日銀のETF買い入れについて、問題点を検証する

2016/11/17
(要旨)
■株価操作と受け取られかねない・・・金融緩和の結果の株高は許容範囲
■日銀が大株主・・・運用機関が議決権を行使するので直接支配ではない
■株価形成が歪む・・・日経平均ETFからTOPIXにシフトすれば改善
■株安で日銀が損を被るリスク・・・国債保有もリスク
■出口での売りを焦る必要はない・・・準備預金に付利すれば良いだけのこと
■行き過ぎると、低浮動株比率銘柄がバブル化するリスク・・・あるいはチャンスに

 

(本文)
日銀は、大胆な金融緩和により2%のインフレ率を目指しているが、物価が思ったように上昇して来ないため、様々な手を次々と打っている。柱は長期国債の大量購入であるが、ETFに関しても、保有残高が年間約6兆円増加するペースで購入することとなっている。日銀としては、出来ることは何でもやる、という事であろうが、デメリットを指摘する声も多い。そこで今回は、日銀のETF購入に関して指摘されている各種デメリットについて考えてみたい。

 

■株価操作と受け取られかねない・・・金融緩和の結果の株高は許容範囲
日銀がETFを大量に購入すれば、株価の上昇圧力となる。しかし、主目的が金融の緩和であるならば、結果として株価の上昇圧力となる事は許されると理解すべきであろう。
同様の議論としては、金融緩和によってドル高円安になる事をどう考えるか、という事で黒田日銀総裁就任直後から行われていたが、国際的にも「金融緩和のための国債購入であれば、結果としてドル高になったとしても、為替操作とは見做さない」という事になっている。
為替レートがドル高円安になれば、米国等から苦情が来そうだが、上記の理由で、表立った苦情は来ていない。それと比べれば、株高になっても直接的に困る人はいないのだから、問題視する必要はなかろう。

 

■日銀が大株主・・・運用機関が議決権を行使するので直接支配ではない
日銀が大量のETFを購入すると、ETFの運用を管理する機関が大量の株式を保有することとなる。これが「実質的な日銀による企業支配につながりかねない」との懸念が聞かれる。
性悪説に立って疑い始めれば限がないが、日銀に企業を支配するインセンティブがあるだろうか?せいぜい「日銀OBを社外取締役にせよ」といった所であろうが、そんな露骨な事をすればマスコミ等々にバッシングされるに決まっているから、さすがに杞憂であろう。
スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードなどに沿った「指導」は、むしろ好ましいものと言え、企業支配との批判は的外れであろう。

 

■株価形成が歪む・・・日経平均ETFからTOPIXにシフトすれば改善
日銀が日経平均連動型ETFを大量に購入すると、株価に歪みが生じる可能性がある。日経平均採用銘柄の株価が割高になる、という事もあるが、銘柄によっては日銀の実質的な持ち株比率が高くなり、個別株の需給に大きく影響してしまう可能性があるからである。
しかし、日銀は日経平均連動型からTOPIX連動型へ運用の軸足を移すとされているので、こうした弊害は顕在化せずに済みそうだ。TOPIX連動型ならば、運用機関がすべての株式を少しずつ買えば良いからである。
「平均株価が割高になってしまう」という弊害は生じる可能性があるが、現状程度の株価水準であれば、PERから見てもPBRから見ても、歪んでいるとは言い難いであろう。今後の日銀の購入金額にもよるが、PERやPBRが割高になれば、その時点で方針を変更することも可能であるから、今から株価が上がりすぎる可能性を気にする必要は無いだろう。
「経営努力を怠っている企業の株価は下がるべき」という論者は多いが、日銀がTOPIX連動型のETFを購入したとしても、一般の投資家は経営努力を怠っている企業の株式を売却して経営努力に熱心な企業の株式を購入するであろうから、相対的な株価の関係への影響は軽微であって、株主から経営者へのプレッシャーが弱まるといった事を心配する必要は無かろう。

 

■株安で日銀が損を被るリスク・・・国債保有もリスク
「国債は安全資産であるが、株式はリスク資産である。通貨を発行している日銀が損をすれば、通貨の信用力が低下しかねないのだから、そんな危険な資産は持つべきではない」という批判も聞かれるが、それは的外れであろう。今や、長期国債も立派なリスク資産だからである。
株式は、配当利回りが高く、しかも値上がり益も狙い得る。インフレにも強い。万が一株価が暴落したら、100年でも持っていれば良い。配当利回りが1%以上あるならば、100年持てば回収できるであろう。
一方で、日銀が自分がインフレを狙っている(つまり将来の短期金利を上昇させようとしている)のに、マイナス金利の長期国債を大量に保有している。こちらは、「日銀の政策が成功すれば損をすることが確実」な資産である。株式の方が、よほど安心だと言うのは言い過ぎであろうか。
そもそも、日銀の債務超過という事は、それほど気にする必要は無い。日銀は日本経済にとって最良の政策を行ない、その結果として利益が出れば国庫に納付金として納め、赤字になれば納付を止め、債務超過になればその分だけ財政によって増資を引き受けてもらえば良いだけの話である。
「そんな事をしたら政府の財政赤字が増えてしまう」と心配する人もいるが、政府の借金が1000兆円から1010兆円に増えたからといって、誤差の範囲であろう。政府の借金が1000兆円ある事は問題であるが、それは本稿とは別の所で論じるべき話である。

 

■出口での売りを焦る必要はない・・・準備預金に付利すれば良いだけのこと
日銀が巨額の株式を持つと、出口戦略も問題となり得る。もっとも、GPIFが株式購入を続けるのであれば、そこに売る選択肢があろう。そうでなければ、相場を崩さないように焦らずに時間をかけて売っていけば良い。
インフレ率が2%を超え、日銀が金融を引き締めたいと思った時に、巨額の株式を保有していると、その分だけ資金が市場に放出されたままとなってしまうから、これを回収する事が必要になる。しかし、その場合でも焦る必要はない。
まずは保有している国債を全部売ることである。日銀の保有株式が流通現金量と必要準備預金額の合計を下回っている限り、これで十分である。万が一上回ってしまっても、超過準備預金に少し高めの付利を行なうことで、世の中に出回る資金は十分に回収できるはずである。
それ以前に、日銀の政策が成功して出口戦略が必要になる頃には、株価が高騰しているであろうから、高値で売り抜けて大いに利益を稼げばよい。長期国債の売却損を株式の売却益で補えるのであれば、まさに「分散投資」の成果とさえ、言えるかも知れない。

 

■行き過ぎると、低浮動株比率銘柄がバブル化するリスク・・・あるいはチャンスに
もちろん、リスクが無いわけではない。浮動株比率の低い銘柄は、日銀の定期的な買いによって需給が逼迫し、割高になりかねないのである。特に、インフレ率がなかなか高まらず、日銀のETF購入が長期化すると、日銀保有株式の時価総額に占める比率が上昇していくので、そうした可能性は高まって行くであろう。
普通に考えれば、品薄株が割高になれば、売り注文が出てくるので、価格の歪みは調整されるであろう。しかし、場合によっては売り注文ではなく買い注文が出てくる可能性も否定出来ない。「来月以降も日銀の買いが続くとすれば、品薄株が一層品薄になり、価格が高騰するはずだ」という思惑が拡がりかねないからである。
日経平均採用銘柄の場合、そのリスクは小さいであろう。弊害が顕在化した段階で日銀が「日経平均連動ETFを売ってTOPIX連動型ETFに乗り換える」と宣言した途端、当該銘柄は暴落しかねないからである。極端な場合には、品薄を理由に日経平均採用銘柄から外される可能性もある。その場合にも暴落するであろう。そうしたリスクを負ってまで投機に走る投機家は少ないかも知れない。
そうであれば、投機家が狙うのは、日経平均に採用されていない、比較的小型のTOPIX銘柄で、浮動株比率の低い銘柄であろう。そうなると、今からそうした銘柄を仕込んでおく投資家が出てくるのであろうか。今後の推移が注目される。
(TIW経済レポート 11月7日より転載)
久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
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