FRBのバランスシート縮小~基本的な仕組みを考える(その1)

2017/05/17

市川レポート(No.391)FRBのバランスシート縮小~基本的な仕組みを考える(その1)

  • 現時点で、FRBの勘定科目や政府・民間銀行のバランスシートがどう変化するかの整理は有益。
  • 財務省証券の再投資は償還年限の短いものを対象としつつ段階的に縮小していくことが合理的。
  • MBSの残高管理は困難だが、財務省証券と併せて再投資終了なら負債側で準備預金が減少。

現時点で、FRBの勘定科目や政府・民間銀行のバランスシートがどう変化するかの整理は有益

今回は、市場で関心の高まっている米連邦準備制度理事会(FRB)の保有資産(バランスシート)縮小について、その基本的な仕組みについて考えます。4月5日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(3月14日、15日分)では、参加者がバランスシート縮小について本格的な議論を行い、その大半が再投資政策の変更は今年終盤に適切になる可能性が高いと判断したことが明らかになりました。

ただ、再投資の終了を段階的に行うか一度に行うかなどは結論が出ておらず、市場への伝達方法を含め、詳細は今後明らかになると思われます。そこで現時点では、FRBがバランスシートを縮小した場合、FRBの勘定科目や、他の経済主体(政府や民間銀行)のバランスシートがどのように変化するのか、一般的に想定されるケースを整理しておくことは有益と考えます。

財務省証券の再投資は償還年限の短いものを対象としつつ段階的に縮小していくことが合理的

図表1はFRBのバランスシートです。FRBは現在、「資産の部」における「財務省証券」の償還金を財務省証券に再投資し、同じく資産の部における「連邦政府機関債」と「住宅ローン担保証券(MBS)」の償還金をMBSに再投資することによって、資産規模を約4兆5,000億ドルに維持しています。これらの再投資が終了すれば、財務省証券などの勘定科目の残高は減少するため、バランスシートは縮小に向かいます。

財務省証券については、2018年と2019年に大量償還を迎え、償還額はそれぞれ約4,256億ドル、約3,626億ドルに達します(図表2)。2016会計年度の米財政赤字が約5,874億ドルだったことを勘案すると、再投資の終了を一度に行うことの影響は極めて大きくなる恐れがあります。そのため財務省証券の再投資は、償還年限の短いものを対象としつつ、段階的に縮小していくことが合理的と思われます。

MBSの残高管理は困難だが、財務省証券と併せて再投資終了なら負債側で準備預金が減少

次にMBSについて、ニューヨーク地区連銀のデータによれば、期間30年のMBS残高が約1兆5,591億ドル、期間15年が約2,019億ドル、その他が約80億ドルとなっています(5月10日時点)。なおMBSには、米長期金利の低下などで原資産の住宅ローンに借り換えが生じた場合、期限前に償還される仕組みがあります。そのためMBSは財務省証券と比べ、事前に償還期日が確定していない分、残高管理が難しく、FRBは金利動向を踏まえてMBSの償還予測を行うことになります。

仮に財務省証券とMBSについて、再投資の終了が段階的に行われることになれば、FRBのバランスシート上、財務省証券などの勘定科目の残高が減少します。これと同時に「負債の部」における「準備預金」の残高が減少することで、「資産合計」と「負債純資産合計」が等しくバランスすることになります(図表1)。次回のレポートでは、このようなFRBのバランスシート変化が、他の経済主体(政府や民間銀行)のバランスシートにどのような影響を及ぼすかについて考えます。

 

170517図表1170517図表2

 

(2017年5月17日)

市川レポート バックナンバーはこちら

http://www.smam-jp.com/market/ichikawa/index.html

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
市川レポート 経済・相場のここに注目   三井住友DSアセットマネジメント株式会社
主要国のマクロ経済や金融市場に関する注目度の高い材料をとりあげて、様々な観点から分析を試みます。
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を目的として作成されたもの又は金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。本資料を投資の目的に使用したり、承認なく複製又は第三者への開示等を行うことを厳に禁じます。
●当資料の内容は、当社が行う投資信託および投資顧問契約における運用指図、投資判断とは異なることがありますので、ご了解下さい。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

このページのトップへ