インターネットでGDPが縮む?

2018/04/06

(要旨)

・民放テレビで映画が減り、GDPが縮んだ?
・インターネットで安くなると消費者余剰が増える
・安くなった分は名目GDPを下げるが実質GDPは不変
・そもそもGDP統計は幸せを測るものではない
・そもそもGDP統計は完璧ではない
(補論)民放テレビとGDPの三面等価を考える

・民放テレビで映画が減り、GDPが縮んだ?
インターネットで情報が無料で得られるようになり、新聞(や雑誌等、以下同様)を購読する人が減ったと言われている。それにより、新聞の購入代金が減り、GDP統計上の個人消費が減り、GDPが全体としても減っている、という議論がある。
それはその通りだが、かつて「民放のテレビでドラマが放映されるから映画館の客が減った」時にも同じ事が起きたわけである。インターネットの影響の方が規模は大きいが、本質は同じである。
映画館は入場料収入で稼いでいる一方、民放のテレビ局はコマーシャルで稼いでいるという構図は、新聞が購読料で稼いでいる一方でインタネットメディアは広告料で稼いでいる、という構図と同じである。
もっとも、この話は割り引いて聞く必要がある。消費者が新聞を買わなくなった分をそっくり貯金すると考える必要は無い。テレビやインターネットでビールの広告を見て、ビールを買うかもしれない。そのためにビール会社が広告料を支払っているのだから(笑)。
仮に、浮いた映画代金がそっくりビールに化けるとすれば、個人消費は不変なので、GDPも縮まないことになる。ちなみに、名目GDPも実質GDPも同じ動きとなるはずである。

・インターネットで安くなると消費者余剰が増える
インターネットの音楽配信は、レコード盤を作ってそこに録音してレコード店に並べて店員を雇って売るという必要が無いので、コストが安い。客としては、同じ満足が得られて価格が安いのだから、有難い事である。
客が「払っても良いと考える価格」と「実際の価格」の差を「消費者余剰」と呼ぶ。1000円払っても聴きたい音楽が、500円のレコードを買う事で聞ければ500円の消費者余剰だが、これがネット配信で300円で聴ければ消費者余剰は700円に増える。

・安くなった分は名目GDPを下げるが実質GDPは不変
音楽のネット配信でレコードより安い分は、個人消費が減るので、名目GDPは減る。しかし、価格変化を調整した実質GDPは減らないので、実質経済成長率(いわゆる経済成長率)はレコードがネット配信になっても不変である。
消費者余剰自体はGDPの統計には載らないが、価格下落によって消費者余剰が増えた分は、名目GDPを実質GDPに換算する時にしっかり考慮されるので、「ネット配信のせいで経済成長率が下がった」という事はなさそうだ。
言い換えると、経済成長率は、GDPの増加率から物価上昇率を差し引いて求めるもので、「国内で生産された物やサービスの量がどれくらい増えたか」を測るものなので、値下がりによって消費額が減っても、生産量が減っていなければ減らないのである。
さて、消費者は、ここでも音楽が安く買えた分を貯金せずにビールを飲むかも知れない。そうなれば、ビールの分だけ「名目GDPの減り方は少なくなり、経済成長率はむしろ上昇する」ことになる。

・そもそもGDP統計は幸せを測るものではない
「GDPの統計に消費者余剰がはいっていないのはおかしい」という識者もいるが、そもそも統計の目的が消費者余剰や消費者の幸せを測るためのもので無い事をしっかり認識したい。
GDPは生産力を測るものなので、郊外に住むサラリーマンが満員の通勤電車に乗ると「輸送サービス」が生産されたことになり、GDPが増えてしまうのである。彼が都心に引っ越すと、生活は快適になるが、GDPは減ってしまうのである。
無駄な公共投資も、GDPを増やす。政府が橋や道路を作ると、その橋や道路が完成後にどれくらい利用されるかを考えずに、出来た橋や道路の分だけGDPが増えるのである。
ちなみに、消費者余剰を測りたければ、すべての消費者に「あなたは1000円出しても音楽を聴きたいですか?1101円ならどうですか?」と聞いてまわる必要がある。
しかも重要なことは、消費者余剰は幸せの量とは異なるという事である。期待して購入した音楽が期待はずれだった、ということもあるだろうが、それ以上に、おなじ「1000円出してもビールが飲みたい」という客が二人いたとしても、「祝杯のビール」と「ヤケ酒のビール」では、幸せ度は違うはずだからである(笑)。

・そもそもGDP統計は完璧ではない
南洋の島国で、ずっと昼寝をしていても衣食住に困らないとなると、GDPはゼロである。北国で頑丈な家と温室を建て、大量の燃料を燃やして生活したり食料を生産したりする国では、GDPが大きくなる。
我が家の専業主婦が家事育児を行なってもGDPには計上されず、隣家の専業主婦が親の介護をしてもGDPには計上されない。しかし、我が家の専業主婦が隣家の高齢者の介護の仕事で働き、隣家の専業主婦が我が家の家政婦として働くと、GDPが発生する。実態は何も変わっていないのに、である。
GDP統計に幻想を抱くべきではない。GDPというのは、その程度の物だ、と思って付き合う事が必要である。満点で無い事を批判しても仕方ない。それ以上の物が他に無いのであれば、有り難くそれを使うしか無いのだから。

(補論)民放テレビとGDPの三面等価を考える
冒頭の「民法のテレビ局が出来て無料でドラマを放映するようになったので、映画館の売り上げが減り、GDPが減った」という事について考えてみた。
映画の売上が10億円あったが、ゼロになった。今では映画会社の社員がテレビ会社に移籍し、テレビ会社がテレビ番組を作り、スポンサーから広告料を10億円もらっているとする。映画もテレビも制作費が10億円で、営業余剰(利益)はゼロとする。テレビ番組のスポンサーはビール会社で、大麦の栽培からビールの販売まで全部を社内で行っているとする。

(ケース1)テレビコマーシャルに効果が無い場合
本来なら、コマーシャルの効果でビールの売れ行きが増えるはずだが、その点についてケース2で検討することとし、ここではコマーシャルには効果が無いとしよう。
支出面から名目GDPを見ると、たしかに個人消費が減っているので、減るに違いない。実質GDPについても、同様に減ることとなろう。
分配面から名目GDPを見ると、映画会社から受け取っていた雇用者報酬がテレビ会社からの受取に振り替わっただけなので、この部分は不変であるが、ビール会社が無駄な広告費で営業余剰を減らしているので、やはりGDPは減っているに違いない。
生産面から見ると、映画会社の売り上げはテレビ局の売り上げに置き換わっているため、この部分の付加価値は不変である。一方、ビールの売り上げが増えなかったため、ビール会社の生み出す付加価値(=売上高−中間投入)が10億円減少し、経済全体でのGDPも同額だけ減少する。
ちなみにテレビコマーシャル代(=テレビ局の売り上げ)はビール会社の中間投入となる。「美味しいビールを作るために香辛料を購入して加える」「テレビに広告を出す」は、ビール会社の売上アップのための努力として同じものだと考えられるからだ。ビール会社はこれに見合うだけの売り上げを上げない限り、付加価値を増やすことができない。
この場合、明らかに消費者は、それまではお金を払って映画を観ていたのに対して、今は無料でテレビ番組を同じように楽しむというメリットを得ているが、それはGDPにカウントされない事になる。それは、GDP統計が国民の幸せを測るための統計ではないからである。

(ケース2)テレビのコマーシャル代だけビールの売上が増えた場合
10億円のテレビコマーシャルを行って、ビールの売り上げが10億円増え、そのうち7億円が社員の残業代となった場合を考える。ビール会社の利益(営業余剰)は従前に比して7億円減ったわけだ。
支出面から見た名目GDPは不変である。映画代の個人消費が減り、ビール代の個人消費が同額増えているからだ。
分配面から見た名目GDPも不変である。雇用者報酬が7億円増える一方で、ビール会社の利益(営業余剰)が7億円減るからである。
生産面から見た名目GDPも不変である。映画会社の売り上げが消え、テレビ会社の売り上げに置き換わっており、この部分の付加価値は不変である。ビール会社の売り上げは10億円増えているが、中間投入も10億円増えているので、ビール会社の付加価値も不変である。したがって、経済全体でみた付加価値の創出も従前と変わっていない。
実質GDPについても、同様に不変であろう。

P.S.
実際には、ケース3(ビールの売上が50億円増えて、ビール会社の利益も増えた)となるのであろう。そうでなければ、ビール会社は広告をやめ、民放テレビ局は破産するだろうから。ただ、その場合はウイスキーや日本酒の売上高が40億円減っているかもしれず、そうであればケース2と同じことである。

(4月2日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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