性となっている。これは、がん細胞の増殖により解糖系が亢進し、乳酸や水素イオンが産生され、それを積極的に細胞外へ排出しているからである。

DFP-17729は、がん細胞の細胞外をアルカリ化することにより、がんの増殖を抑える。抗がん剤との併用、免疫チェックポイント阻害剤との併用により免疫チェックポイント阻害薬単独療法に比べて効果を増強することが動物実験で確認されている。

 

(開発状況・今後の事業化)
医薬品として承認・販売されている尿アルカリ化剤の、日本における抗がん剤としての適応追加の準備を進めている。
尿アルカリ化剤は「アシドーシスの改善」の効能・効果で、「高尿酸血症」や「腫瘍崩壊症候群」などの治療で、すでに臨床現場で使用されているため、前臨床試験は不要。
抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤との併用により、既存薬の抗腫瘍効果の範囲を広げ、新たながん治療の提供を目指す。

 

【1-5 バイオベンチャーとしての4つの特徴】

バイオベンチャーとしての同社を特徴づけるのは主に以下の4点である。
?モジュール創薬
前述のように、既存の薬剤等を「モジュール」(構成単位)で創意・工夫して組み立てることで特許化し、臨床上の有効性と安全性のバランスを向上させた新薬を生み出している。

 

?抗がん剤開発への特化
未だに効果が限定的で多くの様々な副作用がある「抗がん剤」を対象にすることで、モジュール創薬による新薬開発を加速し、がん患者の社会生活の改善に貢献している。

 

③経験豊富なメンバーによる開発
長年にわたり抗がん剤の研究・開発に従事してきた製薬会社経験者と、がん患者のことを良く知る臨床医から構成されるメンバーで、確実に開発を進め、アンメット・メディカル・ニーズに応えており、同社の強力な差別化要因、競争優位性となっている。

 

④外部資源の有効活用
工場や研究所を持たず、研究開発マネジメント業務に集中し、外部の受託機関などに委託して積極的な連携を図ることにより、効率的な運営を行っている。

2.業績動向

(1)2019年3月期業績予想

 

18/3期

19/3期(予)

前期比

事業収益

150

200

+33.3%

営業利益

-243

-682

経常利益

-244

-739

当期純利益

-246

-741

単位:百万円

 

(事業収益)
DFP-10917の米国における臨床第III相試験の実施に伴い、日本で臨床第I相試験の開始により、日本新薬(株)からマイルストーンとして2億円の事業収益を見込んでいる。

 

(営業利益)
DFP-10917の米国における臨床第III相試験、DFP-14323の日本での臨床第II相試験、DFP-11207の米国での臨床第II相試験の準備、及びDFP-14927の米国における臨床第I相試験の準備による研究開発費が前期比247.2%増の6億92百万円、主幹事証券や監査法人等への支払報酬が同16.2%増の45百万円(前期比116.2%)を見込んでいる。
開発パイプラインをさらに進捗させる事業活動により研究開発費を含む販管費は同124.1%増の8億82百万円、営業損失は同4億39百万円拡大の6億82百万円と見込んでいる。

 

(2)財務状態
◎主要BS

 

18年3月末

18年12月末

 

18年3月末

18年12月末

流動資産

831

3,686

負債合計

41

46

現金

781

3,655

純資産合計

822

3,674

固定資産

32

34

利益剰余金

-1,392

-1,896

有形固定資産

30

31

負債純資産合計

864

3,721

資産合計

864

3,721

長短借入金残高

19

14

単位:百万円

 

公募増資により前期末に比べ現金、純資産が増加。資産合計は前期末に比べ28億57百万円増加し、37億21百万円となった。自己資本比率は前期末比3.5ポイント上昇し98.7%。

3.江島社長に聞く

江島社長に、自社の強みや特徴、モジュール創薬に込める想い、株主・投資家へのメッセージを伺った。

 

Q:「バイオベンチャーとしての御社の強み・特徴、競争優位性などをお聞かせください。」
A:「当社は大変小規模の会社だが、研究開発や臨床に携わってきた経験豊富なメンバーでマネジメントチームを構成しています。『安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供する』というミッションの実現に向けてメンバーの経験を活かして、モジュール創薬をアイデアにとどまらず具現化できる点が当社の大きな強みです。」

 

当社は従業員数が10名超と、上場バイオベンチャーの中でも小規模世帯の会社ですが、製薬会社の研究開発や国内外の著名大学・研究機関において臨床に携わってきた経験豊富なメンバーでマネジメントチームを構成しています。
単に「がん」を縮小させるための薬を開発するのではなく、製薬企業は患者やその家族にとってどういう役割を果たすべきかを真に理解している者が集まって、「安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供する」というミッションの実現に向けてメンバーの経験を活かし、モジュール創薬をアイデアにとどまらず具現化・商品化につなげられる点が大きな強みと考えています。

 

Q:「モジュール創薬が患者に与えるメリット、御社における重要性はどんな点でしょうか?」
A:「副作用の軽減に加えて、薬価の低減によって、より全体的な患者メリットをご提供することができると考えています。一方、当社にとってモジュール創薬は持続的成長の実現につながる重要な開発コンセプトです。」

 

私は長年の経験の中で多くのがん患者さんに触れ、多くの副作用を見てきました。
抗がん剤に副作用はつきものとはいえ、中には投与方法に問題があるものもあり、患者さん及びご家族の様子を拝見していると本当に患者メリットを考えているケースが実は多くないということを実感していましたので、改善余地は極めて大きいと考えています。
大手の製薬会社は一度商品化したものを再度見直すということをあまりやりませんが、これは患者メリットを第一義とする当社にとっては、モジュール創薬による事業化の機会が多いということであり、副作用の軽減に加えて、薬価の低減により、全体的な患者メリットをご提供することができると考えています。

 

一方、当社にとってモジュール創薬は持続的成長の実現につながる重要な開発コンセプトと考えています。
バイオベンチャーが企業として永続するにはサイエンスとデベロップメントの両輪をバランスよく駆動させることが最も重要ですが、バイオベンチャーの中にはサイエンスに偏重した結果、生き残ることができなかったケースも多いようです。その点、当社は小規模ながらもモジュール創薬によってサイエンスと開発を両立させ、有効な薬剤を効率的かつスピーディーに製品開発を進めることが可能で、モジュール創薬は患者さんにも当社にも大きなメリットをもたらすことができると考えています。

 

Q:「では株主や投資家へのメッセージをお願いいたします。」
A:「がんで苦しむ方々のお力になるべく全社一丸となって邁進していきますので、是非中長期の視点で応援をお願いいたします。」

 

「がん治療」においては、「がん」を叩くことに注力した結果「がん患者」を叩いてしまい、不幸な結果となるケースも見られました。これに対し当社は、がんを叩くことだけに注力することなく、より安全で延命を図ることができて、なおかつ経済的にも許容できる治療法を提供することで、多くの患者さんやご家族に喜んでいただきたいと考えています。
上場してまだ間もなく、実際の承認・販売まではもう少し時間が必要ですが、がんで苦しむ方々のお力になるべく全社一丸となって邁進していきますので、中長期的な視点で応援をお願いいたします。

 

4.今後の注目点

モジュール創薬自体は決して同社でなければ手掛けることができない創薬方法ではないものの、現実に6つのパイプラインを立ち上げ、うち3品目が臨床試験実施中で、さらにうち1品目は最終臨床試験準備中という実績を積み上げることができているのは同社のみである。
これを可能にしているのは江島社長を筆頭とした経験豊富な開発メンバーによる独自のアイデアや創意工夫に基づく開発力であり、同社の強力な差別化要因、競争優位性となっており、そのアドバンテージはゆるぎない。
ただ、今後の持続的成長のためには開発力の更なる強化が不可欠であり、そのための組織作りを始めとした事業基盤強化の取り組み、進捗に注目したい。
一方、開発が最も進んでいるDFP-10917の米国での承認・販売目標は2022年度までということから製品化、収益化にはいましばらく時間が必要だが、患者および家族のQOL向上、社会的損失の軽減という点からも大きな社会的意義を持つ同社の製品開発がスピーディーに進むことを大いに期待したい。

<参考:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態 監査役会設置会社
取締役 7名、うち社外4名
監査役 3名、うち社外3名

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2018年10月12日

 

<基本的な考え方>
当社は「「モジュール創薬」により、安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供する。」というミッションの下、株主をはじめ、顧客、取引先、従業員、地域社会等の全てのステークホルダーの利益を重視した経営を行うことが当社の使命であると考えています。そのためには、当社事業が安定的かつ永続的な発展を果たすことが不可欠であり、このような発展の基盤となる経営の健全性、透明性及び効率性が確保された体制の整備を進めることをコーポレート・ガバナンスの取組みに関する基本方針としています。

 

<実施しない主な原則とその理由>
「基本原則をすべて実施しています。」と記載している。

 

株式会社インベストメントブリッジ
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