ヘリコプター・マネーで株価は上がるのか?

2016/09/06
(要旨)
・ヘリコプター・マネー(以下ヘリマネと呼ぶ)という言葉は、様々な意味に使われているので、定義を明確化しないと議論が混乱する。
・ヘリマネを「ゼロ金利の永久国債を日銀が引き受けて、政府の財政赤字をファイナンスする事」と定義するならば、実体経済には毒でも薬でもない。
・ヘリマネが株価を押し上げる「偽薬効果」が期待される。

 

(本文)
・ヘリマネの定義を明確化する必要
ヘリコプター・マネー(以下、ヘリマネ)を巡る論議が盛んである。しかし、論者により「ヘリマネ」の定義が異なっているので、議論が混乱している。まず、日銀自身が札をばら撒くという事は無い。日銀は「金を貸す」ことは出来ても、「金をあげる」ことは出来ないからである。したがって、仮にヘリコプターから札束をバラ撒くとしても、それは政府が日銀から借りた金をバラ撒くということになる。
実際には、ヘリコプターから現金をバラ撒くわけではなく、政府の財政赤字を日銀がファイナンスする事になるが、その方法についても「日銀が普通の国債を引き受ける」「日銀が政府の言いなりになる」「ゼロ金利無期限国債を日銀が引き受ける」といった方法がある。
政府が普通の国債を引き受けるだけでは、単なる国債の日銀引き受けであって、「ヘリマネ」とは呼べないであろう。しかし、「日銀が政府の言いなりになって、無制限に国債を引き受ける」のであれば、それはヘリマネと呼び得よう。実際、そうした意味で用いている論者も多い。理屈の上では、それも有りだと思われるし、実際に戦前の日本では軍部の言いなりであったわけだが、現在の民主主義日本において、超インフレのリスクを冒してまで日銀に無制限に紙幣を印刷させる(更には意図的に超インフレを起こして過去の借金を帳消しにする)政府が出現するとは思われない。
そこで、現実的と言われているのが「ゼロ金利の永久国債を日銀が引き受ける」という定義である。

 

・理屈上は、ヘリマネの影響は殆ど無いはず
これには説明が必要であろう。経済学理論によれば、政府が借金をしていると、国民は「政府はいつか借金を返すので、その時に増税するだろう。増税されても困らないように倹約して貯金しよう」と考えるので、消費が伸びず、景気が良くならない。しかし、無期限の国債を日銀が引き受ければ、政府は借金を返済する必要がなくなるので、将来の増税を気にせず消費が出来る、というわけである。
しかし、経済学者の理屈はともかくとして、将来の増税を気にして貯蓄に励んでいる人は希であろうから、永久国債にしても効果は見込まれない。しかも、日銀がゼロ金利の永久国債を大量に保有していると、日銀は収入が得られず赤字になり、赤字が続くと倒産の噂も出かねない。そうなれば、政府が日銀を支援せざるを得ず、支援のために増税することにもなりかねない。それでは何のためにヘリマネを採用したのかわからない。

 

・そもそも今困っているわけではないので、ヘリマネは不要
そもそも、政府が資金調達に困っていないのであるから、わざわざヘリマネをする必要は無い。「政府が巨額の借金を抱えているので、日銀が国債を買わなくなったら、投資家は政府の破産可能性を考えて誰も国債を買わない」という懸念は、現状では的外れである。もしも銀行が政府の破産可能性を現実問題として意識しているのであれば、日銀に準備預金をする筈が無いからである。政府が破産する時には日銀も破産するので、準備預金は国債と同程度に危険なのである。

 

・しかし、実際には偽薬効果が期待できるかも
黒田日銀総裁が就任した時、大胆な金融緩和を宣言した。その時に市場関係者は「大胆な金融緩和が実施されれば、株高、ドル高になるはずだから、株やドルを買おう」と考えて、買い注文を出したので、実際に株とドルが値上がりした。実際には金融緩和をしても世の中に資金が出回る事は無かったので、理屈上は株やドルが値上がりする事は無いはずだったのだが、人々(筆者は黒田信者と呼んでいる)がドルや株を買ったのでドルや株が値上がりして景気が回復したのである。
医者が患者に小麦粉を渡して「高い薬だ」と言うと、病気が治ってしまう場合がある。「偽薬効果」である。黒田日銀総裁の大胆な緩和もこれと同じで、実際に効くはずの無いもので効果が出たわけである。
市場では「ヘリマネは大胆な金融緩和である」と理解されているようなので、ヘリマネが導入されれば、再び大規模な偽薬効果が得られるかもしれない。
副作用を心配する向きもあろうが、日銀が政府の言いなりになるのでなければ、副作用は小さいであろう。ヘリマネを導入したとしても、インフレが懸念される際に金融を引き締める事が許されるならば、実害は生じないからである。
「毒にも薬にもならない小麦粉であるが、偽薬効果が発揮されるかもしれない」のがヘリマネだとすれば、試みる価値は充分にあろう。
もっとも、実際に日銀がヘリマネを採用するか否かは、難しい判断であろう。そもそも「日銀は追加緩和を行なわない」という可能性もある。過大な期待は持たずに政府・日銀の判断を見守りたい。
(TIW経済レポート 8月9日より転載)
久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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