金融所得の増税より相続税増税を

2018/03/09

(要旨)
・税と社会保障全体で貧富の格差をどう考えるのか、議論の要
・所得課税と資産課税、働く意欲を削ぐのは前者
・金融所得は、本来は総合課税が望ましい
・相続税の増税を是非
・固定資産税も、東京一極集中是正の観点から必要

(本文)
・税と社会保障全体で貧富の格差をどう考えるのか、議論の要
財政赤字が巨額で国(日本国ではなく、地方公共団体と対比するために中央政府を国と呼んでいる)の借金も巨額なので、増税しなければいけない、という財務省の気持ちは理解できる。

しかし、税と社会保障を全体として見渡した時の「望ましい姿」を議論するのが先であろう。もちろん、それは財務省の仕事ではなく、政治の仕事であるが。

消費税は、金持ちの方が貧しい人より多く支払うのに、「逆進的だ」という理由で軽減税率が適用される。一方で、金持ちも貧しい人も同一金額である究極の逆進性をもつ国民年金保険料が緩やかながら着実に引き上げられている。また、法人税率が引き下げられているが、主にその恩恵を受けるのは株価上昇や配当増で潤う富裕層であろう。

貧富の格差が悪いとは思わない。全員の給料が同じなら、誰も真面目に働かないし、全員の所得が同じなら誰も起業したりしないだろう。それでは経済は回らない。しかし、貧富の格差が大きすぎるのも問題である。従って、累進課税で金持ちから資金を調達し、生活保護等で貧しい人の生活を改善する事は必要だ。

そこで重要なのは、「どの程度の格差が望ましいのか」という議論である。これは政治的には大変難しい議論であるが、これを避けて個々の税制等を論じると、「取りやすい所から取る」という事にもなりかねない。是非、政府にはこの議論をお願いしたい。

・所得課税と資産課税、働く意欲を削ぐのは前者
貧富の格差という時、所得格差も重要であるが、資産格差も重要である。1億円持っている無職高齢者は、「貧しいから医療費の自己負担割合は低くて良い」とされているが、これをどう考えるべきか。

預金に課税するといった事は難しいが、富裕層の利子配当所得にはもっと課税しても良いのではないか。高い給料を稼ぐと所得税率が高いのに巨額の利子配当を受け取っても源泉分離課税で低税率なのは不公平ではないか。

働く意欲や投資する意欲を削ぐ税制より、削がない税制の方が望ましいのではないか。相続税を増税しても、人々の働く意欲や投資する意欲を削がないので、相続税を増税すべきではないか。

こういった議論も、行われるべきであろう。

・金融所得は、本来は総合課税が望ましい
3千万円の給料をもらっている人と、3千万円を株式投資で稼いだ人では、前者の方が圧倒的に高い所得税率となっている。投資収益が不労所得だなどと言うつもりは毛頭ないが、これは優秀な人の勤労意欲を削ぐという点で問題であろう。加えて、庶民が株式投資で1万円儲けた場合と大金持ちが株式投資で1億円儲けた場合で(NISA等を使わない場合)税率が同じなのも、累進課税の基本理念に反している。

ついては、利子配当や株式値上り益等も給与所得等と同じ扱いにして、合算して課税する事が望ましい。もちろん、激変緩和措置で、最初は金融所得部分には上限税率を設ける、といった配慮は必要であろうし、所得税を減税して後述のように資産課税を増税する、といった事も検討する必要があろうが。

・相続税の増税を是非
給料の格差は「頑張れば豊かになれる」という努力のインセンティブだし、投資で儲けようというインセンティブがあるから人々が投資をし、経済が発展するのだ。こうした事に伴う格差は、極端な場合を除き、「望ましい格差」だと言えよう。一方で、遺産を相続した子としない子の格差は、望ましい格差とは言い難い。たまたま運良く金持ちの子に生まれたから豊かになる、というだけで、経済発展に貢献しないからだ。それなら、相続税で格差の是正を図るべきである。

相続税は働く意欲を阻害しないのみならず、消費意欲を減退させず、痛税感も薄い。棚からぼた餅が落ちて来たが、期待していたよりは小さかった、というだけの事だからである。

特に筆者が強く主張するのは、配偶者も子も親もいない被相続人の遺産を兄弟姉妹が相続する場合である。妻や子に遺産を遺すために頑張る人はいるだろうが、兄弟姉妹に遺産を遺すために頑張る人は稀であろうから、勤労意欲も削がないし、相続人が単に幸運だ、というだけのことなので、痛税感は小さいであろう。

理論的な支援材料としては、公的年金は現役世代が高齢者を支えるシステムだ、
という事である。被相続人が生前受け取っていた年金は、他人の子が支払った年金保険料が配られたものである。それならば、使い残した分は後の世代のために国庫に戻すべきであろう。

生涯未婚者や子供のいない夫婦が増えている現状を考えると、数十年後には配偶者も親も子もいない被相続人が激増するであろうから、彼らの遺産が国庫にはいれば、財政収支を大きく改善してくれるに違いない。

・固定資産税も、東京一極集中是正の観点から必要
視点は異なるが、資産課税という点からは、固定資産税の増税を提唱したい。土地代が高い大都会を住みにくくして、東京から地方への企業や労働力の移動を促し、東京一極集中を緩和すると同時に地方創生の動きを促進しよう、というものである。

固定資産税が払えない高齢者が住み慣れた土地を追われるのは可哀想だ、という事であれば、「毎年2%ずつ土地の共有持分を政府に納税する。高齢者が他界した時点で、不動産を売却し、売却代金を共有持分に応じて政府と相続人に分配する」といった対策を検討すれば良いであろう。

東京一極集中は、通勤地獄等々の問題も深刻であるが、大地震等の災害の際の被害を拡大させかねないので、その観点からも早期に緩和すべきであり、「価格メカニズムによる東京からの企業や人の流出」を促す税制の早期導入が求められる所である。

(3月5日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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