食べ放題の店が儲かる理由を考える

2017/12/08

(要旨)
■企業のコストには固定費と変動費がある
■2人前の値段で3人前食べる客は歓迎される
■客が満足して客席の稼働率が上がると儲かる
■ビュッフェ式だとコックがフル稼動出来る
■食べ放題の店の客は、元をとろうと頑張るな

(本文)

食べ放題の店は、大食いの客ばかり来る。店にとっては有り難くない客ばかりを集める「奇妙なビジネスモデル」なのに、結構儲かっているようだ。その理由について考えてみた。

■企業のコストには固定費と変動費がある(初心者向け解説)
企業のコストの中には、売り上げが増えると増えるコストと、売り上げと関係ないコストがある。前者は材料費等で、変動費と呼ばれる。後者は正社員の給料、店を借りる費用等で、固定費と呼ばれる。

レストランでは、客がゼロだと固定費分だけ赤字になる。売上も変動費もゼロだからである。客が一人来ると、客の食べた料理の値段(売上)から変動費を引いた金額だけ赤字が減る。この差額を「粗利益」と呼ぶ。ある程度客が来ると赤字が黒字に変わり(粗利益が固定費を上回る)、それ以降は利益が増えていくので、その転換点のことを「損益分岐点」と呼ぶ。

■2人前の値段で3人前食べる客は歓迎される
一般に、レストランの変動費はそれほど高くないと言われているので、本稿では普通のレストランの定食が1500円、うち変動費が500円だとしよう。残りの1000円は固定費を回収していく「粗利益」である。

入場料3000円の食べ放題の店について考えてみよう。客は、メニューを見ながら食べたいだけ注文する。平均して客1人当たり、1500円の定食を3人前食べるとしよう。客は大満足であるが、店も大満足なのである。

3000円の売上に対し、変動費は1500円であるから、粗利益は1500円なのである。客が3人前食べても、人件費等のコストが3倍かかるわけではなく、3倍かかるのは変動費部分だけであるから、2人前の料金を払ってもらえれば十分に儲かるのである。

■客が満足して客席の稼働率が上がると儲かる
飲食店の損益に決定的に重要なのは、客席の稼働率である。満席にならない間は、客が一人増えるたびに売上マイナス変動費だけ利益が増える(損失が減る)からである。

したがって、食べ放題の店は客の満足度が高く、客が大勢来店するということになれば、店の利益に大きく貢献する。2人前の料金で3人前の料理を食べられた満足感から再度来店する客、口コミで来店する客などが増えれば、店は大満足なのである。

■ビュッフェ式だとコックがフル稼動出来る
以上は、客がメニューを見ながら食べたい物を注文し、腹一杯になるまで何人前でも注文出来る、という店について論じたものである。しかし、食べ放題の店には別の形態もある。店の真ん中に大皿があり、大量の料理が置いてあり、客が自由に取って食べる、というものである。この方式では、上記がすべて当てはまるのみならず、上記に無いメリットも数多く店が享受できるのである。

まず、誰でも思いつくのが、注文をとり、料理を皿に盛り付け、客席まで運ぶ手間がかからない。新入社員が注文を取り間違えて作り直す事も無い(笑)。しかし、メリットはそれに止まらない。

上記の店ではコックが1人前ずつ料理を作るが、ビュッフェ店ではコックが一度に20人前の料理を作る。1人前作るのと20人前の料理を作るのでは、手間が20倍かかるわけではない。ビュッフェ店のコックは「規模の利益」が享受出来るのである。

上記の店では、客が注文してからコックが料理を作るので、コックは昼食時と夕食時しかフル稼働出来ないが、ビュッフェ店では提供する料理を店が決めるので、コックは朝からフル稼働出来る。

提供する料理を店が決める、という事のメリットは、今ひとつある。上記の店では、客が何を注文するかわからないから、メニューにある料理を作るために必要な材料を一通り準備しておく必要があり、結果として廃棄も多くなるが、ビュッフェ店では必要な材料だけを仕入れれば良いので、無駄がない。しかも、少品種の材料を大量に仕入れるので、値引き交渉も可能かも知れない。

■食べ放題の店の客は、元をとろうと頑張るな
以上、店の視点で論じて来たが、ここからは客の視点で論じよう。まずは、「3000円で4500円分の料理が食べられるから、ビュッフェ店に行く」という選択をしない事だ。定価が4500円分の料理と言っても、満足出来るか否かは別である。人気店であっても辛い食べ物が嫌いな人は辛い物を得意とする店に行くべきではない。3001円分以上の満足が得られるか否かで店を決めよう。

それ以上に重要な事は、店に入ったら、払った料金のことは忘れよう、という事である。店に払った金は、戻って来ないのだから、今後の自分の幸せだけを考えて行動しよう。たとえば、予想外に早く満腹になったとしても、「元を取る」ために無理して食べるべきではない。無理して食べても払った金は戻らないのだから。極端な場合、店の料理が口にあわないかも知れない。その場合には、食べずに帰宅してお茶漬けを食べよう。

すでに払って戻って来ない入場料の事を、経済学でサンクコストと呼ぶ。「死んだ子の齢を数えるではなく、今後の自分の幸せを考えよう」という事を考える材料である。ビュッフェ店のみならず、私生活でもビジネスでも応用出来る範囲は極めて広いので、覚えて置きたい言葉である。

たとえば、本を買って、読み始めたがつまらない時「本を買った代金が勿体無いから最後まで読む」という人は多いが、結果として「本を買った代金と読んだ時間の両方を損しただけだった」という事になるのである。心したいものだ。

(12月4日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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