吉川レポート(2018年5月)世界経済の見通しと米中摩擦

2018/05/10

吉川レポート(2018年5月)世界経済の見通しと米中摩擦

 

【ポイント1】2018年1-3月期の景気減速の背景

■世界経済は、2018年1-3月期にそれまでと比べて幾分減速が見られました。サービス業は相対的に堅調さを維持していますが、製造業の減速が目立ちました。スマートフォンやビットコインに関連したIT部品の需要・生産の盛り上がりや、米国のハリケーン被害からの復興需要が一巡したことが影響しているためと考えられます。

■一時的な要因でデータが実態以上に下振れた面も無視できません。1-3月期は多くの先進国で天候不順が経済活動に影響した他、ドイツでは賃上げを巡って一部の業種で2月にストライキが行われました。また、米国の1-3月期のデータに関する季節調整の歪みも指摘されています。ユーロ圏に関して言えば、企業の景況感など心理に関するサーベイ(ソフトデータ)が期待先行で過度に上振れしており、1-3月期に入って生産などの実際の経済活動を示すデータ(ハードデータ)と整合的な水準に修正されたとの見方も多いようです。

■また、1-3月期の景気減速は一部セクターでは供給制約の影響を受けていた可能性があります。例えば欧州委員会のサーベイ(1-3月期)をみると、製造業の生産の制約要因として需要の弱さを指摘する回答の比率はリーマン危機発生前の2006~2007年の水準よりも低くなっています。一方、労働力や設備の不足を訴える回答の比率が顕著に上昇しています。日本の景気ウォッチャー調査でも一部部品供給の遅れなどが指摘されています。マクロ的なデータでみても米、ユーロ圏、日本などでは、失業率は低下傾向、稼働率は高まっています。これらを考えると、供給過剰・需要不足が急速に強まる環境ではないと思われます。

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【ポイント2】4-6月期以降、世界経済は回復に向かう公算大

リスクは米中摩擦の波及効果

■続く4-6月期以降は供給を回復させる動きの中で、雇用ー所得ー消費のサイクルや設備投資の増加が需要をサポートする可能性が高いと思われます。米国を中心に財政政策もプラスに働き始める見通しであり、世界景気は回復に向かうと考えられます。

■こうした中、世界にとって注視すべきリスクは米中の貿易摩擦です。米国は通商法301条に基づく対中制裁措置として中国からの輸入品500億ドルに対する25%の関税賦課の検討手続きに入ったのに加え、トランプ大統領はさらに1,000億ドル程度の対象規模拡大について通商代表部(USTR)に検討を指示しました。一方、中国も米国からの輸入品500億ドル分に対して関税をかける方針を表明しています。

■米中貿易摩擦は他国にも波及効果をもたらします。例えば中国の対米輸出のうち、実際に中国の付加価値(企業収益ないし労働者の所得)になっている部分は5割弱であり、残りは日本、韓国など中国に部品などを供給している国々の生産物が中間投入として使われています。このため、米国が中国からの輸入品に高関税をかけ、その製品の需要や国際貿易が減少すれば、アジアを中心に国際的に影響が広がる可能性があります。

■国際産業連関表や経済協力開発機構(OECD)が作成した付加価値別貿易データを使って影響を試算してみました。直接的な影響だけみれば世界景気の腰を折るほどのインパクトではないようです。米国が1,500億ドル分、中国が500億ドル分の輸入品に関税をかけ、一時的にせよ当該品目の輸入が半減したと想定しても、米経済に与える影響は米国の場合で▲0.1%程度、中国側でも▲0.2~▲0.4%程度、日本も最大▲0.1%程度の影響にとどまるとみられます。因みに、韓国は▲0.2%、台湾は▲0.4%程度成長が押し下げられると試算されており、相対的に影響を受けやすいと考えられます。

■但しリスクケースとして、先行き不透明感から企業行動が慎重化して、グローバルに設備投資が2%程度抑制される、という条件を加えると、日米で▲0.5%強、中国は▲1%超の成長率低下となり、影響が広がります。保護貿易問題については、どの程度エスカレートするかに加え、問題がどの程度長引くか、企業マインド・設備投資への間接的な影響がどの程度広がってくるか、などが重要と考えられます。
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【今後の展開】政治リスクに留意が必要

<政治リスク1:米中貿易摩擦・北朝鮮問題>

■ 5~6月にかけては3つの政治リスクに留意しておく必要がありそうです。まず、米中貿易摩擦、北朝鮮問題です。米通商代表部の発表、トランプ大統領の発言から、通商法301条に基づく対中制裁関税の決定、米朝首脳会談共に6月初が当面の期限として設定されています。

■トランプ政権の重要な外交課題の節目が6月初に集中している背景には、米議会が夏季休会に入る前の7月中に成果を挙げ、11月の中間選挙での支持率向上を図る意図があるとみられます。米国との「貿易戦争」や北朝鮮の混乱を避けたい中国も米国との妥協点を探っています。中国のIT産業育成策に対する米国の批判や、北朝鮮の非核化のプロセスを巡る意見対立など、予断を許さない部分はありますが、①貿易問題は、中国が輸入を増やすなど不均衡是正のため当面可能な施策をまとめた上で、産業政策の在り方については継続的に協議するということで一旦妥協、②米朝首脳会談については実施の方向に進むケースをメインシナリオとしておきたいと考えます。

<政治リスク2:中東情勢と原油>

■トランプ政権は5月8日、イラン核合意から離脱し、対イラン経済制裁を再発動することを発表しました。実際の制裁実施までには90~180日の猶予期間があるものの、欧米の民間企業はイランとの貿易・金融取引に慎重になるとみられます。過去の事例を参考とすると、制裁再強化を受けてイランからの原油供給が日量100万バレル前後減少する可能性があります。サウジアラビアや米シェールオイルの供給が徐々に増加してカバーするため、原油高が一方的に継続するとは予想されませんが、原油価格が高止まる中で月次のインフレ指標が一時的にせよ上振れると長期金利に影響が出る可能性があり、注視しておきたいところです。

<政治リスク3:国内政局>

■ 9月の自民党総裁選での安倍首相再選に関する不透明感が高まっても、自公連立政権が継続する可能性は高く、日銀の金融政策は大きく変わらないと思われます。しかし、経済再生重視が明確な安倍首相と比べ、後継政権は財政支出に消極的で、円レートへの姿勢が不明確となる可能性があります。その場合、消極財政と円反発による名目成長率鈍化(0.5%程度か)とそれに対する外国人投資家(株式)の反応が注目されます。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

(2018年 5月10日)

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