日本株を取り巻く投資環境の変化(その3)

2015/06/17

市川レポート(No.94) 日本株を取り巻く投資環境の変化(その3)

  • 最終目標はROEを高めることではなく、企業価値を向上させること。
  • 予想キャッシュフローの増加が見込まれる投資判断や資本政策がより重要。
  • JPX日経インデックス400は一連の制度改革の浸透度合いを測る指標に。

 

最終目標はROEを高めることではなく、企業価値を向上させること

 ここまで「日本株を取り巻く投資環境の変化」と題し、(その1)では、過去の日本株投資がリスク・リターンでみた効率性の点で米国株投資に劣っていたため、これが長らく日本株を慎重にみる投資家の心理に影響していた可能性があるとのお話しをしました。また(その2)では、株式投資に関連する制度改革が政府主導で一気に進み、投資効率の改善につながる期待が強まった点について述べました。今回の(その3)では、良好な株式投資の環境が整いつつあるなかで、最終投資家は今後、どのような点に注目していけばよいのかについて考えてみます。

 機関投資家は「スチュワードシップ・コード」に基づき、企業の成長を対話によって促し中長期的な投資リターンの拡大を図ります。一方、企業は「コーポレート・ガバナンス・コード」に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に努めます。両者の取り組みの成果をみる上での1つの指標が自己資本利益率(ROE)です。企業が株主の拠出した資本を効率よく使って利益を上げることができればROEは上昇します。しかしながら企業や機関投資家の目指す最終的な目標はROEを高めることではなく、企業価値を向上させることです。 

予想キャッシュフローの増加が見込まれる投資判断や資本政策がより重要

 ROEはデュポンシステムによって、①売上高純利益率、②総資本回転率、③財務レバレッジに分解できます(図表1)。①は売上高に対する利益の割合、②総資本(株主資本と負債の合計)に対する売上高の割合、③は株主資本に対する総資本の割合を表します。例えば企業が借り入れ(負債)を増やして、自社株買いを行えば、③の財務レバレッジが上昇するため、計算上ROEは上昇します。しかしながらこれだけで必ずしも企業価値の増価につながるとは言えません。企業価値とは、企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフローを資本コスト(株主と債権者が企業に要求する最低限のリターン)によって現在価値に割り引いたものです。将来の予想キャッシュフローの増加が見込まれるような企業の投資判断や資本政策が行われない限り、技術的なROEの上昇だけでは、最終投資家にとって中長期的な投資リターンの拡大は期待できないと思われます。

JPX日経インデックス400は一連の制度改革の浸透度合いを測る指標に

 ROEは資本の効率性をみる上で有効な指標ですが、ROEの改善だけにとらわれることなく、それが中長期的な企業価値の向上につながるか否かの視点を持つことが大切であると考えます。また2014年1月から算出が開始されたJPX日経インデックス400の今後にも注目したいと思います。この新しい指数は、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、一定基準を満たした400銘柄で構成されています。投資家や企業がこの先、資本効率性や継続的な企業価値の創出に強く意識を向けるようになれば、JPX日経インデックス400は積極的に活用されると思われ、それが一連の制度改革の浸透度合いを測る指標にもなると考えます。

150617 図表1150617 図表2 

 (2015年6月17日)

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