株の持ち合いのメリットに注目

2018/07/06

(要旨)
・株の持ち合いの評判が悪いが・・
・株の持ち合いは自社株買いと同じ効果
・友情の証でウインーウインの関係構築
・乗っ取り防止は一長一短
・「抱き合わせ販売」は問題だが・・・
・日本経済としては持ち合いが望ましいかも

(本文)
・株の持ち合いの評判が悪いが・・
株式の持ち合いは市場関係者の間で評判が悪い。「他社の株を買う金があるなら配当しろ」「持ち合いで乗っ取りを防ぎ、互いの経営者の保身を図り、ぬるま湯経営を続けるために持ち合いをしているのは邪道」といった批判が目につく。
しかし、本当に持ち合いは問題なのだろうか。筆者は持ち合いにも良い点が多いので、一概に悪玉扱いをすべきではないと考えている。その理由を以下に記そう。
以下、鉄鋼メーカーA社と自動車メーカーB社の持ち合い、ということにする。

・株の持ち合いは自社株買いと同じ効果
A社の株主が「B社の株式を購入するために使う資金は無駄であるから、そんな金があるなら配当しろ」と主張したとする。それは、B社の株を持つ一般株主に対する侮辱である(笑)。B社の株式を保有する一般株主は、配当収入や値上がり益を期待して保有しているのであり、A社が保有しているB社株についても配当収入や値上がり益が期待できる筈である。売却するつもりが無くても、値上がりすれば含み益が膨らむのであるから、A社の株主の利益となろう。
おそらく、バブル崩壊後の長期低迷期に、持ち合い株の値下がりが続き、それがお互いの決算を悪化させる事例が相次ぎ、その時に「持ち合い株は負担である」という悪いイメージが市場関係者に染み付いて、今だに抜けていないのだろうと筆者は推測しているが、株価が戻りつつある今、そうしたイメージは払拭されることが望まれる。
A社の株主にとっては、株の持ち合いは単にB社の株式を(間接的に)保有して配当や値上がりを期待できるのみならず、遥かに直接的な効果も期待できるものである。つまり、見返りにB社がA社の株を購入してくれるので、A社の流通株が減り、需給が引き締まるのである。
つまり、A社とB社が相互に株式を購入するという事は、A社とB 社が同時に自社株買いをするのと同様の効果を有する、というわけである。A社とB社が持ち合いを解消すると、両社が「自社株買い」して持っていた株が市場に放出される事になるが、それでも良いのであろうか。

・友情の証でウインーウインの関係構築
B社が鉄鋼を仕入れる際に、A社製品とライバル製品の品質と価格が同じならばA社製品を優先的に購入するとA社は期待するはずである。A社が社用車を購入する際には、更にはA社の社員が自家用車を購入する際には、B社製品とライバル製品の品質と価格が同じであれば、B社の製品が選ばれるとB社は期待する筈である。
A社とB社が株式持ち合いという「友情の証」を維持することで、両社ともにウインーウインの関係が保てるのである。まあ、持ち合いをしなくても「友情契約」を結べば良い話ではあるが(笑)。

・乗っ取り防止は一長一短
企業が乗っ取りに遭わないとわかり、株主総会で自分の地位が安泰だとわかると、経営者が「ぬるま湯経営」をするインセンティブを持つようになるので、いつでも乗っ取りに遭うという緊張感が必要だ、というのは一理ありそうだ。
ただ、乗っ取り屋の手に渡った企業がきちんと経営されるのかは、疑問である。長期的な視野で経営していた企業が乗っ取られて短期的な視野の経営方針が打ち出され、社員や顧客が離れていく可能性も小さくないと懸念される所である。
それ以上に問題なのは、株主の利益は社員等の利益とは限らず、日本経済の利益とも限らない、という事である。この点は後述する。

・「抱き合わせ販売」は問題だが・・・
A社の株主の中に、「鉄鋼株は買いたいが、自動車株は絶対持ちたく無い」という株主が多いとすれば、持ち合いは問題であろう。A社の株を買うと、B社の株が間接保有という形ではあるが「抱き合わせ販売」されてしまうからである。
もっとも、上記のようなウインーウイン効果等々を考えれば、それを否定してまでも持ち合いを解消させたい、と考えるほど自動車株を嫌うA社株主は多くないのではなかろうか。

・日本経済としては持ち合いが望ましいかも
既存の株主にとっては乗っ取り屋に高く株式を買い取ってもらう事がベストな選択だとしても、それが日本経済にとってベストだとは全く限らない。
たとえば、PBRが1を下回っている会社であれば、乗っ取り屋に株を買い占めてもらい、会社を解散して従業員を全員解雇して所有不動産を売却してもらう事が既存株主にとってベストかもしれないが、従業員にとってはたまったものではない。好況期であればまだしも、不況期であれば大量の失業者が発生して、政府が失業対策を迫られるかもしれない。
あるいは、乗っ取り屋が非常にハイリスク・ハイリターンなビジネスに舵を切るかも知れない。たとえば内部留保を全額配当した上で、資産全額で「宝くじ」のようなハイリスク・ハイリターン資産を購入する場合を考えてみよう。当たれば会社は大儲けで、銀行に借金を返して残りは乗っ取り屋のものになるが、外れれば銀行の融資が焦げ付く事になる。「当たれば乗っ取り屋の価値、はずれれば銀行の負け」といった賭けをされては、銀行や従業員としてはたまらないであろう。
そんな極端な事例でなくても、懸念される事は多い。「JR各社がJALとANAを買収して国内線を廃止し、国際線のみの会社として存続させる」「自動車各社がJR各社を買収して、運賃を大幅に値上げする」といったケースを想像しただけで、「お願いですから株式の持ち合いを強化して、乗っ取りを防いで下さい」と頼みたくなるのは筆者だけではなかろう。

(7月2日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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