5分で景気を知るなら月例経済報告

2017/09/08

(要旨)
・投資家ではなく、経営者の目線で景気を見る
・内閣府と日銀は、国内最高のエコノミスト集団
・3ページの「総論」と「主要経済指標」の景気動向指数を見る
・鉱工業指数、設備投資のグラフをチェック
・輸出数量指数、失業率のグラフもチェック

(本文)
・投資家ではなく、経営者の目線で景気を見る
景気を見る目的は数多くあるが、ここでは「会社の仕入れや投資などの判断に資する情報として見る」と「株式や為替の短期売買を行うために資する情報として見る」の二つに分けて考える。前者の目的と後者の目的では、必要とする情報が大きく異なる。前者への情報提供は「エコノミスト」が、後者への情報提供は「マーケット・エコノミスト」が主に行う。
月例経済報告は、前者の領域である。第一に、幅広い経済指標を万遍なく見渡し、過去の長期的な推移などを踏まえて大局的に現在の景気動向を把握するための材料であり、金融市場参加者が注目する経済指標が特に重視されているわけではない。第二に、月に一度しか作成されないので、「経済指標の発表と同時に値動きが発生する金融市場」での取引に用いるには頻度が少なすぎる。
したがって、本稿自体も、エコノミストである筆者が前者目的の読者に対して記したものである。

・内閣府と日銀は、国内最高のエコノミスト集団
日本のエコノミスト集団の中で、質量ともに圧倒的なのが内閣府と日銀である。内閣府は経済政策の、日銀は金融政策のために景気情報を必要としているのであるから、当然の事である。したがって、内閣府と日銀の景気認識は大いに尊重すべきである。
従って、今の景気を知るためには、内閣府の「月例経済報告」と日銀の「展望レポート」を見るべきである。どちらかを選ぶのであれば、毎月発表されている事、図表が充実している事、などから月例経済報告が優先されよう。
もっとも、内閣府や日銀の予測については、その時々の諸事情により虚心坦懐な予測ではない物が発表される場合もあるようだ。「目標を掲げたので、降参するような事は書けない」「効果絶大と主張して偽薬効果を保っているのだから効果が無いとは言えない」というように(笑)。
かつてはエコノミスト業務に注力している民間金融機関なども散見されたが、バブル崩壊後に余裕を失い、コストがベネフィットに直結しやすいマーケット・エコノミスト業務に軸足を移した所も多い。民間の調査レポートで景気を知ろうと思う場合には、金融政策に関する記述の少ないものを選ぶべきであろう。

・3ページの「総論」と「主要経済指標」の景気動向指数を見る
月例経済報告は、表紙に結論が明示してあり、若干の説明が3ページの総論部分に掲載されていて、「景気は全体としては緩やかに回復しており、内訳としては輸出が順調で個人消費が今一つである」といった程度のイメージが掴めるようになっている。その後、各論の記述が続くが、これは経済初心者にとっては冗長に感じられるであろう。
景気を5分で知るためには、とりあえず3ページの総論部分を見た上で、各論は見ずに、「主要経済指標」に進む。図表が数多く掲載されていて、月に一度図表集を眺めるだけで景気に関する一応のイメージは掴める筈である。
経済初心者にとって特にわかりやすくて重要なのが「(参考1)景気動向指数」の「一致指数」である。これは、景気全体と似たような動きをする経済指標を内閣府が10個ほど選び、それらの動きを「平均(実際の計算は若干複雑だが)」して作成している指数である。当然ながら発表のタイミングは個々の経済指標より遅く、従ってプロの間では注目度は高くないが、5分で景気を知るためには是非ともチェックしたい指数である。
これも注目度は低いが、「1.国民所得統計速報」に載っている「GDPギャップ」も、景気の状況を5分で理解するためには有用である。乱暴に言えば、マイナスならば日本経済が需要不足(景気が悪い)、プラスならば需要超過(景気が良い)と考えて良いだろう。

・鉱工業指数、設備投資のグラフをチェック
理論的にはGDPが重要なのだが、なぜか日本のGDP統計は振れるので、経済初心者がGDPを見ても困惑するだけに終わる場合が多い。それならば、鉱工業指数を見る方が遥かに有益である。生産が増えているか否かで景気の様子が想像できるのみならず、在庫が増えていれば景気に黄信号が点滅している可能性を示唆しているからである。なお、単月の在庫増減ではなく、数ヶ月分のデータで大きな流れを把握すべき事は当然である。
製造業・非製造業の設備投資(実質)というグラフも見ておこう。設備投資は金額が大きく、振れ幅も大きく、景気が良いと増え、増えると景気を一層拡大させる、重要な項目だからである。

・輸出数量指数、失業率のグラフもチェック
輸出入は、金額で論じられる事が多いが、景気との関係で圧倒的に重要なのは数量である。特に、輸出数量が増えれば国内生産が増えて景気が回復・拡大する原動力となるので、要注目である。
輸入数量指数は、円高で輸入数量が激増して国内生産を圧迫しているような時には要注目だが、国内の景気拡大に伴って増えている時には特に気にする事はない。
失業率は、もっとも直感的に景気を理解できる指標であるから、グラフでチェックしておきたい。もっとも、景気の転換点に於いては、景気の動きよりも失業率の動きが遅れる傾向にあるので、他の指標と併せて見る事が必要である。

(9月4日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
本コラムに掲載された情報には細心の注意を行っておりますが、その正確性。完全性、適時性を保証するものではありません。本コラムに記載された見解や予測は掲載時における判断であり、予告なしに変更されることもあります。本コラムは、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でお願いいたします。

コラム&レポート Pick Up