スパークスのまいこばなしIFIS出張版 第2号 「期待がかかる隠れたフィンテック分野~不法な株取引を検出する人工知能~」

2016/03/08

「フィンテック(FinTech)」の隠れた分野の技術

最近、「フィンテック(FinTech)」という言葉を耳にするようになりました。フィンテックとは金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、IT技術を用いた金融の技術革新のことです。特に、決済や送金、口座管理、個人事業主の経理、小口の融資などの分野で大きな技術革新が見られます。一方でこのフィンテックには、まだあまり注目を集めていないものの、非常に期待がかかっている隠れた分野もいくつかあります。そのうちの1つに、不法な株取引を人工知能で見つけ出す技術があります。ここではこの技術に関わる学術研究を2つ紹介します。

①インターネットの書き込みから株価操縦を目的としたものを、人工知能を用いて自動的に探す技術

1つ目は、とても人間には読みきれない膨大な量のインターネット掲示板の書き込みの中から株価操縦を目的としたものを、人工知能を用いて自動的に探す技術の研究です。東京大学大学院工学系研究科の松尾豊准教授の研究室による研究*1では、インターネット掲示板に書き込みを行う人たちの中から、通常ではありえない異常な書き込みを行う人を人工知能で見つける技術を提案しました。さらに、この技術と株価のデータや適時開示情報を組み合わせれば、重要な情報が出ていないのに株価が乱高下し、それを誘導している恐れがあるインターネット掲示板への書き込みを見つけることが可能であると主張しました(図1)。このように人工知能によって自動的に抽出された書き込みを実際に見てみると、株価操縦を目的とした書き込みの疑いがあるものだったということです。昨年は、インターネット掲示板を使った株価操縦事件が複数摘発されていますが、このような技術と無関係ではないかもしれません。この論文によると、人工知能を用いたインターネット上の犯罪捜査技術はすでに多くありますが、インターネット掲示板やLINE、Facebookなどのソーシャルネットワーク上の異常な書き込みを見つけ出す技術はまだ少ないという事で、今後の技術向上による取締り強化が期待できる分野です。

 図1:インターネット掲示板の書き込みの中から株価操縦を目的としたものを自動的に探す技術の概要(出所:*1)

図1

②取引所に集まる注文データから異常な取引を、人工知能で自動的に探す技術

2つ目は、取引所に集まる膨大な注文データから異常な取引を、人工知能で自動的に探す技術です。東京大学大学院工学系研究科の和泉潔教授の研究室、鳥海不二夫准教授、および東京証券取引所の親会社である日本取引所グループの共同研究*2では、膨大な注文データをベクトルとよばれる抽象的な位置情報に変換し、注文データが通常集まっている場所から離れた場所に位置する注文データを、異常取引として見つけ出す技術を提案しました(図2)。過去に摘発されたインサイダー取引事件があった銘柄の、その不法取引が行われた日の多くの注文データは、通常集まっている場所から統計的有意に離れた場所に位置しており、不法な取引を探し出す最初の振るい分けに使えると主張しました。異常な取引が即、不法であるわけではありませんが、どこから調べるのかの足がかりを見つける技術として期待されます。

図2:膨大な注文データから自動的に異常な取引を探す技術の概要(出所:*2)

図2

このように、近年、不法な取引を検出する人工知能技術は進歩しています。不法な取引には必ず、不法な価格で取引の相手をさせられた被害者がいます。不法な取引を行わないすべての投資家は、常にこの被害者になってしまう可能性があります。言うまでもなく、法律を守っているすべての投資家にとって、不法な取引を締め出すことは有益であり、不法な取引をいち早く見つけ出すこのような技術の進歩は歓迎されるものです。これらの技術がさらに進歩することに期待したいと思います。

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*1 宮崎邦洋、松尾豊:「株式掲示板におけるユーザ行動異常検知を用いた相場操縦発見手法に関する研究」、第15回 人工知能学会 金融情報学研究会 (2015年9月26日)

http://sigfin.org/SIG-FIN-015-03/

*2 宮崎文吾、和泉潔、鳥海不二夫、高橋諒:「混合ガウスモデルを用いた市場注文状況の変化の検出」、JPXワーキング・ペーパー Vol.3 (2013年3月19日)

http://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/working-paper/

 

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